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20.覚悟.



 一週間があっという間に過ぎた。


 キャロは相変わらず、自身に降り注ぐ過酷な運命を感じさせない笑顔を浮かべ、元気一杯だった。

 ライガーと出会ったことで、彼女の明るさは増した。家族には、無理しているように見えていたが、今のキャロは心から楽しそうだ。きっと雷獣のおかげだろうと感謝していた。


 工房に引きこもってばかりの燐を無理矢理連れ出し、屋敷の近くにある原っぱで昼食を取りもした。

 毎日キャロの笑い声が絶えず、まるでこのままなにごとも起きずに幸せに暮らしていけるのではないかと錯覚さえしてしまうほど。


 夜になればベッドにライガーと一緒に潜っては、彼の世界の話を何度もねだった。

 こことは違う地球という世界の日本という国。文化。今は会えない友人たち。


「わたくしもいつかライガーの故郷へ行ってみたいですの」


 決まってそんなことを言うキャロの心情は、なにを思っているのだろうか。

 きっとキャロはその願いが叶わないと知っている。

 世界と世界を移動することが不可能だと言う意味ではなく、どれだけ優しく穏やかな時間が流れようと、いずれ悪意を持った終わりが訪れるのだと覚悟しているのだ。


 対し、ライガーたちは諦めていなかった。その筆頭が魔法使いの燐だ。

 彼女はひとつの希望を雷獣に見つけていた。自分の研究では、ドラゴンを倒せない。ならば、倒せる力を持っているであろう雷獣を親友のために利用しようとした。


 これにはメイドでありキャロを妹のように可愛がっているディナが反対することとなる。燐の考えを知れば、ブレンダも、他ならぬキャロ本人も反対しただろう。

 しかし、ライガー自身が望んだ。利用してほしい、と。それでキャロが救えるのならどんなことでもすると訴えたのだ。

 このことを知るのは、ライガーと燐、そしてディナの三人だけ。


「雷獣としての力を覚醒させる気はないか?」


 そんな問いかけとともに始まった、新たな試み。

 無論、あるに決まっている。ライガーは戦う力が欲しい。燐は、雷獣の力が欲しい。利害は一致していた。


「当たり前だけど、リスクは伴うからな」


 念のために忠告をしてくれた燐からは、キャロを助けたい感情と、利用しなければならないがライガーを危ない目にあわせたくないという本心を感じた。

 考えることなく雷獣は受け入れた。


「万が一のことがあれば、お嬢様が悲しみます」


 ディナがそう嗜めるも、可能性を前にしてライガーが引くことはなかった。

 雷獣の脳裏には、笑顔のキャロと、戦うのではなく娘のそばにいるだけでいいと言ってくれたブレンダの顔が浮かぶ。

 だからこそ、引く理由などないのだ。


 キャロには数えきれない恩がある。見知らぬ世界に一人迷い込み、しかも人間の姿ではない。それがどれだけ恐ろしかったか、どれだけ心細かったか。

 少女はライガーを家族として受け入れて、一緒にいてくれる。ブレンダたちは、少女がライガーによって救われたと思っているが、逆だ。キャロがライガーを救ったのだ。


 この見知らぬ世界で、孤独を感じなかったのはキャロとそして家族のおかげだ。どれだけ少年が救われたのかなど、言葉では言い表せない。

 ゆえに、どのようなリスクを背負ったとしても、キャロたちを救いたい。

 自分のことなどどうなっても構いやしない。たとえ少女たちが悲しもうと、勝手なことをしたと怒ろうと、生きていて欲しいのだ。笑顔でいて欲しいのだ。


 そのためにはドラゴンが邪魔だ。グリンフィールドを苦しめる、ドラゴンは必要ない。

 キャロが生きていなければ、ディナたちも永遠に苦しむことになるだろう。それもまた雷獣にとって許せることではなかった。


「必ず助けるから」


 ライガーは覚悟していた。どんな代償を支払おうとしても、必ず大切なご主人様を幸せにしてみせると。



更新ペースが少し落ちます。

どうぞよろしくお願い致します。

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