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最近は休日にサイクリングをするのが趣味の作者です。
作者はあまり雪の降らない地域に生息しているので冬でも冬眠する必要がありません。
昨日は30km位離れた隣の市まできしめん食べに行ってきました。
なのできしめん好きな人は高評価してってネ(混乱
————ッドゥゥ!ウウゥゥゥウン
拳銃の発砲音とは比べものにならないほど重厚な音が辺りに響き渡る。
幸いにも周囲には人っ子一人居らず、乾いた大地が地の果てまで広がっているだけなので騒音公害などにはならないので安心して欲しい。
そんな最果ての地とも言える場所で俺は淡々と射撃訓練を続けていた。
今俺が手にしているのはスナイパーライフルだ。
所謂初期砂と呼ばれる初めからアンロックされている武器である。
【CS-LR4】数々の映画やゲームに登場しているが、そのフォルムは特徴が無さすぎて人々の記憶に残らない可哀想な子である。
しかしそんなフォルムの特徴のなさに反してバレルに刻まれたライフリングの精度は非常に高く、癖の無い弾道を射手に提供してくれる。
まさに初期武器に相応しいスナイパーライフルだ。
BFOが人気な理由の一つとして武器の一つ一つに大きな性能差が無いことが挙げられる。
とはいえ全ての武器が単調な性能をしているという訳ではなく、それぞれの武器にはそれぞれに個性があり、長所と短所がある。『総合的に見て』という訳だ。
この【CS-LR4】も初期武器という位置付けにはなっているが、ブロンズからプレデターに至るまで、『コイツの弾道がやっぱり一番当てやすい』って理由で根強いファンが大勢いるらしいしな。
話を戻そう。
実はあの日から早くも1週間が経っていた。
攻略サイトに『ちゃんと銃の扱いに慣れてから試合に行きましょう』って書いてあったから、こうして1週間も射撃演習場に引きこもっていた訳だが……これどうなったら行っていいんだろ。
確かに右も左も分からないまま試合に行ってもソッコー死んでチームに迷惑がかかるだけだからなぁ……
とは言ってもこんな所で的に向かって撃ち続ける、というのも面白くない。
この1週間ただ闇雲に銃をぶっ放していたわけではなく、『AI教導官』による戦闘に必要な知識と技能を叩き込まれていた。
因みにこのAI教導官、性能が高すぎて発売当初にとある国のとある軍部から圧力が掛かっていたとかなんとか。
今こうして使えている背景にはものすごく複雑な事情があったらしいが……ま、使えればいいよネ。関係ないね。
プレイヤーからしてみれば自分が使えればなんだって良いのだ。
利権?機密?なにそれ美味しいの?
リロードの仕方から味方の分隊員との連携の取り方まで、話を聞くだけで丸1日。その実演と訓練で丸2日。さらにAI兵士を用いた実戦訓練で丸3日。
そうして全てのチュートリアルを終えた俺は黙々と射撃訓練に勤しんでいた訳だが……
「いやぁ、どうにも味気ない………あっ、外した…………くそっ、また外した………ダアーッ!もうっ!誰に習ったねんその動きィィ!」
———ドゥゥウウンッッ!
3発目に放った弾丸は1000m先で縦横無尽に動き回るAI兵士の顳顬へと吸い込まれていった。
音速をはるかに超える800m/sで射出された 7.62×51mmNATO弾は一瞬でAI兵士の体力を削り切ると、勢いそのまま背後の地面に突き刺さって土煙を巻き上げる。
発射された弾丸が目標に到達するまでにかかる時間は単純計算で1.25秒。
しかし実際には重力による落下を計算して目標よりもやや上方へ撃ち出すため弾道は緩い弧を描き飛距離は1000mよりも長くなる。
さらに加えて空気抵抗による弾速の減衰も加味すると目標到達時間は1.4秒ないしは1.5秒だ。
だけど———
聞こえていた風の音がピタリと止み、銃口のブレが無くなる。
いや、正確には無くなったわけではない。
1秒が何倍にも引き伸ばされ、手の震えが、銃口のブレが、極端に遅くなる。
バレット・サークルは塵のように小さく縮小し———
———ドパアアァァンッ!
弾丸は音速を超え、空気を切り裂く乾いた破裂音が轟く。
光の尾を引くかのように1000mの距離を数迅の間に駆け抜けると——
バシュッ!!
AI兵士のヘルメットに穴を開け、血飛沫が吹き出す。
被弾した兵士は弾かれたように上体を逸らせ地面に崩れ落ちた。
———っとまあ、そこまで難しくない、かな?
この能力についてわかったのは自分の動きも世界の動きに伴って遅くなるということだ。
まあ考えてみたら当たり前のことで、遅くなった世界で自分自身だけが速く動ける、それはつまり、通常の世界でとんでもないスピードで動いていることと同じだ。
この何百、下手したら何千分の一にまで引き伸ばされた世界で普通のスピードで動いたら通常の世界では軽く音速を超えてしまうだろう。
人間の体ってのはそんな動きに耐えられる造りにはなっていないわけで……
もし動けたとして、想像するだけで恐ろしい能力だな……なんだよその超高威力だけど絶対に死ぬ、みたいな能力は。。そんなの爆弾抱えてるのと変わらねえじゃねえか
だから、これで良かったのだ。うん。
集中しながら体を動かした途端四肢が千切れ飛びましたとかコワ過ぎなんですけど。
しかし身体の動きに対して思考速度は遅くなった世界でもいつもとなんら変化がない。
むしろ妙に頭が冴えるというか……何故だか分からないけど敵の動きが分かる?みたいな。
ま、きっとこれもゲームの仕様だろうけど。
ゴールドクラスに行くにはこのくらいの技術は必要なんだろうな……早く友達に追いつけるように頑張ろ。
○○○
「よろしく〜。…ん?新兵ちゃん居るやん。」
「よろしくねー。え〜っと、“ヒロ”君」
「おーうよろしくニュービー」
「いやお前だってブロンズなんだから生まれたてホヤホヤだろ」
なかなか賑やかな分隊とマッチしたな
「よろしくお願いします」
久しぶりに感じるこのゲームの距離感、懐かしいなあ。
そう、俺は試合に来ている!
今はゲームの待機ロビーで顔合わせを行なっている最中だ。
このゲームは試合開始前に5分間の待機時間が設けられている。
そんなもの必要無い。早く試合がしたい。という人は試合開始直前のサーバーに入れるようにマッチングの段階で設定することもできるが、大抵はこうして顔合わせや作戦を練るための時間に使っている人が多い。
なんせ初対面の人達ばっかりだからな。
「ほぉ、最初から偵察兵か……」
「ヒロ君もなかなか難しい兵科を選んだねぇ〜」
「え?偵察兵って難しいんですか?」
「難しいねえ、しかもヒロ君が選んだのは『スナイパー』、偵察兵の中でも特に難しいビルドだ。ただ、使いこなせれば相手にとって相当厄介になる」
なるほど、玄人向けということか。
使っていてそこまで難しいと感じたことは無かったけど……試合だと違うのか?
ここで一度ビルドというものについて整理しておこう。
BFOには突撃兵、工兵、援護兵、偵察兵の四つの兵科が用意されており、それぞれの兵科ごとに扱える『ビルド』と『専用武器』がある。
『専用武器』について先に説明しよう。
突撃兵ならアサルトライフル、工兵ならサブマシンガン、援護兵なら軽機関銃、偵察兵ならスナイパーライフルを専門に扱える。
それとは別に全兵科共通で使用できる武器としてカービンライフルとマークスマンライフル、ショットガンも用意されている。
次に『ビルド』についてだが、簡単にいうと“兵科ごとに備わっているパッシブアビリティ”くらいに思ってもらえればいい。
例えば突撃兵のビルド『攻撃態勢』は走る速度が10%上昇したり、工兵のビルド『対車輌』は携行できるロケット弾やミサイルの数が増えたりする。
地味な能力だが、あるのと無いのとでは取れる戦術が大きく違ってくるのでよく考えて組む必要があると攻略サイトに書いてあった。
「リーコンはな、不遇職なんだよ」
「え?」
「偵察兵が不遇職と言われている大きな理由は2つある。一つ目はスナイパーライフルの扱いが非常に難しいこと。二つ目はゲームの仕様上敵のダウンを奪いづらいことだ」
「俺もスナイパーライフルのカッコよさに釣られて使ったことがあるんやけど、あんなもん素人が使うもんやないで。まず弾が掠りもせえへんし」
「うんうん。アサルトライフルとかLMGならそれなりに射程も長いし弾ばら撒けばいいし」
「制圧効果を期待できるしな」
「制圧効果」
「せや。実際に弾が当たらんでも敵の近くを通るだけで精神的ストレスがかかるからバレット・サークルは拡大する。そんなんスナイパーがされたら……分かるやろ?」
あぁ、これは知ってるぞ。
教導官様が狙撃訓練で狙っている最中に違うところからバシバシ銃弾を撃ち込んできた時に体感した。
確かにあれは怖い。集中が切れそうになった、ってか切れた。
近くを銃弾が通過するとバチンッ!ってデッカい音がするんだよ。
近くの地面に着弾した時なんて砂煙のせいでスコープが見えなくなるし、飛んできた小石が肌の露出したところに当たると地味に痛いし。ピリッとするんだよね、アレ。
被弾した時の“痺れ”を弱くした感じだから多分あれダメージ入ってんだろうなぁ。
それでもやっぱり弾の飛んでくる合間に狙い撃てば変わらないから問題ないんだけど。
「特にスナイパーは交戦距離が長いから、狙いが少しでもズレると着弾地点も大きくズレるもんね」
「ほんであとは、単純に当てづらいってことや。大体の着弾地点はバレット・サークルを目安にすれば分かるんやけど、交戦距離が500を超えると着弾までに時間がかかるやろ?当然その分敵の動きを予測して撃たんとあかんのや」
「他にも、スナイパーライフルと言ったらボルトアクション式の物が圧倒的に多いから当然近距離では圧倒的に不利だし……まぁ中にはそれで突撃していく変態もいるんだけど……やめてね?」
「な、なるほど……」
「最後にスナイパーはダウンを奪いづらいってことだけど……スナイパーって基本的にヘッドショット以外じゃ一撃で敵の体力を削り切ることができないんだ。200m以内なら体幹にあたれば一撃っていう例外もあるんだけど、そもそもスナイパーが200m以内に近づかれた時点でほぼ終わりだから……その上突撃兵の『防御態勢』ビルドを着けられると全距離頭以外一撃で倒せなくなる」
「っとまあそんなデメリットを背負うくらいならもっと取り回しの利く突撃兵を使えよって風潮が強いな」
……どうしよう、今まで挙げられた欠点が欠点なり得ないのだが……あぁ、でも接近戦はなるべくやりたくないな。
1対1ならなんとかなるのかも知れないが多対一だとコッキング中に残りの敵から蜂の巣にされるだろうし。
「おっと、そろそろ時間やな。気ィ引き締めていくぞ」
来たか……
彼らの言うことも尤もだ。俺だってそんなにいっぱいデメリットを背負ってまでスナイパーライフルなど使いたくない。
———ただし、それが俺にとってのデメリットならな!
見せてやろう。スナイパーライフルだって当たれば強いのだ!———
次回初試合です。
本当は今話で書きたかったんですけど、言いたい設定が多すぎて色々と盛り込んでいるうちに力尽きてしまいました。
私は他の作者様のように一話一万文字とか不可能なので……
ちょっとづつちょっとづつ亀のように進んでいきます