22話・処分
「……今、殺処分って言いましたか?」
オレは、目の前の男の言ったことに理解が追いつかず、思わず聞き返してしまった。
「そうだ。この学校での退学は、学校生活の終わりではなく、人生の終わりを意味している」
開いた口が塞がらなかった。
雷から明かされたソレは、オレの予想よりも遥かに闇が深い事だった。
「あれを見ろ」
そう言って、雷は遠くに見える煙突のような物を指さした。オレが、蒲原に勉強会について説明した時にも見えていた物だ。
「煙突……、ですか?」
「そうだ。しかし、それだけじゃない」
オレに視線を合わせると、目を閉じながら言葉を紡ぐ。
「あれの下にはガス室がある」
空白が脳内を埋めつくした。
そんなオレを気にせずに、追い討ちをかけるように話を続ける雷。
「今、あそこから煙が出ているだろ? おそらく、火葬という名の焼却処分が行われている」
ゆっくりと顔をその方向に向けると、確かに煙突から煙が出ていた。
「……という事は」
「そうだな。今回のテストで平均60点を取る事ができなかったクラスの者達は皆、もうこの世にはいない。確か、H、I、J組だったな。J組のクラス平均は59点、判断基準が個人の点数なら生き伸びることができたやつもいただろうに」
その時、頭の中に1つの疑問が浮かび上がってきた。
「早くないですか?」
「何がだ?」
「今回のテストの結果が発表されたのは今日の放課後。それからまだ1時間も経っていませんよ? こんな短時間に、60人もの生徒達全員を処分する事なんて不可能でしょう」
「つまり、何が言いたいんだ?」
「おそらく、皆生き残っている、という話をしているんですよ! 煙突の煙 等は演習! 在校生達に危機感を覚えさせる為にデマを流しているので
「残念だが。これは事実だ」
雷は、オレの言葉を遮るようにして話し始めた。
「退学の決定が発表された後、その生徒達は手続きをしに行くためと言われてバスに乗らされる。そして、そのままバスは処分場へと向かう。その後は流れ作業だ。地下室に送られ、車内に毒ガス充満し、全員が意識を失っている事を確認されるとバスごと焼却処分される。髪の毛一本どころか、DNAも残されない程徹底的にな」
「でもそれは! 雷先輩が実際に体験した事じゃ無いですよね!」
「言いたい事は分かる。私のこの話もデマかもしれない、そう言いたいんだろう?」
「──
「だがな」
オレに話す隙を与えずに話を続ける雷。それから続く言葉は、オレを黙らせるのには十分過ぎた。
「この話の情報源は、校長の秋川先生だ」
「校長……先生?」
その時、後ろから足音が聞こえた。
振り返ると、そこには噂をするとなんとやら、秋川校長先生がいた。
「雷君、ありがとうね」
「はい」
「じゃあ、この子も私達の仲間ということだよね。なら、連れていこうか」
「連れていくってどこに?」
思わず敬語を忘れて聞いてしまったが、校長先生は笑顔で答えてくれた。
「秘密基地だよ」
 
 




