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妖女学園のこくりちゃん  作者: こんぐま
第4話 残暑のメロディー
23/61

2時間目 合いの手はタンブリン(2)

「ケガをしなくて良かったよ~」


「こくりは崖から落ちても華麗に着地出来ます」


「まあそう言うでない。美都子みつこ狐栗こくりの事が心配だったのだ。その気持ちをんでやりなさい」


 時刻は18時手前。

 騒ぎは収まり、二人と一匹は下校中。


 みっちゃんがお狐さまに頼んだおかげで、ツバメは窓から逃げて行き、こくりも無事に生還した。

 そして、こくりが先生から注意を受けて、ようやく帰路についた所だった。


「あ。今更なんだけど、他の人が見えてない時に、なんでわたしにはお狐さまが見えてたの?」


「む? 狐栗に聞いておらんのか?」


「言うの忘れてました」


「え?」


「儂のひげが入ったお守りがあるであろう?」


「ヒゲ……え? 抜け毛ってヒゲの事だったんだ」


 お守りは大事にひもにくっつけて、首からネックレスみたいにして提げていて、みっちゃんは胸元から取り出す。

 すると、それを見て、お狐さまは何やら納得と言いたげな表情。


「本来であれば、その髭は元々儂の体の一部だった故、見えるのは儂だけだっただろう。しかし、そこまで肌身離さず持っているとなると、霊感も高まる。今後は他の霊も見えてしまうだろうな」


「そうなの?」


 冷や汗を流して、みっちゃんはお守りをジッと見つめる。

 そして、ごくりと唾を飲み込んで、周囲をキョロキョロと見回した。

 しかし、周囲を見ても、目に映るのは下校風景。


 自分達と同じように下校途中のお姉さま方と、たまに目が合うだけだ。

 まったく妖なんて見える様子はない。


 みっちゃんがキョロキョロとした挙動不審な行動を終えると、お狐さまは話を再開する。


「儂の髭には強い“神力”が宿っておる。それは美都子を護る盾にもなるが、同時にあやかしつなげる副作用も出てしまうのだ」


「ふくさよう……?」


「つまり、それを持っていると、見たくなくても妖が見えるようになってしまうと言う事だ」


「ええええええ!? うそー!?」


「嘘では無い」


 嘘じゃ無いと言われても、周囲を見回しても何も見えなかったみっちゃんは、それが信じられなくてこくりに視線を移す。

 すると、こくりは相変わらずの眠気眼な無表情で頷き、お狐さまの言葉を後押しした。


 みっちゃんはそれを見ると、寒がっている人がやるように腕を組むようなポーズで、両手で腕をさする。

 顔は若干だが青ざめていて、それなりに怖がってしまっていた。


「うう~。この学園って妖がいるんだよね? 怖い妖にバッタリ会っちゃったらどうしよう?」


「安心せよ。この学園におる妖は基本は安全なのだ。それはこくりがこの入園した時に既に調査済みじゃ」


「そうだったんだ。あれ? でも、学園の七不思議の“動く人体模型”と“人体デッサンの少女”に襲われたよ?」


「あれは変態です」


「え? あ、うん。そうだね?」


「変異体と言うのは特殊でな。奴等が自身から表立った行動をせんと、儂等にもハッキリとは分からんのだ。だから、捜しても見つからん」


「えええええ!? じゃあ、やっぱり安心できないよー! 急に出てくるかもしれないもん!」


「変態と会った時は逃げれば大丈夫です」


「そんなあ……」


「案ずるでない。そこでそのお守りだ。そのお守りは元々が護る為の物。妖が見えるようになろうと、それで変異体を引き寄せる事は無い。それどころか、そうして今まで通りにしっかりと身につけておれば、近づいても来んだろう」


「そっかあ。良かったあ」


 みっちゃんはホッと胸を撫で下ろす。

 しかし、このお狐さま、人が……いや、狐が悪い。


「だが、逆に言ってしまえば、変異体などの害をなす妖が集まる場所に自らおもむき、お守りを外してしまえばたちまち襲われる。決して馬鹿な事を考えるでないぞ?」


「…………」


 お狐さまは真剣な面持ちで、と言うよりは、脅すような面持ちでみっちゃんに注意した。

 それを受け、みっちゃんが黙ってしまい、お狐さまは「うむうむ」と満足したように頷く。


 お狐さまからすれば、一応これもみっちゃんの為で、脅す事で悪い事を考えないようにしているのだ。

 しかし、こんなやり方は今風ではなく古臭いし、何より回りくどい。

 そしてなにより――


「怖くなったか? なあに、心配はいら――」


「それフラグって言うんだよ! 教えてくれるのはありがとうだけど、一言も二言も余計だよ!」


 ――完全なフラグ。

 6才児なみっちゃんでも分かる程に、近い内に同じ様な場面が起こる前フリ。

 みっちゃんが若干涙目で怒ると、お狐さまは冷や汗を流して一歩分後退る。


「う、うむ。すまぬ」


「みっちゃんはこくりが護るから大丈夫です」


「こくりちゃん……。かっこいい! きゃー!」


 流石はイケメン幼女5才児こくり。


 みっちゃんが黄色い声を上げて抱き付き、こくりは足を止めて受けとめて、いい子いい子と撫でてあげる。

 それを見て、下校途中のお姉さま方が微笑ましいと、クスクスと笑みを浮かべた。

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