33話・停学
ショウタは、オレと同じ児童養護施設で育てられていた。
その時の身長はオレよりも低く、てっきり年下だと思っていたが、制服の校章の刺繍の色が赤色なのを見ると、どうやら一個上らしい。
「意外と治安が悪いよね。この学校……」
そう言った天鳴の顔は、心底嫌そうな顔をしていた。
"そうだな"、とオレが答えると、再び怒鳴り声が聞こえた。
「テメェ! 今、美咲に何しやがった!」
「そんなに怒らないでよー。ちょっと、ぶつかっちゃっただけだってー」
声を枯らしながら叫ぶ千羽と違って、ショウタは間延びしたような声で答えていた。どこか、煽っているようにも思えた。
「ぶつかっただけだと? 嘘をつくんじゃねぇ! 俺は見てたぞ! テメェが、美咲の乳を触ってたとこをよ! 」
食堂にいた皆の目線がショウタに向けられると同時に、あちらこちらから軽蔑するような声が聞こえた。
どうやら、ショウタが、菜の山に不埒な事をしたらしく、それに対して、千羽がキレているらしい。
友達思いでいいやつだと思うが、もう少し彼女に配慮をしてあげてもよかったんじゃないかと思う。
大勢の人の前で、"乳を触られた"と言われた菜の山の顔は、赤くなっていた。
「あまり大きな声で嘘を言わないでくれよー。誤解されるだろ?」
「…………。テメェ、潰されたいのか?」
先程とは打って変わって、落ち着いた声で脅す千羽。
そんな彼を見て、ショウタは大きく笑った。
「フハハハハハハハハ! 面白いなお前! 」
「何が面白いんだよ……」
「いやー、榊の言ってた通りだなー、って思ってさー」
榊の名が出た瞬間。千羽の顔が僅かにひくついた。
「榊、だと?」
「そうそう。なんか、1年生に2人程イキリがいるって聞いてさー。お前と、J組の風見屋っていう奴だっけ? そいつらが、この学校の仕組みに気付いた程度でイキリ散らかしているって聞いたから、ちょっと顔を見に来たんだよー」
そう言って、千羽の顔を一瞥すると、鼻で笑った。
「腑抜けた面をしてやがるな。きっと、退学して、もうここにはいない風見屋って奴も同じような面をしてやがったんだろ?」
その瞬間。ショウタの身体が後ろに吹き飛んだ。
何が起きたのかなんて考える必要がない。我慢がならなかった千羽が蹴りを放ったのだ。
彼は、自らが吹き飛ばした男を見て、こう言った。
「絶対に殺してやる」
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それは、先生達が駆けつけて来るまでの5分もの間、止まることなく行われ続けていた。
しかし、行われていたのは、互いが互いを殴り合うような喧嘩ではなく、一方的な暴力。
あれだけ散々煽っていたショウタは、何もせずに、ただ千羽からの暴力を受けていただけだった。
結果として、後からやって来た先生達が見たのは、無抵抗の人間をひたすら殴り続ける男の姿だった。
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「1週間の停学処分になったよ」
例の隠し部屋で、オレは校長からそう伝えられた。
どうやらあの後、校長や教頭、本人と、彼らのクラスの担任の合計6人で話が行われたらしく、そこで千羽に1週間の停学処分が下されたらしい。
ひそかに、"退学になるのでは"と心配していたので、ホッとした。
「それで校長。私達を呼んだ理由はなんですか?」
オレの隣にいた雷が、咳払いをしてからそんな事を言った。
「理由かい? だいたい察しがつくだろ? 」
校長はポケットから『今年度の体育祭について』と大きく書かれたプリントを取り出した。
「作戦会議だ」
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俺は、昼休みに千羽という1年生に殴られた事で負った痛みに耐えながら、職員室の扉をノックした。
「失礼します。2年B組の結城 将太です」
クラスと名前を伝えると、要件のある人物を見つけ出し、彼の目を見ながら言った。
「八木山教頭先生。少しお話があるのですが、よろしいでしょうか?」




