第四話 ダンジョン
螺旋階段を下へ降りていく…
螺旋階段を下へ、下へ降りていく……
螺旋階段を下へ、下へ、下へ降りていく………
(…螺旋階段……長くない、か…?)
螺旋階段をかれこれ3時間近く降り続けるも、道中何ひとつ、微塵にも変化は訪れることはなかった。ロイは延々と下へ下へと続く、終わりの見えない階段を無心で降り続けた。いいかげん階段を降り続けていくという、何の変化もないサイクルに体力的にも、精神的にもうんざりとしてきた頃… 念願の螺旋階段の終わりがついにやってきた! 苦労したロイに労いの光明が優しく差し込んだかの如く、次第にロイの視界が徐々に開けてくる。そんな螺旋階段からやっと抜け出せた、ロイの視線の先には……
この空間の広さとか、いったいどうなっているんだ? というような疑問が浮かぶ、とても大きなドーム状に拓けている広ーい空間だった…
(ダ、ダンジョン……??)
サラからダンジョンだと聞かされ、封印(?)されていたダンジョンで、生まれて初めての大冒険がついに出来ると、ドキドキワクワクの楽しみだけを頼りに、とても長い階段を踏破してきたというのに… ロイの期待は見事にポッキリと叩き折られ、あっけなく裏切られてしまった……
拍子抜けして、一気に気力が失せてしまったロイはため息を吐き、その場にへたり込む。せめてここまで踏破してきた、努力した自分が報われるような、何かないかと辺りを見渡す。
(……よくみたら…アレ、なんだ…?)
ロイは今いるこの空間のほぼ中央に存在している、不思議な物体にようやく気づき無造作に近寄った。
この空間の中央には、透明な水晶のような物質で出来ていると思われる、大きさが約3メートル程の大きな水晶から、不思議なオーラが滲み出ていて存在感を放っていた。透明な水晶(仮)をよくよく見てみると、水晶(仮)にはしっかりと文字が彫られてあった。その彫られてある文字を読み上げてみると……
[ やあ、よくきたね。 ようこそ、僕が創った訓練用ダンジョンへ
螺旋階段、とても長かったでしょ? あの螺旋階段を長く、長く創るのにはとても苦労したんだよ?
だって、いったい何段、段差を創ればいいんだよ!ってぐらい根気強く頑張って創ったんだよ?
一応このダンジョンの目的は、錬金術を扱う上で必要な技術を身につけたり、錬金術の錬成の上達や各属性の能力を向上させる為に創ったんだ。
螺旋階段についての役割は、もうわかっていると思うけど、体力強化の為だよ? 何事も体力は全ての基礎で重要だからさ! こうしないと、熟年の錬金術師の老人共は鍛えようとしないしさ。
あと体力の有無が、生死を分けたり、意外に重要だったりするんだよ?
まあ、死んだら元も子もないんだけどね?
あー…もしかして、ここまで頑張って降りてきたのに、この部屋に何もなくて、ガッカリしちゃってたりしてるのかな? ガッカリしてないなら、誰かから目的を聞いたり、教えてもらってたりしてたのかな?
あと本は、ちゃんと持ってきてるかい? 本がないと、ここでは訓練なんて螺旋階段の往復だけだよ?
訓練には本が必要だから、取りに戻ることになったら往復確定だ!
さて、前置きはこれぐらいにしておこう。此処の空間には、錬金術に反応する仕掛けが施してある。
本が仕掛けを発動するための鍵となっている。 持ってきた本は、この文章が書かれている反対のくぼみへ当て嵌めてみてくれ。そして、本を媒体に各属性の錬成を行ってみるといい。きっと面白いコトがキミを待っている。
長文につきあってくれてありがとう。
日常訓練だけは腐らず、頑張ってくれたまえ。 我々はキミの成長に期待している。
ジン]
(長い文章だったけど、螺旋階段は体力をつける為だったのか……)
ロイは水晶に書かれていたように、水晶の裏へと回りこんで確認してみると確かに、ポッカリと本の大きさぐらいのくぼみが空いている箇所を見つけた。そのくぼみへ本を嵌め込んでみると、本はぴったりとくぼみへ収まった。
(錬成してみろって……本に火なんて使うと、本、燃えるけど……大丈夫なのか…?)
本が燃えてしまってもいいのか?とロイは相当悩んだが、水晶に書いてあった通りにしてみるかと、ロイは火の錬成を本へと試してみた。すると水晶にはめた本は何故か燃えず、代わりに水晶が光り輝いた……
―ゴゴゴッ…!
(床が……揺れたっ!?)
―ガコンッ…!
ドーム状の空間の壁が動き螺旋階段の道以外の、新たに姿を現した何処かへと続く道が出現した。
(………!?)
ロイはドーム状だった今までの空間に、新たな道が出現したという大きな変化に驚いて、出現した道をしばらく見続けた。
「……まてよ? 各属性の錬成って、書いてあったけど……もしかして!?」
ロイは本へ本能の赴くままに、水の錬金術を発動! しかし本は一切濡れる事などなく、水晶は光り輝いた。
ちなみに、謎の本の材質は紙だとロイには思われている。しかし実際には、この世界には存在しない魔石という材質で出来た本の為、燃やそうとしたり、ずぶ濡れにしたりと、軽微な攻撃ならば本には傷一つつかなかったりする。圧倒的な力で破壊しようとさえしなければだが…
―ゴゴゴッ……! & ガコンッ……!
火の錬成で出現してきた道とは別の、逆の方角に新たな道が姿を現した。
「……おぉっ!」
サラの言った通り、何事も挑戦してみるものだった。 ロイはとりあえず、火の錬金術を発動して出現した方の道へ進んでみることにした。
火の錬金術によって現れた道を進んだ先には・・・
火を纏った槍が、床や天井、壁からとあらゆる角度から飛び出してきたり
火を纏った剣や斧が、頭や手や足を、狙いすましたかのように巧みに攻撃してきたり
火を纏った矢が無数と思われる程、大量に発射されて飛んできたり
急に道の床が抜けて穴が空くと穴の底には、赤々と熱せられているのか紅い針が無数に待ち構えていたり
噴火が至るところから噴き出して、危うく火傷を負いそうになったり
溶岩がドロドロと壁からあふれ出て、その溶岩が突如流れ出してロイへ襲い掛かってきたり
溶岩が綺麗に上から下へと流れる続ける壁が、絶妙なバランスで出来上がっている迷路があったり
などetc. と、色々な数多くの罠が牙を研いでロイを待ち構えていた。
「溶岩が流れてきた時は、流石にやばかった……」
コレのどこが訓練になるのだろうか…と、製作者であるジンの考えに頭を悩ませた。 コレ、火の錬金術の訓練だよね? ん?…火の錬金術? 火、の? 溶、岩? 溶岩さえも操れる、ってことなのか?
ロイは頭の中で新たなひらめきが、数多く止めどなく浮かんできては実験してみたい!と、泉のようにいろいろと発想が湧き上がってくる。ロイはうずうずしながら、道なりに進んでいったが行き止まりへと突き当たる
「行き止まり……か…?」
溶岩が行く手を阻むかのように、上から下へと絶えず流れ続けていた。
「……試してみるか!」
ロイは溶岩に対して錬成を試してみた。すると溶岩はロイの意思に従うかのように、真ん中から綺麗に左右へ分かれていった。今まで溶岩で塞がれ、行き止まりだと思っていた道に新たな道が拓けた。その道でたどり着いた場所は、四方の壁が溶岩で囲まれた小部屋だった。
四方を壁が溶岩で出来ている部屋の室温は、溶岩の発する熱で体が焼き付けるかのような物凄い暑さ。そんな部屋の中央には溶岩の熱によって終始熱せられて、赤々と高熱を発している真っ赤な宝箱が部屋の中央に鎮座していた。
あまりの熱さで、容易に宝箱へ手を近づけることが出来なかったロイは、ダメ元で宝箱に近づけるギリギリの場所から、宝箱へ錬成を試みて発動してみた。
―カチャッ……
偶然、錬成が成功したからなのかうまく宝箱の鍵が外れ、鍵が外れたことによる副作用なのか宝箱の熱が徐々に冷めていった。宝箱が冷めてようやく触れるようになり、ロイが宝箱を開けてみると綺麗な紅い龍の模様が入った籠手だけが中に納められていた。
籠手を宝箱から取り出すと、模様や作りといった細部をじっくり観察して、籠手を右手へ装着してみた。
(……思ったよりも、ぴったり…?)
右手に着けた籠手をしばらく眺めていたロイは、不意に自分の体に訪れている変化の違和感に気づいた。
(そういえば…暑く、ない…?)
<火溶の籠手の装備者には耐熱が付与される>
「……この籠手、凄いな…」
ロイは何気なく手を軽く振り下ろすと、溶岩がロイの手の動きに反応して動いた。
「……えぇっ!?」
ロイはあまり事態の急展開に困惑しながらも驚くという器用な特技?を発揮した。
<火溶の籠手の装備者は火の操作を可能とする>
今、錬成なんかしてないよな?と、ロイは無意識にやってないかどうか考えたが、もしかしてジンって人が書いてた、面白いコトって……コレのことか…?と、ロイは見事正解へたどり着いた。
溶岩に囲まれた部屋には宝箱以外、溶岩しかなく念のため周りの溶岩も操作して、確認しても何もなかった。ロイは時間をかけて今まで通ってきた道を戻り、しかし道中の罠だけは解除しながら、ドーム状の空間であるスタート地点(?)へと戻った。
(疲れたけど。 水の方も行ってみるか…)
ロイは水の錬金術で出現させた道にも進んでいった。
水の錬金術で出現させた道の道中は、火の錬金術で出現させた道の道中とほぼ同じような罠が多数あった。
火錬金術の道の道中と違う点だけを上げるならば・・・
水が弾丸を撃ち出したかのように殺傷力高めに噴射されて飛び出してきたり
水が刃物のようなスパッとした切れ味のよい鋭さで、四肢と命を刈り取りにきたり
氷で美しく出来た綺麗な矢が無数に飛び出してきたり、
氷の壁が鏡のように反射して、前後不覚に陥った迷路があったり
氷で出来た橋が道中にあって、薄氷で脆い部分がありそこをロイが踏み抜いて落ちそうになったり
火の錬金術の道の道中と最大限の違う点を挙げるなら、すごく寒いっ!
(やっと行き止まりか…)
水の錬金術の道を進んでたどり着いた行き止まりは、巨大でとても深そうで大きな湖だった。
(もしかして、コレを潜って行けってコト…? 潜水とかこの深さ無理だ…)
ロイは湖の辺に座り込んで、水面を覗きこみながら考える。 せめて水の中で、呼吸さえ、出来ればと……
当たって砕けろ、かぁ…… まぁ、水だし危険はないか。 危険だったら、すぐ出ればいいし。
軽く手足をブラブラさせてからロイは水へ飛び込むと、水中へ潜っていき湖の中の様子を確認した。
思ってたよりも、深っ! あれ?水の中、思ってたより、ちょっと温かいかも?
ロイは湖から陸へ上がると、一気に周りの気温で体温を奪われた。 あまりの寒さで、体がガチガチッ…と震え始めた。震えながら生き残るために必死で頭を回転させて対策を考える。
「さっ、さぶぃ!さぶぃ!」
ガチガチと歯を震わせながらロイは慣れた手つきで火を錬成。火で体の暖を取りながら、服を乾かしてロイはしばらくその場で休憩した。
「湖に溶岩でも流し込んでやりたい……水を沸騰させたら水、減ったりしないかな…?」
湖の扱いに悩み悩んで、ロイは仰向けになると視界の一面に氷が目についた。
「…こ、氷だ!! 氷で階段作ろう!」
ロイは閃いて考えを纏めると、即行動に移した。
うる覚えの錬成陣である、水を氷へと錬成する術式を時間を掛けて行っていった。
ここでも、ロイの貪欲な知識欲で学んでいた出来事が役立った。元々炎の錬金術師だったのに……
氷の錬成にかなりの時間が掛かってしまったが、ロイはなんとか湖の底へ続く、氷の階段を作り終えた。氷で作った階段を、丁寧に一歩一歩慎重に降りて氷の底へとロイは無事に降り立った。
もし、段差を踏み外して足でも滑らせて落下したら痛いでは済まされない重傷を負う危険性があったからだ……
たどり着いた氷の底には、冷たく青い宝箱を見つけれた。ロイは溶岩の部屋にあった宝箱と、同じ要領で青い宝箱を錬成して鍵を解錠する。宝箱の中身は蒼い龍の綺麗な模様が入った腕輪が納められていた。ロイは腕輪を観察しながら左腕へ、その腕輪をはめてみた。
<水凍の腕輪の装備者は耐寒が付与される>
「寒く、なくなったぁ…!!」
ロイはしばらく身に着けた腕輪を眺めた後、氷の階段を時間を掛けてゆっくりと一段、一段上がって通ってきた道をまた戻っていき、ドーム状の空間、またの名をスタート地点へ舞い戻った。
今回は二割増し?ぐらいで加筆したかなと思います。
五話目以降から本格的に加筆していくことになります。
話の大筋は変更いたしませんので、ネタバレとか気になる方は旧の方を見て頂ければ幸いです。




