4、バット君 その1
是非、感想お待ちしてます。
「今夜さ、心霊スポット行かない?」
テツとの水遊びに飽きたジョーがベンチに座って言った。
「心霊スポット?」と俺が返す。
「そう、昨日たまたまバット君に会ってさー、そんで聞いたんだよ」
バット君っていうのは一個上の先輩で、バット君が小学校を卒業するまでしょっちゅう遊んでいた。
というより、勝手に俺達三人の集まりに参加してきた。
「バット君の言う心霊スポットなんか行きたくねーよ、俺アイツ嫌いだし」
そう言ったのはテツ。
小五のとき、だから去年か。
いつものように三人で公園で遊んでいると、「お前らなにやってんの?」と会話に割って入ってきたのが始まりだった。
「別に、ダベってる」
ジョーがダルそうにそう言うと、バット君は、「ふーん」とか言いながらジョーの横に腰掛け、そのまま居座った。
バット君の顔は腫れていて、腕とか足にもいくつか青痣があった。
そんなに仲の良い関係でもないし、変にそのことに突っ込んで、面倒臭い”なにか”に巻き込まれるのも嫌なので黙っていた。
バット君も痣のことに触れさせないようにしているのか、必死に、それでいて延々とだる絡みを繰り広げた。その癖たまに、「いってぇ」とか小声で言っている。
バット君のその姿があまりに不憫に思えてならず。
帰ってくれ、とか、
三人で遊んでるから、とか、
切り出せないまま、やがて日が暮れた。
「俺そろそろ帰るわ。お前らまだいんの?」とバット君が聞いてくるので、「俺達ももう帰るよ」と家路に着いた。
翌日、放課後に三人で公園に行くと、バット君がいた。もちろん、誰も呼んでないのに。
バット君はこちらに気付くなり手を振り、
「よう! 今日はお前らにプレゼント持ってきた!」
と叫んできた。
少し期待してバット君に近付くと、ポケットの中からしわくちゃになったタバコの箱と百円ライターを取り出した。
取り出したタバコを慣れない手つきで上下に降ると、タバコが数本勢いよく箱から飛び出し、そこらへんに散らばった。
それをバット君は拾い集めながら、「お前らタバコやったことあるか?」と聞いてきた。
俺とジョーは首を横に振って見せた。
「そんなもん、吸ったからなんなの?」
テツは質問が気に入らなかったのか、嫌悪感を言葉に乗せてバット君を睨んだ。
バット君は、「あ?」と言ってテツを睨んだすぐあと、「ウオエッ!」と突然、えずいた。
吐きはしないけど、何度もえずくバット君に思わず息を飲んだ。
後から知ったけど、バット君は極度の緊張状態になるとどうやらえずくらしい。
きっと自分より力の強そうなテツに圧倒されえずいてしまったんだろう。
なんて可哀想な人なんだろう、つくづくそう思う。
「バット君、おいおいおい大丈夫かよ?」
ジョーがそう心配すると、テツがバット君の持っていたタバコの箱を奪った。
テツは奪った箱から一本タバコを取り出すと、ジョーにタバコの箱を渡した。
ジョーも同じように一本タバコを取り出し、続いて俺に箱を渡してきた。
俺も一本タバコを取り出すと、ジョーが俺の持っていた箱を取ってバット君に返した。
「はい」とジョーがバット君に手を差し出す。
えずいていたバット君もやっと落ち着き、涙目で、「え? なに?」とジョーを見た。
「いや、ライター」
「あ、ああ」
ジョーがバット君からライターを受け取ると、「へい」と号令を掛けた。
俺も、ジョーも、テツも、タバコを咥えて、ジョーの点けた火を囲む。
三人で首を伸ばし、火にタバコを近付ける。
先端の葉っぱを燃やして、三人同時にスーッと煙を吸ってふーっと吐いた。
フィルター越しに煙を吸うと、真っ赤に燃えた葉っぱがジリジリと音を立て灰に変わった。
肺いっぱいに煙を溜めて、ゆっくり吐くと、役目を終えた白い煙がのらりくらりと目の前を通り過ぎ、頭上でばらばらになって散った。
「お前ら、やっぱり吸ったことあんだろ?」
バット君がそう言うと。
テツがすかさず、「ねーよ」と言った。