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妖女学園のこくりちゃん  作者: こんぐま
第2話 きぬつたクリーニングへようこそ
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7時間目 妖退治出張サービス(4)

 幾つもある大きな業務用洗濯機に、見た事も無い機械。

 汚れた衣類や綺麗な衣類。

 色々な物があるお店の洗濯コーナー。


 こくりは今、瞳をしいたけに変えて十字を輝かせている。

 もちろんその顔は相変わらずの眠気眼な無表情。

 そんなこくりの側には、ニッコニコなみっちゃんの顔。


「これは何ですか?」


「それはワイシャツの仕上げ機だよ」


「仕上げ機ですか?」


「ほら。こうやって~」


 みっちゃんが仕上げ機を慣れた手つきで動かして、ワイシャツをプレスしてしわを無くして綺麗にする。

 それを見て、こくりのシイタケもご満悦だ。


「凄いです」


 こくりのメリハリのない声色もどこか興奮気味に聞こえなくもない。

 すると、みっちゃんも気分をよくして、他のプレス用の機械から始まり、染み抜き用の機械やらなんやらを実際に使って見せていく。

 そして、こくりとみっちゃんは周囲にいた従業員さんたちに微笑ましく見守られながら、あっという間に夕方になってしまった。


 そう。

 この二人、すっかりあやかしの事を忘れている。

 しかし、夕方を迎えた時に、追加で忘れていた存在が二人の前に現れた。


狐栗こくりや、ここにおったのか」


「……あ。パパです」


 追加で忘れていた存在とは、こくりのパパのお狐さま。

 お狐さまは今までどこに行っていたのか、工場の外からやって来た。


「ちょいと店の方で妖の気配を強く感じたので、様子を見に行ったんじゃが、丁度洗濯した物を渡す所に出くわしてのう。その洗濯物から妖気を感じたので、それを受け取った人間の後ろをついて行っておったのだ」


「ストーカーは犯罪です」


「ストーカーでは無い。尾行じゃ」


「こくりには何が違うか分かりません」


「とにかく、尾行して来たのだが、妖本体はおらんかった。しかし、その洗濯物に呪いのたぐいがかかっておったので、そいつを消して来てやったわ」


「流石パパです。ストーカーのかがみです」


「尾行じゃ」


「す、ストーカーの……かがみ? ねえ、こくりちゃん。ストーカーって何?」


 みっちゃんは純粋でストーカーを知らない。

 と言うわけでは無く、この質問には理由がある。

 それは、お狐さまの声がみっちゃんには聞こえていないと言うもの。


 お狐さまは今は透明になっていて、それが分かるのは所謂いわゆる霊感を持つ者のみ。

 だから、こくりの隣に立っているみっちゃんには、こくりが独り言を言っているようにしか見えないし聞こえない。

 そんなわけで、何が何やらなみっちゃんは、こくりに質問したのだ。


「パパがストーカーです」


「尾行じゃ」


「え……? よく分かんないけど、もしかして、こくりちゃんのお父さんがここにいるの?」


「そこにいます」


 そこと言って、こくりはお狐さまに指をさす。

 しかし、みっちゃんの目には見えない。

 見えているのは、少し離れた先にある機会だけ。


「分かんない」


 みっちゃんは呟くと仲間外れな気持ちになって、しょんぼり顔になり、少しだけ肩を落とした。

 すると、こくりはみっちゃんの袖を軽く摘まんで引っ張る。


「みっちゃんのお部屋に戻ります。ここは大人が見てるから、パパが姿を見せれません」


「え? あっ。そっか」


 理由を聞くと、みっちゃんは笑顔になって、早速部屋に向かって歩き始める。

 しかし、この時、それを阻む者が現れてしまった。


「二人とも、ご飯出来たわよー!」


 二人を阻む者、それはみっちゃんのママだ。

 ママは二人を見つけるなり大声で呼んで、残酷にも行く手を阻んだのだ。

 しかし、みっちゃんには必殺技が残されている。


 その名は“後で食べる”。

 一般家庭でまれに使われる子供達の得意技。

 自分の好きな時間にご飯を食べる事が出来る伝家の宝刀。

 使いすぎるとママの逆鱗げきりんにふれてしまうが、子供だけが使える特権なのだ。

 だが、みっちゃんは一つ見落としてしまっていた。


「後で――」


「ご飯の時間です。ご馳走パーリーナイです」


「――っ!」


 そう。

 見落としていたもの、それは、こくりの存在。

 こくりはご飯と聞くなり、素早い動きを見せて、みっちゃんのママの許に歩いて行ったのだ。


 そしてその言葉には、こくりがたまに? 出す独特な変なセンスが飛び出していて、みっちゃんに炸裂さくれつする。

 どこで覚えたのかパーティーナイトの古い言い回し。

 そんなもの、初等部一年のみっちゃんが分かる筈もなく、思いきり首を傾げるしか出来ない。


「ご馳走パーリ……? あ。こくりちゃん……っ!」


「ご飯♪ ご飯♪ ご飯です~♪」


 ご機嫌なメリハリのない声色に、相変わらずの眠気眼な無表情がシイタケな瞳を覗かせる。

 こうなってしまえば、最早誰にも止められない。

 お狐さまは早々に諦めてこくりの後を追い、みっちゃんも必殺“後で食べる”が使えなくなってしまった。

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