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ゴッドブレス  作者: 砂。
1/7

プロローグ

不定期に更新していく予定です。

つまんかったとか、面白くないとか、なんか臭いとか、その、どんな感想でも励みになります。

どうかよろしくお願いします。

 小学校低学年ガキの頃、よく友達の家でドラクエをやっていた。

 ゲームをプレイしていて不思議に思ったことをソイツに聞いてみたことがある。


「街と街との間隔がこんなに空いてるの変じゃねーか? 大体、モンスターはどうして街や城を襲わないんだよ」


 するとソイツは、俺の横でテレビに映ったドット画面を三角座りで見つめたまま、ニンマリ笑って言った。


「この世界ではこれが普通なんだよ」

「なんだそれ」


 と吐き捨てた。

 

 質問したのは俺の方だっていうのに、ほとんど無視したみたいにレベル上げを続ける。

 楽しいゲームの世界では十字キーをぐりぐり回してAボタンを連打するだけで強靭となった主人公たちが、次々とモンスターを蹂躙していった。


「ねーねー先に進まないのー?」


 ソイツが少し不満そうな口振りで言った。


「いいんだよ。これで。レベルを上げれるだけ上げて、ボスを余裕で倒すのが好きなんだよ」


 こっちもこっちで得意げにそう返したのをよく覚えてる。

 ソイツの不服は横に置いて、結局そのまま同じ森だか、山だか、平地だかをぐるぐる回って、敵との遭遇を待った。


「街ってさー、ずっと続いてるじゃん? ドラクエみたいに原っぱがずっと続いて、街とか城がいきなりポツンとあるなんてさー、そんなの見た事あるか? 大昔はこんなだったのかな?」


 テレビ画面を見つめたまま、ソイツに聞く。

 日本に住んでいて、特に関東に住んでいて明確な街と街の境界線は見た事がなかった。だからか、ドラクエの世界も何年か……何百、何千年とかかも、わからないけど……その、年数が経てばさ、原っぱや山や川なんかも全部、住宅や店やビルでいっぱいになって東京みたいになっちゃうのかな、とちょっぴり寂しく思った。

 ソイツは問いにスグ応えず。ランドセルから一冊の本を取り出し、手渡してきた。


「あ? なに? 世界地図なんか取り出してよー」

「アメリカって知ってる?」


 ふざけた質問だった。馬鹿にするのもほどがある。

 コントローラーの操作は一時中断、ソイツの顔を睨み付ける。


「おまえ、はぁ……、ナメてんのか? 知ってんにきまってんだろ」


 ソイツは、「ごめんごめん」って笑いながら世界地図をめくってアメリカ大陸のページをめくって、「コレ見てよ」と地図上を指差した。

 提示されたページをジッと見つめる。

 アメリカ合衆国の全体図。どこに何州があって、どこになんていう都市があってと、細かい字で書かれていた。


「ほら、これこれ」とソイツは茶色く塗られた山だかなんだかを指でなぞった。

 だけど、はあ? 意図が分からず、それでいておちょくられているようで、苛立ちを覚えただけだった。


「だあから、アメリカがなんなの?」


 語尾が強くなる。

 ソイツも俺の心証を察したのか、パッと世界地図を奪って、「ははは、ごめんごめん」と笑った。


「アメリカはすっごい広いけど、五十パーセントも人が住んでいないんだって。誰もいない森とか、砂しかない広大な砂漠を抜けてやっとラスベガスとかの大都市が現れるんだ! ねえこれってさ……」

「へえ、そりゃーまるでドラクエじゃん」


 ソイツが何を言いたかったのか、皆まで言われてようやく察した。

 ソイツの言葉を途中で遮ってまで答えたのは、見栄を張りたいとか、ナメられたくないとかより、ソイツの一番の理解者でありたいと思っていたからだと思う。

 それを悟られないように、「もうボス倒そうかな」と呟いた。


 夏の間、ソイツの家に入り浸った。

 クーラーは効いていないし、風の通りも悪くって蒸し暑いソイツの部屋で、いつも二人して汗を垂らしてゲームに熱中した。ドラクエやったり、スマブラやったり、ドカポンやったり、マリカーやったり。

 ソイツはゲームの持ち主のクセに下手くそで、ゲームで負ける度に、「くそー」とか「えー! なんでー!」とか嘆いていたけど、なんでかいつも楽しそうだった。

 ハハ、負けてるくせに、変な奴だよ。

 ドラクエだって、「人がゲームやってるとこ横で見てるのも好きだから」とか言ってさ、一日中こちらがゲームをやってるのを見てたりしてた。相変わらず楽しそうに、三角座りでさ。

 本当、変な奴だよ。


 こんな感じで毎日過ごして、太陽が勝手に沈んだ頃に、真っ暗な外を睨んで家路に着いた。

 

 この日だっていつもと一緒だった。

 ドラクエやって、おばさんの作った焼きそば食って、具がなんも入ってねーでやんの。それでまん丸な月明かりに気が付いてからやっと、「もうそろそろ帰るわ」ってため息混じりに言った。

 ソイツも、「うん。わかった」って返事して目線を逸らした。

 珍しく玄関まで見送りにきたソイツが何も言わないので、


「明日くるまでにさー、レベル、上げといてくれよ」


「えー、なんだよそれ」


 ソイツは笑いながら反論した。


 ソイツとはそれっきり会うことはなかった。


 俺の願いは、そんなに難しいことじゃない、たった一つだけ。

 もう一度、あの蒸し暑い、蝉のうるさい部屋で、二人でゲームがしたい。

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