38話・小柄
乾いた音が『障害物競走』の開始を告げた。
第1走者の者達を待ち構えている障害物は、簡易プールの上に敷かれた"柵無しの橋"。
走者達は、障害物ゾーンに入る手前で1列になった。
橋の横幅は、人が3人ぎりぎり並んで通る事ができる程はあるが、この橋でその通り方をすると────。
『おおーーっと! ここで3人同時に橋から落ちたーーっ!』
水が強い衝撃が受けた時の独特の音が聞こえると同時に、解説役の女子生徒の実況が聞こえた。
「あちゃー、急ぎすぎだろアイツら……」
隣にいる日向が、頭をかきながら呆れた様子で呟いた。
橋から落ちた者達にクラスメイトでもいたのだろうか。
今回のルールでは、水に落ちても失格とはならないので、落ちた者達はプールを泳いで、再び障害物に挑む。
しかし、その頃には、1番初めに渡り切った者が、次の走者にバトンタッチしていた。
第2走者達が走るコースの先には、ローション等の滑りやすい液体が撒かれたブルーシートが敷かれていた。
先程、1位でバトンを受け取ったクラスは、撒かれた液体を利用して、スピードスケートの選手のように滑りながら障害物ゾーンを突破しようとしていたが、ある所で滑ってしまったのか、後ろに倒れるようにコケてしまい。一気に多くのクラスに追い抜かされてしまった。
第3走者の障害物は、"網くぐり"。
綱引きの綱と同じ材料で出来たと思われる大きな網を地面に敷き、その下をくぐるという簡単なルール。
先程の障害物ゾーンで、1位のクラスを抜かした者達がぞくぞくと網の下へと入っていく。
確か、網の長さは25mという説明があった。
25mと聞くと、短く感じるが、現在進行形で網の下にいる者達の顔を見ると、相当キツいらしい。
先頭集団の者達は、障害物ゾーンが残り5mといった所で皆バテていた。
見た目よりもどうやら体力を使うようだ。意外と、この障害物が1番大変なのかもしれない
その時だった。
クラス別に建てられたテントのあちらこちらから歓声が聞こえ始めた。
隣にいた日向も、微かにだが驚きの表情を見せた。
それも無理は無いだろう。
なぜなら、今網の下へと入って行った男が、物凄い早さで網の中を進んでいるからだ。
「……なんだ、あのチビは?」
一瞬、女子にも見間違いかねない程の小柄な少年。
彼は、一切スピードを落とすことなく、バテている先頭集団を追い抜かし、1番に網から出てきた。
そのタイミングで、オレは、日向に彼を明かした。
「彼の名前は、渚 昌平。オレと同じ、1年F組のクラスメイトです」
「……お前の?」
今までレース様子を見ていた日向の顔が、オレの方に向いた。
そして、それとほぼ同時に、第3走者から第4走者へとバトンが渡った。




