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異世界でも体は資本ですから!  作者: 魚蟹 類
第一章
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鉄分

 セシリアさんは熱心な信者さんだ。きっともっと昔から教義を守ってきたはず。その上で貧血気味なのであれば、それはきっと、セシリアさんが女性だからに他ならない。


「あの、つかぬことを伺いますが、鉄分はちゃんと摂取していますか? 栄養バランスは意識されてますか?」

「テツ……ブン? それ、何? エイヨウバランス?」


 絶句。何に対してか? 自分の知識の無さに、だ。前世ではだいたいみんな意識してたから深く考えたことなかったけど、もしかして栄養学ってわりと新しい学問だったんだろうか。


 さらに、栄養学が浸透していないなら、この世界の人たちの栄養レベルは、文明の発展度合いに反してかなり悪いのではないだろうか。信心深い人ほど、タンパク質、ナトリウム、鉄分、カルシウム、マグネシウム、ミネラル、食物繊維などなど……人間に必要不可欠な栄養が不足しがちになる。


 どんな食材にどんな栄養が含まれているかがわからないと、補うことなんてできるわけがない。食生活を改善しないことには、どれだけ治癒魔法をかけても根本的には何も変わらないというわけだ。


「おそらくですが、今セシリアさんには青菜を食べることで得られる栄養……身体をつくる()()が足りていないんだと思います。最近、疲れやすかったり集中がもたなかったりしませんか?」

「あぁ……それ、あるかも。え、テツブンっていうのが足りてないとそうなるの? でも青菜を食べるわけにはいかないよ?」


 困ったように眉を下げるセシリアさんに、奥さんも少し悲しそうな顔になる。体を治すには、娘に対して宗旨替えをするように促すしかない、と考えたんだろう。信じるものを変えろと言うのは、私の想像以上につらいことなんだと思う。


 常連さんの悲しそうな顔を見て胸が痛む。でも、私なら何とかできるかもしれない。


「わかりました。お二人にはご贔屓(ひいき)いただいてますし、何か考えてみます。とりあえずの間、鉄鍋で作ったスープを飲んでみてください」


 たしか、鉄製の調理器具からは鉄分が染み出すはず。とはいえ確信はないし、異世界では事がそううまく運ばない可能性もある。やっぱり、何かしらの食材を見繕うまで、安心はできない。なにより、セシリアさんは体が弱い。不安要素はなくしたいだろう。


 お二人は今度こそ帰り支度を始めた。男性にお礼を言って家を出ていくと、私と男性の二人だけになる。


 男性はふっと笑って、「どうすんだよ、大丈夫なのか?」と言った。


「ずいぶん無茶な約束しちまったな? アテはあんのか?」

「ないこともないです、けど……」


 目当てのものを探すには、数か所の店を回らないといけないかもしれない。私の言葉を聞いて、男性は笑っていった。


「なあ、俺にも手伝わせてくれねぇか」


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