7話・天才
入学式からちょうど一週間が経った今日。オレは、昼休みに天鳴と一緒に昼ごはんを食べる事になった。
午前中最後の4限目の授業が終わると、すぐに教材等をカバンにしまって廊下に出る。
すると、そこには既に天鳴がいた。
「……早いな」
「そうかな?」
彼の教室は1階。チャイムが鳴ってすぐにこちらに向かって来たのなら分かるが、教材等をしまっている時間を考えたら、ここまで全力疾走したとしか考えられない。
横目で彼を見てみたが、呼吸が荒い様子も無いのでそういう訳では無いのだろう。
「行こっか」
「お、おう」
だが、そんな意味の無い事を考えても仕方無い。
オレは彼と横に並んで、食堂に向かう事にした。
途中、A組の教室の横を通り過ぎた時に、天鳴のクラスメイトと思われる生徒に驚きの視線を向けられたが、天鳴が反応しなかったのでオレもスルーした。
食堂に着くと出入口近くにある券売機に向かい、オレはラーメンを、天鳴はカレーを注文した。
先にオレの方が注文をしたが、ラーメンだと麺を茹でる時間があるせいか、彼のカレー (ダジャレじゃねぇわ) が先に出来上がったようだ。
なぜか申し訳無さそうな顔をしながら隅っこのテーブルに向かって行く。
しばらくするとオレのラーメンも出来上がったようで、それを持って天鳴が待つテーブルに向かった。
「またせてご─────」
食べずに待っていてくれた天鳴に謝ろうとした時。オレは、テーブルに彼以外の人物が座っている事に気がついた。
「あなたは……」
オレはラーメンを置きながら、ゆっくりと天鳴の横に座る
「すまないな。彼が貴様の連れだったようなので話を聞こうと思ってね?」
「はぁ、そうですか……」
「ねぇ、こいつ誰? ボク何か生理的に受け付けないんだけど?」
耳元でそう囁いてきたので、オレは彼らを互いに紹介する事にした。
「こちらは、1年A組の繃 天鳴。そして、こちらは、……えっと?」
ここで、オレは彼のフルネームを知らない事に気がついた。
それを察したのか、彼は軽く咳払いをしながら自らを明かす。
「私は、3年A組の雷 透だ。よろしく」
「え!」
それに対して、天鳴は驚きの声をあげた。
「雷って、あの3年間成績1位を取り続けたっていう、あの雷先輩ですか!?」
「"あの"とは、どれだか分からないが、同姓の人物は学校には居ないから、その"あの"で間違い無いだろう」
オレは内心驚きつつも、冷静に状況を確認していた。
「その、雷先輩が何か?」
「1つ貴様に少し伝えたい事。いや、忠告があってな」
そう言って、こちらに視線を向けてくる。
「貴様。自らの『才能』を隠しているだろ?」
「……。どういう意味ですか?」
できるだけ間を空けないようにしたが、咄嗟の事で少し遅れてしまった。
それを、雷は見逃さない。
「まだ一週間だ。この学校について詳しくは知らないだろう」
「そりゃあ、もちろん」
「なら1つヒントをあげよう。この学校で実力を隠す事は失格。───つまり、退学を意味する」
「退学?」
「そうだ。ある一定の基準を満たさない生徒は容赦なく切り捨てられる。それがこの学校だ」
横から天鳴が心配そうに見つめてくるが、無視をして話を続ける。
「言いたい事は何となくですけど分かりました。実力を隠していると基準を満たせずに退学になるかもしれない、という事ですね?」
「そうだ」
「それってオレ達に言っていい事なんですか?」
「実を言うとあまり好ましく無い。だが、貴様のような人材を失うのはこちらにとって不利だと思ってな」
「……。それ、オレにだけ言うつもりでしたよね? 天鳴が横にいる状態で話してもよかったんですか?」
「別に構わんだろ。おそらくだが、1年A組は全員それは把握している筈だ」
天鳴は黙って頷く。
「クラスによって、与えられる情報量が違うのですか?」
「いいや、彼らが自力でつき止めた事だ」
「なるほど……」
オレはここで、1つの仮説を立てた。
それに答えるように、雷は言う。
「明日返されるであろう小テスト。それで粗方学校の仕組みを理解できる筈だ」
そう言って席を立つ雷。
「忠告ありがとうございました」
オレは立ち上がりながら彼に礼を言った。
そして、 "それとは別に伺いたい事がある" と告げる。
「何だ」
「先輩は先程、オレが退学する事はこちら側に不利になると仰いましたよね?」
「……言ったかもしれないな」
「その、こちら側とは、どの側ですか?」
雷はゆっくりとこちらに振り向いた。
「時期に分かる」
(なるほど。この学校には色々と何かがありそうだな)
オレは内心、とてもワクワクしていた。