第三話 学園の案内
「……ェッ!?」
水たまりを出現させた張本人であるロイは、唖然とした表情で驚いている。サラのリアクション分を補うかのように… そんなサラはというと、何故か頷いて満面の笑みだ!
まずこの世界の固定概念として、火の錬金術師は火以外を錬成する事が不可能! 火の錬金術師は、火オンリー! 水の錬金術師は、水オンリー! 一人一個性として、世界の固定概念は定まっていたはずだった。
しかしそんな固定概念をロイは、軽く踏み越え火の錬金術師史上初の、水の錬成を可能としてしまった。この世界の、錬金術を学ぶ学者の間で実行実現不可能な難問として話題に上る、そんな誰にも実現なんて出来るはずがなかったから…
ロイの出現させた水たまりに、サラはそっと指先で触れてみたり、手に取ってから口に軽く含んでみたりと、いろいろな観点から検証しながら「…どうやら、あの人が言ったコトは本当だったみたいね…」と、サラは静かに呟いた。
サラの呟きで、驚いて放心していた状態からロイはようやく意識を取り戻した。
「神父様が何か、おっしゃっていたんですか…?」
「……えぇ…あの人、いえ…ナナシは……あなたが、ただの炎の錬金術師…ではないと…」
(……!?)
サラから衝撃の事実を告げられて、ロイは瞬間冷凍されたかのようにピシリ…とフリーズした…
「…ロイ君。ロイ君は…火を、消火? した時、とか…どんな風に、その、理論を…構築、していたの?」
「………? ど、どんな風に…ですか? えーっ…と……火? の、周り? の、空気? の、密度? を…こう…薄くする? 的なイメージで、構築してますね…」
ロイはフリーズから瞬間解凍で立ち直り、ロイは身振り手振りでサラへ自分の想像しているイメージを上手く伝えようと、あたふたと手を動かした。
ロイの身振り手振りは、お世辞にも分かりやすいとはいえず、サラは理解に苦しんだ。しかし何度もロイに説明してもらい、最終的になんとか理解したのか頷いていたので、サラは理解したと思われる。
サラは目を閉じ考えを巡らせる。ロイの伝えてくれた超人的な理論について、自分や他人が理解し、さらに実現する事が可能かどうか等など、教育者の立場としても考えていた。
サラは目を閉じ続けながら「…流石あの人。相変わらず…見る目だけは、衰えてないわね…」と、ナナシに感心したように呟くと、サラはゆっくりと目を開けた。
「ロイ君! あなたの教育方針、今! 私の独断で、決定したわ! と、その前に、学園の中、案内するよ! ついてきて?」
ふんす!とテンション高く意気込んでいるサラは、ロイと手を繋いで離さないようがっしりとホールドすると、またも強引にロイは強制連行されて行く。
(……うわっ…私に拒否権はないのか…)とロイは心の中で愚痴った。
しかし、サラには普通にロイの愚痴が聞こえているものの、あえてスルーする…
ロイは心の声をそのまま呟いてしまう、とても純粋な子なのである。
王立学園内をロイは犯罪者?のような扱いで、サラに強制連行されながら
・錬金術の座学で使用する大きな講堂
・錬金術の実技で使用する大きな体育館
・錬金術の演習で使用する大きな運動場
・錬金術に関する書物が膨大にある図書館
学園の敷地内に併設されている大きな建物には、和食、洋食、中華といった、多岐にわたるありとあらゆるジャンルの食べ物が、学園の生徒で営業時間内であれば無償で食事が可能なレストラン。
学園内で必要な生活雑貨、講義などで使う備品を多種多様に取り揃え、随時購入が可能な購買と呼ばれている売店。
使用用途が不明で、サラでも何故建てられてあるのかわからない建物などetc.を、ロイはなかば強制的に案内された…
余談ではあるが。件の不明な建物を、サラは建て直そうと試みたが一切破壊出来ず、傷一つ付かなかった…
強制連行されたロイは、学園の敷地内にある男子寮の前へと夕暮れ時にようやく到着した。
「ざっくり。 と、学園内を案内したけど…ロイ君、なんか質問ある?」
サラに強制連行という名の案内をされたこと、広大な学園内の敷地を短時間かつ高速で踏破したことによる疲れで、ロイはひどくヘトヘトになりながら「……学園って…広い、ですね。 …すごく…すごく、疲れ、ました…」とロイは率直な感想を述べた。
「そうだよね! 学園の敷地広いし、たくさん歩いたから疲れてるよね! そしてここが! ロイ君が今日から生活する寮! 寮の中は、寮母さんにでも案内してもらって! 今日は疲れてるだろうし、ゆっくり休んで! 明日は今日案内した、図書館で待っててね!」
サラは一方的にひとり言のように、一息で言い切った。
「………はい…」
ロイはぐったりしながらも、なんとか言葉を返した。
「じゃあ、明日よろしくね! ロイ君!」
サラは大きく手を振って学園の外へ向かって歩き出す。
「……はい…ありがとうございます。 サラさん…」
ロイは最後の力を振り絞ってサラへ手を振り返すも、サラは振り返ることもなくさっさと立ち去っていった…
サラが向かった先がリガルの方角だということにもロイは疲れて気づいてはいない。
ロイは疲れ果て思考が働かないが、恐る恐る男子寮の中へ入っていった。
寮の玄関すぐ横手に小部屋があり、寮母さん(?)は暇なのか、休憩中なのか、うっつらうっつらと、眠りについていた…
「……あ、あのー……りょ、寮母、さん…?」
ロイが寮母へ恐る恐る声をかけると、寮母はロイの声で目を覚ましたのか、うっすらと目を開けてロイへ視線を向ける。
「……誰だい?」
寮母さん(仮)は若干不機嫌気味だ!
「…えー…っと。 ロイといいます! サラさんから案内されてきました!」
寮母さん(仮)の嫌悪的な雰囲気に当てられ、ロイは要点を手短みに説明した。
(サラさんが寮母さん(仮)に連絡してくれてると思って、声を掛けたのにィ!)と、ロイは心の中でグチる。そんな寮母はというと、ロイの口から出たサラというフレーズで覚醒し、表情を一転させ優しい笑顔をロイへ向けた。
「あぁ!! あんたが期待の子ってヤツかい!? どれ寮の中、案内しようかね!!」
寮母の御厚意で、ロイは男子寮の中を案内してもらった。学園内をサラに強制連行されて、疲れてヘトヘトだというのに…
寮の一階部分は玄関と、だだっ広いフロアだけだった。寮母の勧めで、広いフロアの中心に立って視線を上空へ見上げてみると、男子寮は吹き抜けの造りになっていて、なかなかの壮観な眺めであった。吹き抜けだからどうした!とロイは疲れもあって自棄になっていたが…
一階フロア下である地下部分には、男子寮が誇る大浴場でとても広々とした、開放的なとてもよい造りとなっていた。(広い風呂って、ゆったりくつろげて最高だからありがたい!)とロイはホクホク顔で、嬉しそうに大浴場へ心を躍らせていた。
ロイがいた孤児院にも、風呂は一応存在した。ひどく簡易的で、一人でも狭く感じる風呂だが…
最後に寮母が、とある部屋の前まで案内してくれた。
「ここがお前さんの部屋だよ。 あー…荷物はもう中へ、運んであるから安心しな。 寮の事についてわからないことがあったら、いつでもあたしに聞きな!」と、笑顔で言い、寮母は部屋の鍵をロイへ手渡した。仕事を終え去っていく寮母の背中へ、ロイは案内してくれたことへの感謝の言葉を送って自室へ入った。
部屋は非常にシンプルで、ベットと勉強机があるだけのこじんまりとした部屋だった。
ロイは部屋に備えつけられたベットへ、電池が切れた人形の様に倒れこみ相当疲れていたのか、すぐに意識を手放してそのままぐっすりと眠りについた…
☆
ロイは自分の空腹という名の、軽快な目覚ましの音で目を覚ました。
寝ぼけながら部屋の窓を開けると、外から心地よい風が部屋に入ってきて、ロイは時間と共に次第に覚醒した…
(腹減ったし、ご飯食べて……ちょっと早いけど、図書館に向かうかぁ…)
ロイは自室を出ると、昨日案内された学園内にあるレストランへ腹の音を鳴らしながら移動。今日の気分的に、パスタな気分だったロイは腹が満たせるミートパスタを大盛りで頂いた。
「ここのパスタより、やっぱ神父様の料理の方がうまかったなぁ…」と、ロイはミートパスタを頬ばりながらしみじみ思った…
ロイの周りで、歓談して楽しそうに食事していた他の生徒は、そんなロイの呟きに驚いたり、ざわついた。ブルガ王国が誇る料理人である、猛者が数多く集まっているこのレストランより、美味い場所が存在していたのかと!
その場所は、何処にあるのか!神父様という方は誰なのか!と瞬く間に時の話題になったが、そんなコトについてまったく知りもしないロイは、ミートパスタを黙々と一人で食べ進めた。
大盛りミートパスタを無事余裕で完食したロイは、次の予定で行く場所だった図書館へと移動した…
ロイは図書館の入り口からキョロキョロと館内を見渡して
(サラさんは…見当たらないか……)
ロイはサラがくるまでの間、図書館の中を見て回って時間を潰すことにした。
昨日のサラの案内で、とてもざっくりと図書館内を見たが、じっくりとはまだ見れていなかったので、ロイにとっても好都合だった。
(………ん…?)
ロイはしばらく図書館内をウロウロしていたら、妙な違和感を感じた。
この違和感が何に対しての違和感かロイには上手く説明できず、何処からか視線を感じるという体感的なものではなく、どこか視覚的な違和感を感じる…と、抽象的な違和感をロイは感じていた。ロイはその場から見える範囲で、ジッと目を凝らし注意深く、違和感を感じ取った箇所の辺りを注視した。
(……コレ…か…?)
ロイは書棚に並んでいる何の変哲もない、ある1冊の本に違和感を感じ取った。その本の背表紙は、特にこれといった特徴がない本。ロイは恐る恐る、その本の背表紙へそっと触れてみるも、なにも変化は起きなかった。
(……気の、せいか…?)
いつのまにか無意識に緊張して、息を止めていたのかふぅ…っと、ロイはひと息つく
(……なんでコレが…気になったんだろう…?)
ロイはその本を…何気なく普通に手にとってしまった…
―カチッ…
書棚の仕掛け、発動…!
ロイは展開の早さに何が起きているのかすぐには理解ができず、動揺しながら周りに何か異常がないか辺りをキョロキョロと見渡す
―ゴゴゴッ…!
手にとった本が収められていた書棚の、数歩ほどの距離にある床板が音を立て動き始めた。その床板の動きが次第に治まると、元々その床板があった場所に大きな変化が……
―下へと続く、謎の螺旋階段…出ッ現☆!
「……降りて…いい、の、かな…?」
ロイは突如姿を現した、謎の螺旋階段へゆっくりと顔を近づけて眺める。
「いいよー! ロイ君なら、降りても!」
ロイの背後に、音もなくいつの間にかサラが佇んでいた。
(…!! び、びっくりしたぁ…!!)
唐突にサラの声が耳に入ってロイは動揺して軽く飛び上がった。
「ここだったのかぁー 結構がんばって、探してたつもり、だったのになぁ…」
サラは突如姿を現した、螺旋階段の周りや造りなどを観察しながら、悔しそうに残念がる
「……えっ!? 探して、いたんですか…?」
ロイは自分が何気なく普通に、簡単に見つけてしまったよ?と意外そうな顔をする
「えぇ…なんでも、この学園の創始者が創った仕掛けらしいの。 だけれど…前任の学園長から、あるらしいっとだけ、聞かされてたのだけど…私には、全然見つける出す事ができなくてね…」
「えっと…この下って…何が、あるんですか…?」
「んー…と…… ダ、ダンジョン…?」
サラは何故か疑問形で、自信なさげに答えた。
「ダ、ダンジョン!? な、なんで、学園にダンジョンなんて、あるんですか!?」
ロイはダンジョンと聞かされてかなり驚いた。神父様から冒険譚として、話で聞いたり過去の伝承から伝え聞いたりするだけの、存在だったダンジョンがこの学園の、この下にあるらしいのだから……
「教育の為、だったかしらん…?」
サラも前学院長からの通達事項程度としてしか記憶していない為、うる覚えだ。
「教育の為なら、もっと頻繁に使用していたりとか、してなかったんですか…?」
「それが…過去にダンジョンでね?…その、生徒がね?…亡くなったらしくて…それで使用を禁止にして、忘れ去られていたらしいの…」
「…そう、だったんですか… 私がダンジョンを使用しても、大丈夫なんですか…?」
「ロイ君の事は、信頼してるからダイジョーブ! ダンジョンでトレーニングでもして、鍛えてきなさい!」
「…あの……亡くなったコト、あるんでしたよね…?」
「男なら、ドンッ! と、行ってきなさい!」
サラは分かりやすいほどに、強引に話題を捻じ曲げた。ダンジョンの探索を、ロイにしてもらいたいが為に…
「も、持ちあげますね……」
露骨な話題逸らしにロイは苦笑いだ!
「あの人の推薦だからよ…?」
当然でしょ? というようなそんな表情だ
「神父様が、ですか…?」
「そう……あの人が、ロイ君のコトを…褒めてたのよ……嫉妬しちゃうわぁ…」
サラはナナシのコトを思いながら遠く、リガルの方角を見つめる
「サラさんと、神父様の関係って…いったい…?」
ロイは今まで気になっていたことをつい口走ってしまう。
「…ふふふっ……オトナの、ひ・み・つ・よ♡…」
サラは妖艶な笑みを浮かべてロイの目をじぃ…と、見つめる
「……っ!…」
(サラさんの特別な人……神父様って一体何者なんだ…? サラさんとの関係性……やっぱり男女の仲だったりするの…?)と、考えながらサラの大人の色気や雰囲気に、ロイはだいぶやられてしまう
「ロイ君!! 人生、何事も挑戦!! さぁ!ダンジョンへ!! さぁ!挑戦よ!!」
サラの説得という名のごり押し? に根負けしたロイは、封印(??)されていたダンジョンへ続いている螺旋階段を下へ下へと降っていった……
この話もあまり加筆できませんでした。。。
加筆したことにはしました。微々たるものですが。。
この話から、試験的にパソコンで書きました。
一話と二話も少し修正しましたが。
ネタバレや話の大筋が気になる方は、旧の方をご覧くださいませ。。
話の大筋は変更いたしませぬので!!




