15話・納得
「……、まだ何か話すつもりなのか?」
下の階の騒がしい音を聞きながら、蒲原はそんな事を言ってきた。後ろにいる潮代も黙って頷いている。
「本当はリーダーが話す予定でしたが、あぁ、なってしまったら、オレが話すしか無いですから」
「という事は、お前も続きの話は知っていたが、リーダーの口から話を聞かせようとしていたのか?」
「そうですね」
「なら、なぜお前の口から説明しなかった? 時間の無駄だろ」
「時間の無駄という点においては否めませんが、話術や交渉術といった点では、リーダーの口から説明した方が良いと判断したので」
「そうか、なら、さっさと話してくれ。先程お前から聞いた案は正直に言ってゴミだった」
蒲原はオレを睨みながら、近くの椅子に座った。
「お前は勉強会を開くという案を出したな?」
「はい」
「この案は誰でも思い付く事だったから、わざわざ呼び出されて言われる程の物じゃなかった、と。聞いた時オレはガッカリしたよ。あの雷先輩に目をつけられている存在が出す提案がこの程度とは、とな」
勝手に持ち上げておいて酷い話だと思うが、口には出さずに頭の中で殴っておいた。
「しかも、その後。俺が誰に教えてもらうのか聞いた時、お前はA組やB組の上位クラスの生徒から教えてもらうといったよな?」
「はい」
彼は、軽く何度も机を叩きながら話を続ける。
「ありえなくないか?」
「何がですか?」
「何が、って、教えてもらう事がだよ!」
ドンッ、と、机を強く叩いた音が響いた。
「なんか、お前と話しているとイライラするんだよ!」
「まぁ、そのイライラを堪えながら話を聞いて下さい」
「……」
潮代が、彼の後ろから、 "これ以上はやめろ" と視線を送ってくるが、それを無視して話をする。
「確かに、常識的に考えれば、上位クラスが下位クラスに勉強を教える意味も無いし、価値も無い」
「…………」
「なら、その意味と価値を作ればいいんですよ」
「どういうこと?」
ここで初めて潮代が口を開いた。天鳴と似て、中性的な声だった。
「簡単な事ですよ?」
そう言って、ポケットから財布を取り出して机の上に置いた。
「もしかして?」
「そう、雇うんですよ。お金でね」
「……でも、それってい
「変わらねぇな……」
潮代の言葉を遮りながら、蒲原が話し始めた。
「確かに、それで下位クラスに勉強を教える意味も価値も少しぐらいはできただろう。だが、次のテストは退学がかかっているんだぞ? 他者に勉強を教えるぐらいなら自分で勉強したい者がほとんどがだろ? 高校生が出せる程度のお小遣いレベルの金と退学の可能性。どちらを取るなんて聞くまでも無い。しかも、今回行われるのはクラス単位での退学。自分1人のせいでクラスメイト全員をみ
「だからですよ」
彼が潮代の言葉を遮って話したように、オレも彼の話を遮って話す。
「今回行われるのはクラス単位での退学。クラス平均が60点以下のクラスが退学となる」
「そうだよ! だから俺
「分からないんですか? 退学の判断基準はクラスの平均点。個人の点数じゃないんですよ」
そこで、彼らはやっと気付いたようだった。
「そう。クラスの2、3人の点数が悪くても、他の17、8人で補えるんです。そして、それがA組やB組レベルになると、仮に0点を取ったとしても、10人点数が悪い人達がいても補えるんです」
前回の小テスト、A組の平均点は90点、B組の平均点は87点だった。60点ボーダーを考えると、甘過ぎるとも言える。
「なるほどな……」
どうやら、今の説明で納得してもらったようで、彼は先程までの態度を謝罪してきた。
ふぅ、と軽く息を吐くと、背伸びをして気持ちを入れ替える。初対面で悪印象を持たれないように敬語を使っていたのだが、それが微妙に疲れる原因となってしまった。
(さてと……)
オレは教室の窓から外を見た。
そこからまず見えるのは、教室研究高等学校の生徒全員が住んでいる巨大な寮。
そして、視線を僅かに横にずらすと、地下から通じる巨大な煙突のような何か。
(あれは何だ?)
寮に初めて入った日から気になっていたそれ。
後に、オレはその正体を知り、絶望する事になる。




