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妖女学園のこくりちゃん  作者: こんぐま
第2話 きぬつたクリーニングへようこそ
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5時間目 妖退治出張サービス(2)

 変態、それは……では無くて、変異体、それは簡単に言えば人の欲から突然変異で生まれた“あやかし”である。

 こくりとお狐さまが言う“妖”とは、“おばけ”“幽霊”“妖怪”などの魑魅魍魎ちみもうりょうを全てひっくるめた呼び方。

 妖女学園の旧校舎に現れた動く人体模型は、その変異体の“妖”なのだ。

 と言う事を、お狐さまはみっちゃんに説明して、こくりはその間にピザを平らげた。


「ゲプ。ご馳走さまでした。濃厚な味わいのチーズでした」


「う、うん。良かったね、こくりちゃん」


「時に美都子みつこ。お主はまだ6つ、初等部の一年生であったな?」


「はい。そうですけど……?」


狐栗こくりと比べてと言うわけでは無いが、歳のわりには随分としっかりしておるな」


「そ、そうかな。えへへ」


「うむ。育ちがいのが分かる。きっとご両親の教育がいのだろう」


「ありがとうございます。えへへ」


 みっちゃんは突然褒められて照れ笑いをし、頬を染める。

 するとそれを見て、こくりは驚いた顔をした。


「みっちゃん」


「え? な、何?」


「ほっぺにチーズがくっついてます」


 違った。

 みっちゃんを見てではなく、ほおにチーズが付いているから驚いたのだ。

 驚く要素はよく分からないが、驚いたのだ!


「あ、ほんとだ」


 みっちゃんが頬についたチーズを取ってパクリすると、こくりは満足げな相変わらずの眠気眼な無表情でオレンジジュースを飲む。

 そして立ち上がり、キョロキョロと部屋の中を見始めた。


「どうしたの?」


「ありました」


「うん?」


 こくりがキョロキョロして見つけたのは、勉強机に置かれていた算数の教科書。

 あの日、旧校舎の教室に忘れられていた物と一緒だった。


「あの時の教科書です」


「え?」


「ほう。確かに使いこまれたしわや傷、それに今思えば匂いも同じじゃな」


「なんの話ですか?」


「いや、なに。先日、お主を助けたであろう? その日はお主を助ける前に、狐栗がこれで勉強しておったのだ」


 みっちゃんはなるほどと納得して、苦笑しながら少しうつむく。


「実は、あの日は一学期の最後のテストで良い点を取りたくて、旧校舎で勉強してたんです。でも、途中で眠くなっちゃって、保健室で眠っちゃって……」


「ふむ。それであのような時間に」


「はい。わたしの家は妖女のお嬢さま達と比べたらお金がないから、クラスで浮いちゃうんです。だから、勉強だけは頑張りたくて」


「なるほどのう」


 妖女学園に通う生徒は、その殆どが大企業や名家のご令嬢だ。

 みっちゃんは別にイジメを受けているわけでは無かったが、それでもやはり住む環境が違えば話が合わないし、疎外感そがいかんを感じてしまう。

 だから、友達も未だに作れず、それ故に年下のこくりに友達になってと言いだした経緯があった。

 名門に通わせてくれる両親の為にも、勉強だけは頑張ろうと思っている。

 この事を全部この場で話したわけでは無かったが、それでもお狐さまは何となく察した。

 しかし、こくりは別だった。


「そんなことどうでもいいです」


「え? あ、うん。そ――」


「それよりこれは今日の晩御飯のおかずですか?」


「――え? おかず……?」


 若干ショックを受けながら、こくりに視線を向けたみっちゃん。

 しかし次の瞬間に、こくりが手にしていたものを見て、そのしょんぼりめな顔は驚愕きょうがくへと大変身。


「てんぷらあああああ!?」


「てんぷらですか。じゅるり」


 こくりが持っていたもの、それは、絹蔦きぬつた家のマスコットのたぬきだった。

 狸の名は“てんぷら”。

 おかずでは無い。


 こくりはてんぷらの四つの足を何処から持って来たのか縄で縛りつけにして、モフモフな尻尾を掴んで持ち上げていた。


「てんぷらはうちのペットだよ! 食べちゃダメ!」


「ペットですか? それなら仕方ないです」


 いくら自由人なこくりでも、ペットと聞けば聞く耳を持ってくれるようだ。

 残念そうに相変わらずの眠気眼な無表情で、てんぷらの縄を解いて野に返した。

 すると、てんぷらは急いでこくりから離れて行き、みっちゃんの腕の中に飛び込む。


「てんぷらー。怖かったねえ。もう大丈夫だよー」


「クューン」


「――っ。鳴きました。歴史的瞬間にこくりは立ち合いました」


「大袈裟だよ。ねえ、てんぷら~」


「クューン」


 てんぷらが鳴くと、それを聞いてこくりが興奮して、その相変わらずの眠気眼な無表情の瞳を最早お決まりのシイタケにする。


「凄いです。こくりはパパが作ってくれた鍋の具材でしか、たぬきを見た事が無いから新鮮です」


「くどく言うけど、食べないでね?」


「クューン」


「許さぬっ。許さぬぞてんぷら! 儂から狐栗のハートを奪おうと言うのか!」


「パパは黙って下さい。てんぷらの声が聞こえなくなります」


「すまぬ」


「え? 素直」


 お狐さまが嫉妬の炎を燃やしたが、それはこくりによって直ぐに鎮静ちんせいして、みっちゃんが驚く。

 その後こくりがてんぷらに近づいて、てんぷらはみっちゃんの腕から離れて逃げて行った。

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