プロローグ
初書きです。よろしくお願いします
それは、とある夏の日だった。
強い日差しをふちにレースのあしらわれた白のパラソルが柔らかく受け止める。その下で、金色の髪の少女は真っ白な椅子に座り、これまた真っ白なテーブルに頬杖をついていた。伏せられた睫毛から、澄んだ青色の瞳が見える。
「お嬢様、姿勢が歪んでしまいます」
きびきびと、しかし決して焦っているようには見えない足取りで、銀色の髪の青年が歩いてくる。青年が押しているティーカートには、お茶の用意が整えられていた。お嬢様と呼ばれた少女が振り替えって青年を見る。
「今日のおやつはなにかしら?」
「ブリオッシュです。お嬢様、何度も申し上げますが頬杖は」
「貴方の作るブリオッシュは絶品よね。楽しみだわ」
青年は溜め息をつき、そつのない動きでテーブルにティーセットを並べる。少女はそれを眺めながら、ぽつりと呟いた。
「今日も貴方以外は来てくれないのね」
青年の手が一瞬止まる。何事もなかったかのように作業を再開する青年の目が伏せられているのを、少女は悲しげに見つめた。
金色の髪の少女はマリー。レギノルス王国屈指の名家、ルビノス伯爵家の一人娘。豪華な家に広大な庭、使用人でさえ一人一部屋ずつ与えられるような財力、誰もが羨むお嬢様。全てを手にしているように見えるマリーだが、実際はただの孤独な少女だった。マリーがどんなに優しく接しようとしても、なぜか恐れおののき逃げていく使用人、親の言い付けか対等に付き合ってくれない、取り巻きのような友人たち。今日のお茶にも、せめて怖がられたくないから使用人を数人招待したいと頼まれていたにも関わらず、誰一人として誘いに乗る者はいなかった。ただ一人、十数年マリーに仕えるファルだけがマリーのそばを離れず、いつもそばにいた。
「・・・お嬢様、きっと使用人は数日後に開かれるパーティーの準備で忙しいのでしょう」
「・・・そうね」
目を伏せていたマリーは、そっと紅茶の入ったカップを手に取り、砂糖を入れた。猫舌のマリーに合わせた少しぬるめの紅茶。一口飲み、ブリオッシュに手を伸ばす。
「うん、おいしい。やっぱり貴方のお菓子は最高よ」
にこりと笑うマリーを見ていられなくて、ファルはそっとうつむいた。