スピードバトル
大都ラディオンにほど近い農村に少年は居た。
16歳になったリディム・ハキオンは現実的に夢を見ていた。
大都ラディオンでは伝説になりつつある、大英雄オーロの後を継いで、自分自身が大英雄になる夢である。 それ自体は珍しい話しではなく、誰もが一度は願う夢でもあった。
もちろん、大多数は挫折し、ただの兵士で終わるよくある夢物語だ。
ここから、リディムの物語がはじまる。
「母さん、行ってくるよ! 」
忙しげに家から飛び出るリディムには理由がある。
そう、遅刻だ。
「もう、リディムったら」
村からそう遠くはない剣術道場に、毎日通うのがリディムの日課なのだ。 普通なら昼の間は学校なのだが、リディムや裕福ではない家庭の子供は剣術道場に習いに行っている。
「ワンワン! 」
「クッソ! 今日も吠えられちゃったよ! あの犬に吠えられると何故か運が悪くなるんだよな! やっば、急がなきゃ」
三叉路に到着したリディムにおもむろに声を掛けた女の子が居た。 同い年のナノラ・マイアーだ。 毎日の様に決まってこのタイミングで声を掛けてくるので、リディムはよそ見をしていてもナノラだと理解する。
「遅れてるよーナノラ! 急げー! 」
「う、うん……」
二人で走るのが恒例となりつつあるが、このナノラもまた大英雄を目指す事になる。
二人は勢いよく走ったまま剣術道場に雪崩込んだ。
息を整える余裕さえないまま、練習生の列に並んだ。
「ゴホン! 」
剣術師範らしき人物が片目を閉じたまま、一つ咳払いをし会話を続けた。
「君達が大人になる頃には、大都ラディオンはさらに強国となっているだろう。 しかし、未だ戦乱は止まず国同士が戦いを繰り広げている。 皆、少しでも強くなれ、国の為ではなく、己の為にだ! 以上! 」
師範らしき人物が立ち去り、教官らしき人物が皆に声を掛けた。
「では、剣術練習を始めてください。 本日は突きから繋げるスキルを自由に選び練習してください」
そう伝えると、教官らしき人物も立ち去った。
「ねーねー、リディム。 リディムはスキルが得意だから突きの練習を重点的にやるべきじゃないかな? 」
「突きより、スキルのがかっけーじゃん! 俺はスキルを磨くんだぜー! 見てろナノラ! 疾風二連斬!」
ナノラの忠告も聞く耳持たず、スキルに夢中になるリディムを、じっと見つめる人物が居た。




