23話・基地
「ここだよ」
前を歩いていた秋川校長が、こちらに振り向きながら言った。
彼の前には、軽めの装飾がされた大きな扉があった。少し目線を上に向けると"校長室"と書かれたプレートが壁に埋め込まれている。
「ここが、秘密基地ですか?」
秘密基地にしては目立つ所では無いだろうか、そんなオレの考えに答えるかのように、校長は扉を開けながら小声で呟いた。
「この中にあるんだよ」
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部屋の中に入ってすぐ左手にある巨大な本棚に近づくと、秋川校長や雷達はその裏に消えていった。オレも彼らと同じようにその本棚に近づくと、壁と本棚との間に人一人が通れる程の隙間が空いている事に気がついた。隠し通路と化したそこを進むと、扉を見つける事ができた。この扉は校長室の入口の扉ような装飾は無く、教室の扉と同じように地味な物だった。
ふぅ、と軽く息を整えてから、その扉を開けてその向こうへと踏み入った。
そこは、普通の教室の半分程の広さの部屋だった。
中央には大きな机が置いてあるせいで圧迫感があり、より狭く感じる。壁の一面を見ると、何か白い布が垂れていて不思議に思ったが、それと向き合うようにプロジェクターがあったので、それがスクリーンだと分かった。
「こいつが期待の新入りって訳か?」
窓側の壁にもたれかかっている男が、品定めをするような目をオレに向けてきた。足元には竹刀が転がっている。
確か、生徒指導係の白先生だっただろうか。
「そうだよ。きっとこの子は大いに役立ってくれると思う」
「はい。これについては私も保証します」
校長と雷がフォローに入ってくれたが、過大評価過ぎると思う。
そんな事を考えていると、いきなり横から右手が差し出されてきた。
顔を向けると、そこには見たことがありそうで名前が出てこない誰かさんがいた。
「歓迎しよう」
微笑みながら、嬉しそうに言う誰かさん。
流石に差し出された手を無視できるような性格じゃないので、答えるように握り返した。
「君、名前は何て言うんだ?」
「琉田 望です」
「琉田君ね。よし、覚えた。俺の名前は、山城 貴文。一応、この学校で生徒会長をしている者だ」
ここでやっと、見覚えがある理由が分かった。入学式の時に挨拶をしていた生徒会長だった。何だかその時と雰囲気が違っていてむず痒くなってきた。
「貴文も挨拶したって事は、私も挨拶した方がいいのかな?」
部屋の隅にいた短髪の女が、スマホをポケットに入れつつ近づいてきた。
「私は、3年A組の花編 百。ももちゃんって呼んでくれてもいいよ〜」
「よ、よろしくお願いします。……ももちゃん?」
違う世界の人間な気がして少し驚いたが、なんとか答える事ができた。
「ここにいる5人で全員ですか?」
部屋の中を見回しながら言うオレに、ももちゃんが、扉の方を指差しながら "その子もいるよ〜" と言った。
「え?」
その指が差す先を見ると、そこには同じ1年F組のクラスメイト。那谷 明里がいた。




