2、ジョーとテツ その1
不定期更新していければいいなと思っております。
不快とか、不愉快とか、厭わしいとか、なんでも結構ですので、もし読んで頂けたら、その、感想など書いて頂けると大変嬉しいです。
小学校高学年になると、愛だの恋だので浮き足立った女子達が鬱陶しかった。
元々、俺は女子との会話がそんなに得意じゃなかったんだけど、その所為もあって女子と接する機会がますます少なくなっていった。
だからってわけでもないけど、毎日放課後になるとワイワイキャッキャと騒ぐ女子達を尻目に、ダッシュで公園に向かった。
家には帰らず、ランドセルを背負ったまま。決まった仲間と遊ぶんだ。
仲間ってのは二人。
気取り屋でクールなジョーと、社交的でビビりのテツだ。
俺たちはその公園をカラスって呼んでた。なんてことはないよ、前にカラスが異常発生したことがあったってだけ。だけって言ったけど、今思い返してみても、とんでもない数だったんだ、真っ黒な鳥の海。
雲って例えてもいい。カラスの雲海。
それを目撃したのは、この世でなんと俺達三人だけだった。
あーコイツらの紹介をするよ。
ジョーは小柄で背の順だと前の方。清潔感があって、今日はエリックヘイズのTシャツにパタゴニアのバギーショーツを履いてる。
いつも耳の周りと襟足は綺麗に切り揃えられていて、俺の記憶だとジョーの髪の毛が伸びたところも縮んだところも見たことがなかった。
きっとジョーは髪の毛が伸びたり縮んだりしない人種なんだと思う。
公園に着くともうジョーがいて、お決まりのベンチに座ってた。
「よー、遅かったな」
「ジョーが早すぎんだよ」
ジョーは何より足が早かった。
小四の時、リレーのアンカーを任されたジョーは、最下位で回ってきたタスキを一位へと導き、一気に学校のスターダムへと駆け上がった。
ていうのは、要はモテたってこと。
クラスの女子はほぼ全員ジョーに夢中だった。
ジョーとすれ違った女子が、「きゃー!」って黄色い雄叫びを上げるほど。
その度、俺とテツはそれをネタにジョーを茶化した。
「きゃー! だってよ、ジョー。ちょっとは答えてやれば? まるで王子様だな。プリンスジョーよー」
「プリンスジョー!」って馬鹿みたいに笑ったのはテツだ。まあ、テツの話は後でするよ。
「くだらねー。ブスに好かれても嬉しくねーよ」
ジョーは前を向いたまんま、そう吐き捨てた。
それでジョーを茶化すのはやめた。
運動会が終わって三ヶ月が過ぎ、もう冬だってのに相変わらず女子達のジョーへの反応はジャニーズスターにでも出会った時のそれだった。
だけど、ジョーのモテ期は急に終わりを告げた。
ジョーはクラスでキレて机や椅子を投げて暴れ回った。
クラスの奴ら曰く、いきなり、なんの前触れもなくキレたそうだ。
幸い、怪我人は一人も出なかったが、当然嫌われた。
ていうか、引かれた。
その日から、ジョーはクラスの女子の人気者から、学年全員から変人扱いを受けた。
いきなりキレて、机を投げるヤバい奴。
廊下から黄色い雄叫びは消えた。
後になってからジョーになんでキレたのか聞いた。
「アーポンがさ。ほら農場やってるとかで、牛臭いだの豚臭いだのって陰口叩かれてるやつだよ。あの日、ミツ先が席替え抽選でやるって言い出してよ、アーポンが一番前の席になったんだよ。そんでプリントをさ、アーポンから渡された後ろの女子がよー、アーポンが触れてないとこ必死に探してよー、クスクス笑ったり、アーポンから渡されたプリントみて嫌そうな顔したりしてよー。なんか、それ見てたらムカついてきちゃったんだよ。別にアーポンと仲良かったわけでもねーけどよー」
そう言ってジョーは唾を吐いたが、なんでか、「ハハッ!」って笑った。
それからだ、体面上はクールを装っていたが、俺とテツに小さな悪戯を仕掛けてくるようになったのは。
まあ、主にテツにだ。
今日だって、ほら、一人のそのそ遅れてやってきたテツに、「おーい! テツ! これ! なんか水道出なくなっちまってるよ!」
とか言いながら、設置されてる蛇口をいじってる。
「はあ? 水道?」
そう言って近付いてきたテツに勢いよく水をぶっかけてケラケラ笑った。
みんなに変人扱いを受けた後のジョーの方が、少なくとも俺には堰を切ったようにイキイキして見えた。
見てくれ、水浸しのテツを見てまだ腹抱えて笑ってるよ。
「ごめん、ごめん! ごめんって。テツ、でも涼しくなったべ?」
とにかく、これがジョーだ。