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妖女学園のこくりちゃん  作者: こんぐま
第4話 残暑のメロディー
24/61

3時間目 合いの手はタンブリン(3)

 こくりのツバメ騒動があった夜の事。

 晩御飯もお風呂も済ませて、みっちゃんは自分の部屋で宿題を終わらせていた。


「ねえ、みつこちゃん。そんなの良いから笛の練習を聞かせてよ」


「ダメだよ。ちゃんと宿題しないと授業についていけないもん」


「ええー」


 みっちゃんの宿題を邪魔する悪者は、夏休み前に絹蔦きぬつた家に現れた変異体のあやかし

 アライグマの姿をしたグマ子だ。

 グマ子はあれからみっちゃんの部屋にこうして居座っていた。


 みっちゃんに命を助けてもらった恩もあり、かなり大人しく……と言うか、懐いている。

 そして、グマ子のここ最近の楽しみは、みっちゃんのリコーダーの音を聞く事。


 今日はたまたま音楽室が使えたので、防音バッチリな音楽室で練習をしていたけど、普段のみっちゃんは家で頑張っている。

 そして、グマ子はみっちゃんが練習しているリコーダーの音が気に入り、毎日の楽しみにしていた。


 みっちゃんとしては、家で練習するとご近所さんにも聞こえるし、恥ずかしいのであまり吹きたくないようだが。


「クューン」


 不意に聞こえたてんぷらの鳴き声。

 だけど、聞こえても当然。

 何故なら、勉強机に向かって勉強するみっちゃんの膝の上に、てんぷらが丸まっているのだから。


 てんぷらは声を上げると、みっちゃんの膝の上から床に飛び降りて、その辺に放り投げられていたランドセルに頭を突っ込んだ。


「あ、てんぷら。そんな事したらダメだよ」


「ほら。てんぷらちゃんだって、アタシと同じで笛を聞きたいって言ってるわ~」


「……はあ。仕方ないなあ」


 みっちゃんは椅子から降りて、てんぷらをランドセルから離して、リコーダーケースを取り――――


「――あれ? 無い……。あれえ?」


 リコーダーをしまった筈のリコーダーケース。

 それが、何故かランドセルの中に入っていない。


 みっちゃんは首を傾げて、あれあれと呟き、今度は部屋の中を探し出す。

 しかし、学園から帰って来てからリコーダーケースを出した覚えも無いのだから、見つかる筈も無い。


「ええ~? なんで~? うーん…………」


 思い出すのは、今日放課後に練習をした事。

 あの時は間違いなく持っていて、時間も下校時刻が近づいていたから帰ろうと思い、そして片付けた。

 それから担任の先生が呼びに来て、そのまま……といった所で、ようやくみっちゃんは思い出す。


「リコーダーケースに入れた後、そのまま置いて来ちゃった! もおおおお!」


 あの時、急ぐように音楽室を出て行ったので、リコーダーをケースごとすっかり忘れてしまったのだ。

 それを思い出し、みっちゃんは頭を抱えた。


「どうしたの?」


「クューン」


「リコーダーを音楽室に忘れて来ちゃったの。練習は出来無さそう」


 思い出すのは、今日の帰り道でお狐さまが言っていた言葉。

 お狐さまに自分から妖がいる所に行くなと言われて、まさにその機会が訪れている。


 何故なら、学園の七不思議の一つに“独りでに鳴るリコーダー”があるからだ。

 しかも、みっちゃん自身が以前こくりに出たと言っていたもの。

 そんな危険な場所に取りに行けるわけが無い。


 まさか、こんなに直ぐフラグが立つとは思いもよらなかったが、みっちゃんは取りに行かないと言う選択肢でそれを華麗にかわした。

 リコーダーを急いで取りに行く必要も無いし、まさに最善の策。

 しかし、その答えは、グマ子には残念なものだった。


「じゃあ、今日は聞けないじゃない」


 よっぽどショックなのか、グマ子が落ちこんで顔をしょんぼりとさせる。

 それを見て、みっちゃんも少し罪悪感に襲われて、グマ子の頭を撫でた。


「ごめんね。明日は忘れずに持って帰って来るから、今日は我慢してね?」


「……決めたわ!」


 グマ子が突然大きな声を上げて、ゆらりと宙で一回転する。

 そして、器用にガッツポーズのようなポーズをして、その瞳に闘志を燃やした。


「アタシが取ってくるわ!」


「ええええ!? あ、危ないよ! わたしが行ってる学園には“独りでに鳴るリコーダー”って言う七不思議があって――」


「七不思議だか七光りだか知らないけど、アタシは妖よ。何が来たって、綺麗にクリーニングしてやるわー!」


 みっちゃんは止めようとしたが、止まらなかった。


「――ああ! 待って!? それ絶対フラグだよ!」


 みっちゃんが叫ぶ中、グマ子は窓をすり抜けて外に出て行ってしまった。

 慌てて窓を開けてグマ子の姿を捜すも、既にその姿は見えなくなっていて、あるのはまだ若干暑い外の空気だけ。


「行っちゃった……」


 みっちゃんは呟くと、グマ子が無事に帰って来てくれる事を願った。

 だけど、結局この日は、いくら待ってもグマ子が帰って来る事は無かった。




 みっちゃんが心配で眠れない夜を過ごす中、芍薬しゃくやく寮で事件が起こっていた。


「音楽室の場所を聞きに来ただけなのに酷い! ぎゃあああああ!」


「こくりは眠たいのです。睡眠を邪魔しないで下さい」


 そう。

 芍薬寮で起こっている事件とは、音楽室の場所を聞きに来たグマ子が、“燐火りんか”でお仕置きされている事件。

 既に時刻は21時で、こくりは寝ている時間。


 これは、こくりの睡眠をさまたげてしまった事で起きた悲しい事件だった。

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