5、バット君 その2
読んでくれている方、本当にありがとうございます。
誰かが読んでくれていると信じ、投稿を続けようと思います。
あれからバット君は毎日公園に現れた。
約束もしていないのに、毎日。
自分がどれだけ喧嘩に強いだとか、学年のマドンナである六瀬って女子がバット君に、
「ぜってぇ惚れてる」
だとか、クラスの奴ら全員ダサくて一緒に遊びたくないだとか、そんなことを伝えるために毎日。
平日だろうが、土日だろうが、祝日だろうが、開校記念日だろうが、関係なく現れバット君のバット君によるバット君のための”かっけぇ話”を聞かされた。
まじありがてぇ。くそだ。
時々バット君はタバコを三本持ってきた。
どうやら前に、親のタバコを箱ごと盗んだのがバレてこっぴどくやられたらしい。
親にバレてなんて、もちろんバット君自身から聞いたわけではないけど、ジョーがバット君の家の前をたまたま通り掛かった際に、母親から大声で怒鳴られているのを聞いたらしい。
それからバット君は俺達の分だけ持ち出した。
「なんでいつも三本なの? バット君やんないの?」
と聞くと、
「いやいい、俺はもう家でめっちゃ吸ってきた。それに、これ以上吸うとアレルギー出ちゃうから」
そう言ったバット君のTシャツからはいつも、仄かな柔軟剤の匂いがしていた。
そんな日々が数ヶ月続き、公園に、三人の輪の中にバット君がいるのが当たり前になっていた。
ある日、いつものように三人で公園に行くと、バット君の代わりに先客がいた。
見覚えのある奴らだ。バット君の同級生の、名前は……、名前は知らないな。五人くらいいたけど、一人も。
「おい!」
そいつらの一人が俺達に気が付いてがなり声を上げた。
「なに?」
そう返すと、「なに? じゃねーよ」と五人でこちらに歩いてきた。
ランドセルを背負った一個上のヤンキー達は、睨みをきかせこう叫んだ。
「お前らん中にタバコ吸ってる奴いんだろ!? 調子乗ってんじゃねーぞ!」
声変わりの始まっていない甲高い声が公園中に響く。
彼の主張に、正直呆れた。
例えば、小学生でタバコなんか吸ったらだめだ! と怒られるならまだわかる、理解できる。
だけど、彼はきっとこう言いたいんだ、年下がタバコ吸ってるとは気に入らん! それは調子に乗って年上を馬鹿にしている証拠だ! と。
「いないよ、吸ってる奴なんかいない」
ため息混じりに答える。
「はあ?」と一個上は納得のいっていないって様子で、相変わらず睨みをきかす。
「お前らがタバコ吸ってるってバツの野郎が言ってんだよ!」
バツっていうのはバット君の同級生の間でのあだ名だ。
あだ名の由来? 知らないよ、興味ない。
「だから、いないってば」
続けてそう答えると、俺は胸ぐらを掴まれ、「てめー! なんだよその態度!」と顔をこんなに近づけて言うので唾が飛んできて臭かった。
そのときだった、俺の胸ぐらを掴んだ奴が真横に吹っ飛んだのは。
テツだ。テツが奴の横顔ぶん殴った。
「あーあ」って言ったのはジョー。
「てめー! ぶっ殺すぞ!」とか、「舐めてんのか!」とか、「喧嘩売ってんのか!」とか言ってるのは一個上の奴ら。
「もう喧嘩だろうが、馬鹿じゃねーの」って言ったのもジョーだ。
それからジョーは一人に走っていって、ドロップキックをかました。
テツはもう俺には止められない、アイツ小五の時点で身長160センチくらいあったから、暴れ始めると手が付けられない。
俺は走ってきた奴二人にダブルラリアットをお見舞いした。
勢いよく地面に叩きつけたおかげで、それだけで片が付いた。
立ち上がると、もう喧嘩は終わっていた。
というか、残りの奴らもテツとジョーにのされていた。
一人、倒されたまま、「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣いている奴がいた。
テツがそいつに近付いていって胸ぐらを掴むと、拳を振り上げた。
「もういいべ、テツ、これ以上は意味ねーよ」
ジョーが言うと、テツは掴んでいたTシャツをパッと放し、
「コイツらだせーな」
と吐き捨てた。
その日からバット君は公園に来なくなった。どうやら学校にも来なくなったらしいというのを、風の噂で耳にした。
バット君に何があったのかわからないけど、きっと、俺たちの行動の”皺寄せ”がバット君に向いたのだろう。
でも、年上の襲来はおそらくバット君のやった行動、発言の皺寄せだと思うから、それこそ因果応報ってやつだ。
それからバット君が小学校を卒業するまで、三人のうち、誰もバット君の様子を気にする者はいなかった。