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18.ご主人様を救いたいと思う2.



「ふーん」


 廊下でディナと燐の会話を盗み聞きしていたライガーは、二人に気づかれないように静かに厨房から離れていく。

 正直なところ、安心していた。


 ドラゴンという脅威に怯えるのはわかるが、みんな諦めていると思っていたからだ。

 しかし、燐は違う。彼女が研究をしている理由は、ブラックドラゴンからキャロを救うためだった。

 仮に、自分のことをドラゴンにぶつけようとしていることなどなにも気にならない。むしろ、よく考えてくれたと感謝したい。


 ライガーは心優しい少女が生贄になることを望んでなどいない。

 いくら、ここが異世界で、剣と魔法が存在するファンタジー世界であったとしても、少女がドラゴンに食われることなどあってはならない。


 ――俺でもドラゴンと戦える。違うよな。俺ならドラゴンを倒せる。


 まだ雷獣としての力を扱えるわけではない。だが、時間さえあれば、言葉を喋れるようになったみたいに、雷も使えるようになるかもしれない。ならば、戦わないという選択肢は雷獣の中には存在しなかった。

 一度、燐と面と向かって話す必要がある。そうライガーが確信した時だった。


「ライガー殿。よろしければ私とお話をしませんか?」


 雷獣を呼ぶ声がして、顔を上げればブレンダが微笑み立っていた。


「……奥様」

「うふふ、あなたはキャロの大切な方です。堅苦しい呼び方などせず、どうかブレンダと」

「えっと、じゃあブレンダさんって呼ばせてもらいます。あの、俺のこともライガーとだけ呼んでください」

「あらあら、それは少々難しいですわ。夫が熱心な雷神信仰でしたので、雷神の眷属である雷獣殿を気安く呼ぶなどとは。と、言いたいのですが、あまり困らすつもりはありませんので、ライガーさんと呼ばせていただきます」


 ブロンドの髪を揺らしてからかうように微笑むブレンダは、キャロのような大きな娘がいるとは思えないほど若々しい。いっそ年の離れた姉妹と言われた方がしっくりくるほどだ。


「キャロちゃんはいいんですか?」

「やるべき課題はもう渡してありますので。それに、会話ができるようになったライガーさんと改めてお話したかったのです」

「もちろん、喜んで」

「よかったです。それでは私の部屋にいきましょう。ふふ、ご無礼を。ちょっとキャロたちが羨ましかったのです」


 ひょい、と抱きかかえられてしまった雷獣は、ブレンダの部屋に連れていかれた。

 ソファの上に降ろされたライガーは、テーブルを挟んで婦人と向かい合う形となった。


「改めて、あなたと会話できることに、驚きと、それ以上の喜びを覚えています」

「あははははは」

「私たちの世代では、雷獣は絶滅種であり、本などで目にしたことがある程度でした。夫が生きていれば実に喜んだでしょう」

「その、旦那さまのことは残念です」

「ありがとうございます。キャロからお聞きしたのですね」

「はい。ごめんなさい。きっとキャロちゃんも俺が話せると思っていなかったから話したんだと思います」


 人形などに話しかける感覚だったのかもしれない。だが、ライガーはこうして意思疎通ができてしまった。

 会話ができることをキャロは喜んでくれたが、彼女の独白を聞いてしまったことはどうなんだろうかと不安に思っていたりする。


「謝る必要などありません。グリンフィールド一族はドラゴンに呪われていると有名ですから。それに、キャロも愚かではありません。会話こそできずとも、あなたが言葉を理解していると察していたでしょう。その上で、自分の身の上を知っておいて欲しかったのだと思います」

「あの、俺がこんなことを言うのは差し出がましいと思うんですけど、逃げようとは思わないんですか?」


 ライガーにとってもっとも疑問だったのは、なぜドラゴンに狙われているキャロたちが、脅威から逃げようとしないかだったのだ。


「普通は逃げるんじゃないんですか?」

「逃げ果せることができるのであれば、有無を言わさずキャロを抱えて逃げましょう。ですが、それは叶いません。今まで、姿を隠そうとした人間がいなかったわけではないのです」

「――じゃあ」

「はい。逃げることだけなら、もしかすると可能かもしれません。ですが、領地が、下手をすれば国があの忌まわしいドラゴンによって被害を与えられてしまうでしょう」


 今までとは打って変わり、鎮痛な表情を浮かべるブレンダ。彼女だって母親だ。娘のためにできることをしようとしたはずだ。

 雷獣は、ようやく自分がデリカシーのないことを言ったのだと自覚した。

 しかし、言葉というのは急には止まらない。知りたいことがあれば、次から次へ、口から出てくるのだ。





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