13話・襲来
「で、なんで呼び出したんだ?」
G組の蒲原は、不機嫌そうに腕を組みながらそんな事を言ってきた。
「そんなにムスッとしないで下さいよ。少し話をしようと思いましてね? 」
オレ達がいるのは特別棟の2階。1階には食堂があるが、今は2階にある自習室にいた。
自習室と言っても、ここにはオレ達 (オレと蒲原と潮代といういつも蒲原の後ろにいる大人しい顔の男) 以外誰もいなかった。わざわざ放課後に学校に残ってまで勉強をする人はそうそういないのだろう。
「あなたは、G組の退学を阻止する為に何か案は無いかと思い、雷先輩に声をかけたんですよね?」
「そうだ。結果は断られたがな」
「なら、変わりにオレが案を出してあげましょうか?」
蒲原は首を傾げながら、潮代と目を見合わせた。
「お前が、か? 確かに雷先輩はお前を買っているようだったが……。何か妙案が?」
「買っているかはともかく、案ならありますよ。妙案とは言えないかもしれませんが……」
「別に構わん。なんでも言ってくれ!」
藁にもすがる、とはこういう事を言うんだなと思った。
オレは、そんな彼に内心謝りつつ、大したことのない事を言う。
「勉強会を開くんですよ」
「は?」
拍子抜けしたような声が聞こえた。
それもそうだろう。どんな妙案が出るかと思ったら、誰でも思い付く事を言われたのだから。そりゃあそうなる。
「まさか、それを伝える為に俺を呼んだのか?」
「そうですね」
これには、蒲原だけでなく、潮代もがっかりとした様子だった。
「……仮によ、勉強会をするとして、誰に教えてもらうんだよ」
「そりゃあ、A組とかB組とかの上位クラスに頼むんですよ」
それに対し、彼は露骨に嫌なため息をついた。
「話は終わりか? 終わりだよな? 無駄な時間を使わせやがって、俺達は別の人に当たるわ」
そう言って去ろうとする彼らに、少しの間待つように伝える。
「一度クラスのリーダー同士で話し合ってみれば何か見えてくるかも知れませんよ?」
「クラスのリーダーって、お前じゃねぇのかよ」
「オレの訳無いじゃないですか」
「じゃあ誰だ?」
「それはもうすぐ分かりますよ」
誰かが階段を上って来る音を聞きながらそんな事を言った。
そして、その音は教室の扉の前まで来ると止まった。
「入っていいですよ?」
オレは、そこにいるのは先程連絡を送った人物───千羽 京介だと思い声をかけた。
「邪魔するぞ……」
しかし、入って来たのは知らない男だった。
とても整った顔立ちをしていて、男でも惚れてしまいそうな顔をしている男。背後には10人程を男を連れていて、どこか2年生の榊を連想させる。
(初めて会うな)
オレが、"誰だ?" と聞く前に、蒲原がその男の名を言った。
「か、風見屋、だと?」
明らかに動揺しながらも、彼はオレの方を睨んできた。
どうやら、オレと風見屋がグルだと思われたらしい。首を横に振って否定する。
(コイツが風見屋か……)
天鳴の説明のせいで厳ついイメージがあったが、思っていたよりも優しそうな顔をしていた。
だが、オレは彼から発せられる、他を威圧するオーラのような物をひしひしと感じていた。
そして、そんな彼の姿を見て、1つの言葉が脳裏をよぎった。
(『鬼気森然』、か)




