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26.燐・ダックワース.



 燐・ダックワースは、東方に魔法使いの母とこの国の魔法使いである父の間に生まれた。

 幼い頃から魔法使いとしての才能を遺憾なく発揮し、天才魔法使いと褒められながら育った。両親の才能をあますことなく受け継ぎ、子供ながらに魔法学校の入学を許され、飛び級を繰り返し上級生となった。


 しかし、その代償も大きかった。燐は天才ゆえに、周囲と馴染むことができなかったのだ。子供ながら年上の生徒たちに混ざり、引けをとることなく成長していく様子は嫉妬を掻き立てるには十分過ぎた。

 それでも気にかけてくれる人間もいたのだが、人付き合いの悪さと、乱暴な口調のせいで、声をかけてくれる人間もいなくなった。


 本人の社交性のなさ、周囲の嫉妬と僻み、すべてが合間って孤立することとなった。

 だが、少女が気にすることはなかった。理解者である家族がいればそれでいいと自己完結していたからだ。

 なによりも天才ゆえに傲慢な一面を持っていた燐は、周囲を見下す傾向に陥っていくこととなる。


 魔法使いとして優れてはいるものの、生徒としてはお世辞にも好かれる人間ではない。

 傲慢な言動、協調性のなさが浮き彫りとなり、気づけば天才少女として持て囃されていたのが一変して、扱いづらい問題児として、生徒はもちろん、教師からも疎まれるようになった。

 子供ながらに、学校に居場所を失ったことに気づいた燐は、自主退学することとなる。しかし、それでも構わなかった。家族という居場所があったからだ。


 だが、彼女の受難はそれだけでは終わらない。

 魔法使いの家系に生まれ、両親も優れた魔法使いであるにも関わらず、二人の妹は至って凡人だった。

 そんな妹たちにとって、天才の姉は大きな壁となってしまう。不幸にも、天性の才能だけではなく、立ちはだかる壁を自力で乗り越えて来た努力家でもある燐には、妹たちのコンプレックスなどかけらも気づくことはできなかった。


 少女は妹たちよりも自分が優れていることを知っていた。それでもかわいい自分の妹だ。訓練し、学ぶことで、できないことはないと信じていた。いずれは自分と同じように優れた魔法使いになることを信じて疑っていなかったのだ。ある意味、家族だからこそ無条件に信頼していたせいもあるだろう。ゆえに、いつまでたっても成長せず、実力に差が開いていくことを疑問に思う日々。


「ねえ、本気でやってるの?」


 一度だけ、妹たちにそう尋ねたことがある。結果は、顔を歪ませて号泣し、睨まれてしまった。母には心無い言葉を妹に向けてはならないと叱られる始末だ。燐は、なぜ自分が怒られたのか理解ができなかった。

 まさか自分の才能、言動、すべてが妹たちのコンプレックスを刺激し、成長を阻害していたなどと夢にも思わなかったのだ。

 燐が妹たちの心の傷に気づいたのは、時すでに遅く、拒絶されたからだ。謝罪しても受け入れられず、両親さえ味方になってくれない。自分がいったい何をしたというのだ。


 学校から追われ、家にさえ居場所がなく、少女は逃げるように出奔した。

 生きるために冒険者として金を稼ぎ、ドラゴンを倒すため戦力を集めているグリーンフィールド家の募集に興味を覚え、雇われることとなった。

 ドラゴンを倒した経験はあり、成功報酬は破格の値段だ。衣食住も保障されているのが嬉しかった。命の危険があると同意書にサインするも、それはいつものことだ。


 生活するために実践を繰り返した天才魔法使いの実力は、相当のものへ進化していた。その自負があり、負け知らずだった少女は、同じく雇われた冒険者や魔法使いたちと変わらず、簡単な依頼だと思い込んでいた。


 結果は、惨めなほど圧倒的に敗北した。


 雇われた半分は死に、半分は逃げ出した。唯一残った燐も大怪我を負っていた。

 そんな少女がなぜそのままグリンフィールド家に留まることになったのかといえば、ひとえにひとりの少女と、自分を受け入れてくれた家族のためだった。


 孤独に生きた燐の性格は、家族と暮らしていた頃よりもこじれていた。しかし、そんな燐をありのまま受け入れ、友達になってほしいと願った少女がいた。貴族なのにとても穏やかで、優しく、笑顔がまぶしい初めての親友。

 彼女と、同じように自分を受け入れ、家族とまで言ってくれたブレンダとディナのために、燐は止まり、ブラックドラゴンを倒すと決意したのだ。


 生まれて初めて味わった挫折は苦々しく、乗り越えることができなければ親友を失い、家族を絶望のどん底へ陥らせてしまう。それだけはなにがあっても阻止しなければならない。

 どんな手を使っても、たとえ自分を犠牲にしても、必ずキャロを守るのだ。





 そして、二年後――命を賭して親友を守ると決意したはずの少女は、なにもできずに敗北した。






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