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33.ご主人様を助け出せ3.




「さあ、みんなのところへ帰ろう、キャロ」


 褐色の少年から手を差し出されたキャロは、自分の目を疑った。

 かわいい家族が人の姿となって助けにきてくれたことにも驚きはしたが、それ以上に驚愕したのは、



 ――たった一撃で、グリンフィールド一族を長年に渡り苦しめていたブラックドラゴンが屠られたことだ。



 その目で、一部始終を見ていながら、今もまだその事実が受け入れられない。

 笑顔を浮かべる少年の背後には、上半身を消失させた黒竜の姿がある。


 ――今だに信じられないですの……。


 ライガーの攻撃は、凄まじい轟音とともに世界を白に染め上げた。

 目を閉じてしまったキャロが、光が収まったと同時に、恐る恐る視界を広げると、そこには悠然と立つ少年がいた。


 対峙していたはずの黒竜は、いない。いや、黒竜だったものはそこにいる。

 地面に両足だけを残し、体の上すべてが消失していた。ライガーが放った一撃で、黒龍が倒されたと理解するまで、キャロは僅かな時間を必要とした。


 無理もない。先祖代々から続く、呪いのような災厄だったブラックドラゴンが死んだなどと、そう安易に受け入れることなどできない。

 だが、どれだけ時間が経っても、黒竜は動かない。否、動けない。

 わかっている。いくら最強の種族とされる竜であっても、上半身が消失してしまえば死は免れない。


「キャロぉおおおおおおお!」

「キャロさま!」


 呆然としているキャロの耳に、もう一度聞きたかった大好きな声が届く。


「燐ちゃん!? ディナ!?」


 声が聞こえる方向に顔を向けると、家族がこちらにかけてくるのが見えた。

 二人だけじゃない。母もいる。


「お母さま!」


 キャロはライガーの手を取ると、彼を引っ張って家族の元へ駆け寄っていく。

 本当に、涙が出るほど嬉しい。こんな危険な場所に、無防備な姿で来てくれた大切な家族たち。

 少年が黒龍を屠っていなければ、食い殺されていたかもしれない。いや、そうなっていただろう。

 家族たちは、承知できたのだ。それだけキャロを大切に思っていたのだ。

 その気持ちが嬉しくて、でも、今とは違う可能性を考えると恐ろしくて、感情がぐちゃぐちゃになって涙が溢れ出てくる。


 ――あ……そうですの、ライガーがいてくれたから、わたくしは……みんなとまた会えましたの!


「ありがとうですの、ライガー!」


 心からの感謝の気持ちをと伝えると、彼は少しだけ照れ臭そうにしたあと、「どういたしまして」と微笑んでくれた。

 そんな彼を見ていると、顔が熱くなる。そうなるのも無理がない、だって彼は――。


「って、ぇええええええええっ!? なんだこりゃぁあああああ!?」


 頬を赤くする少女の思考を遮ったのは、親友の絶叫だった。

 燐は、足だけを残した黒竜の姿に、これでもかと目を見開いている。


「おぉいいいいいいっ、お前か、お前がやったのか!?」


 叫んだと思えば、今度はライガーに詰め寄よろうとした燐は、なぜか彼を見て急停止した。

 その理由を察してしまったキャロは、できるだけ少年を見ないようにしながら、親友に告げる。


「ライガーが助けてくれましたの!」


 その一言だけで、燐は納得してくれた。彼女だけじゃない。ディナも、母も、雷獣である彼が、黒竜を屠ったのだとわかったようだ。


「……あー、なんていうか、一周回って冷静になった。正直、死ぬ覚悟でここに来たんだけど、ライガー、あたしからも礼をいうよ、親友を助けてくれてありがとう」

「私も、心から感謝致します。娘を救ってくださったこと、本当に、どう言葉にしていいか、わかりません」

「……お嬢様、ライガー、よくぞご無事で」


 燐と母が感謝の言葉を述べ、ディナが二人の無事を確認すると涙をこぼした。

 無表情のメイドが、感情をはっきりと露わにし、泣き始めた。

 姉同然のメイドをキャロが抱きしめると、生きている実感が湧いていくのを覚えた。

 本当に救われたのだ、もう二度とドラゴンに怯えなくていい。家族と離れ離れ人らなくていいのだ。そう思うだけで、一度は止まった涙が再び溢れてくる。


 ――みんなとまた会えて、幸せですの。


 喜びを噛み締めていると、


「ところでさ、ブラックドラゴンが倒されたこととか、上半身が消えて無くなっていこととか、いろいろと突っ込みたいことがたくさなるだけどよぉ。あたしは、どうしててめぇは全裸なんだよぉおおおおおお!?」


 またしても親友の絶叫が響き渡った。

 これには泣いていたキャロとメイドも、泣き止んでしまった。

 そして、近くにいる少年を一瞥すると、そっと視線をずらす。


 ――燐ちゃん、わたくしだってそのことには触れなかったのに。


 そう、実は、ライガーがキャロを助けにきたときから、ずっと引っかかっていた。それどころじゃなかったので、あまり気にならなかったというのが正直なところだが、今になってみると疑問でしかない。

 なぜ全裸なのだろう、と。


「ん? ……んんっ?」


 指摘された張本人は、燐に何ってんだこいつ、みたいな怪訝な表情を浮かべてから自分の体に視線を落とす。

 すると、褐色の肌が真っ青になったのがわかった。


「あれぇええええええぇ!? なにこれ、なんで、どうして、俺、全裸なの!?」

「気づいてなかったのかよ! つーか、もういいから、そのぶらぶらさせてるもの隠せよ! いつまであたしたちに見せつけてんだよぉ!」


 おそらく、どのような仕組みで人間の姿になったのかわからないが、雷獣の姿では服を着ていなかったので、そのままだったのだろう。

 服を着ていないくらいで責めるのは酷だ。そうキャロは思う。


「……ふふ、まったくしかたがない方ですね」


 いつしかメイドにもはっきりとわかる笑顔が浮かんでいた。

 ディナは自分のエプロンを外し、少年に手渡す。

 受け取りながら、自分がこれを装備するのかと戸惑ったライガーだったが、背に腹は変えられないらしく、涙ながらに裸エプロン姿となった。


 その姿が、あまりにもおもしろくて、黒竜を倒してしまった少年とは思えなくて、キャロは笑った。

 燐も、ディナも、母も、みんなが声を出して笑い、最後にはやけくそになった少年までが笑い始めた。

 みんなが笑顔の中、キャロはディナの手を握り、続いて母の手を握る。そして、そのまま親友に抱きつき、最後にライガーを見た。


「帰ろう、ご主人様」

「はいですの!」





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