30話・本題
放課後。オレは4階のフロアまで上がり、J組の教室の前に座り込んでいる男に声をかけた。
「風見屋……、生きてるか?」
「見りゃ分かんだろ……」
彼は立ち上がると、伸びをして、一気に脱力する。
「詳しく話をしてくれるんだろうな?」
「あぁ、けど、場所を変えてもいいか?」
彼は、話をしてくれるのならどこでも構わないようなので、北館裏で話す事にした。
風見屋は、一応死んだ筈の人間。誰にも見つからないように、注意しながら下の階に向かう事にした。
階段に向かうと、オレが下の様子を確認してから合図を送り、それを見てから風見屋が来るという作戦。
10分くらいかけて、ようやく1階まで辿り着いた。
(ちょっと時間をかけ過ぎた気がするな……)
そこで思わず気を抜いてしまったのか、オレは背後にいる存在に気がつかなかった。
「何してるんだい? 明らかに怪しい動きをしてるけど?」
声のした方に振り向くと、A組の藤垣がいた。
(しまった……!)
彼の名前も、刺客の可能性がある生徒の1人として名前が上がっていた。嫌な汗が背中を伝うのを感じる。
すると、藤垣は、オレと風見屋を交互に見て、鼻で笑った。
「不思議な組み合わせだな。もしかして、F組も風見屋くんの下に入る事になったのかな?」
「そんな訳が無いだろ。オレら急いでるから、それじゃ」
早口で会話を終わらせて、目的の場所に向かおうとするが、それを止めるかのように、藤垣の声が耳に入ってくる。
「あれ? でも、J組って60点の退学ボーダーにギリギリ達してなかったよね? なんでまだいるんだい?」
痛いところを突かれた。
これは無視する訳にはいかない。どう答えるか迷っていると、代わりに風見屋が答えてくれた。
「俺はこの学校の仕組みに気付いていたからだよ」
「仕組みって、教育方の事かな?」
「あぁ、そうだ。俺に与えられた四字熟語は、『鬼気森然』。俺にぴったりの四字熟語だろ?」
「なるほどね。確かに教育テーマにそった成長をしているみたいだね。テーマ通り、頭の悪そうな成長の仕方だ」
「フハハハハハハ! お前、舐めてんのか?」
危うく、風見屋が手を出しそうだったので、慌てて止めた。
「風見屋、急いでるんだろ? こんな奴いちいち相手にすんな」
彼は軽く舌打ちをすると、わざとオレにぶつかりながら校舎から出ていった。オレも、少し間を開けてから彼の後を追う。
去っていくオレ達の後ろから、藤垣が何か言っていたが、外の風が強く、全く聞き取れなかった。
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『やはり、風見屋でした。何故かF組の琉田と行動を共にしてましたが……、これは、彼が我々と対抗する者達の1人という事でしょか?』
「そうだろうな。まぁ、彼の対処については君らに任せるよ」
『分かりました』
私は、刺客の1人─────、藤垣 大地との通話を終えると、目の前にいる男に視線を戻した。
「さてさてさてさて、秋川校長。少し話があるのですが、いいですか?」
「できるだけ早く済ませてくれよ? 私も忙しいんだ……」
「ですよねぇ! それじゃあ早速本題から」
校長に、茶を差し出しながら、話を始めた。
「キキョウ園という、児童養護施設をご存知ですか?」




