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31.ご主人様を助け出せ1.



「――え?」


 キャロは自分の耳を疑った。

 まさか、と思い恐る恐る背後を振り返り、困惑した。


「俺が、キャロを助ける」

「……なんだ、貴様は?」


 絶望の中で聞こえた声は、間違いなく聞き覚えのある声だった。

 信じられないと思いながら、少女は震える声で声の主の名を呼んだ



「ライガー?」



「ああ、俺だよ。ご主人様のかわいい雷獣だ」

「……う、そ」

「嘘じゃないさ、助けに来たよ」


 その姿は見覚えのある小動物の姿ではない。

 褐色の肌を持つ少年だった。

 年かさは自分とそう変わらない。エスニックな容姿と稲妻のような痣を身体中に浮かべているのが印象的だ。

 キャロが今まで見たことのない雰囲気の持ち主であり、彼の漆黒の瞳に吸い込まれそうになる。


「ライガーなの?」

「そうさ、ライガーだよ」


 声こそ、少女の知る家族のものだが、姿形は別人だ。

 困惑の中、ふとキャロの脳裏に親友が言っていた言葉が浮かぶ。



 ――雷獣は人の姿になることができる。



 まさか、そう、なのか。

 彼は肯定してくれたが、いまだ褐色の少年が雷獣なのだと受け入れがたい。

 しかし、それ以上に、


「どうして?」


 疑問が無意識に口からこぼれた。

 彼がライガーであるのなら、先ほど自分を守ろうと、燐と一緒に黒竜にボロボロにされたはずだ。にも関わらず、何度も立ち上がり、そしてまた倒れた。


 そんな雷獣がなぜ、ここにきたのか、なぜその姿なのか、なぜ、なぜ、なぜ、と色々な「なぜ」が脳裏をかすめていく。

 言葉にして問わずともわかっている。わかっているからこそ、涙が溢れて声にならない。


「そんなの、俺のかわいいご主人様を助けるために決まってるじゃないか」




「ほう。雷獣を名乗るとは、矮小な子供よ。我からキャロラインを奪おうというのか?」



「俺はさ、キャロ。ずっと、この世界に来た理由を考えていたんだ」


 黒竜の声が聞こえていないのか、少年はまっすぐキャロを見つめ、言葉を重ねる。


「貴様っ、我を無視するとは小癪な!」

「はじめはキャロと出会うためだと思っていたんだ。悲しい運命を背負った君を慰めるために」

「……いいだろう、よほど死にたいと見える!」

「でも違う。俺がこの世界にきたのも、君と出会ったのも、そんな理由じゃない。俺はね、キャロ。君を、俺のかわいいご主人様を幸せにするために、ここにいるんだ」

「……らいがぁ」


 少年の告白を受け、嗚咽を零しながら、キャロは心が満たされていくのを感じた。

 これほど嬉しいことはない。出会ったばかりの少年が、自分だけのために、ここにいてくれる。

 もう、たとえこれからなにがあろうと、彼と一緒なら怖くない。そう思った。


「ならばキャロラインと共に我の腹に迎えてやろう。主従で仲よく我が糧となるがいい!」

「……あのさ、さっきからうるさいんですけど」

「――なんだと?」

「なにをそんなテンション高くして騒いでいるのかわからないんだけどさ、俺は今、大事なことを言ってるんだよね。邪魔しないでくれないかな?」

「きさまぁああああああっ、どこまで我を愚弄するつもりだぁあああああああっ!」


 ブラックドラゴンが怒りに任せて火炎を吐き出した。

 キャロの頭上を抜けて、少年に一直線に襲いかかる。

 その火炎は、込められた魔力も、炎の密度も、凄まじいの一言だった。直撃すれば、骨さえ残らない。それだけの威力を有している。

 だが、


「うぜぇ」


 雷を纏った右腕を振るうと、直撃しようとしていた火炎が弾かれた。

 行き場を失った灼熱の業火は、地面と木々を焼いていく。


「……我の炎を、弾いただと?」

「あー、もういいや。さっさとお前を倒して続きをやるから。ほら、かかってこいよ、クソドラゴン」


 必殺のはずの火炎を容易く防がれてしまった黒竜は、困惑を覚えたが、それも一瞬だけ。次に湧いてきた感情は狂おしいほどの怒りだった。

 矮小な人間が愚かにも、竜と対等に戦えると信じている姿は不愉快でしかない。


「我を倒すだと!? ほざいたな人間! 我が炎を弾いただけで調子に乗るな! 黒竜の力を思い知れっ!」


 大気が震えるほどの咆哮と共に、ブラックドラゴンがライガーに襲いかかった。




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