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16.雷獣が滅びた理由2.



「どこにでもいるよね。そういう人って。でもさ、雷獣って儲かるの?」

「それ以前の話として、雷獣は神聖な生き物だ。それを相手に金儲けしようと企む方がおかしいんだけど、実際金になったんだ」


 神聖なものであろうと金儲けに使おうとする人間の強欲はどこの世界でも変わらないのだと、少々がっかりした。


「雷獣だってもとがそう多いわけじゃないんだ。いなければ、挑めないって問題も出てくる。ま、雷獣を手間かけて探すのも一つの試練だったんだけどな。信仰だって同じさ。雷獣がいなくとも信仰はできる。あくまでも雷神の眷属であって雷神じゃないんだから。ただ、人間が触れ合うことができる雷神眷属っていうのはやはり貴重だってことさ」

「つまり、いなくても困らないけど、いたら喜ぶ人たちがいるから需要があったってこと?」

「そんなところだ。ある意味、信仰対象が姿を見せないことは神聖さの証でもあったんだ。でも商人にとっては、姿を見せない雷獣だからこそ希少価値があると思い、捕らえようとした」

「あー。なるほど」

「はじめは生け捕りだった。当たり前だ。挑むべき雷獣が、信仰すべき雷獣が死んでいたら意味がないどころか、売ろうとした相手に殺されちまう」

「あれ? そんな簡単に生け捕れるの?」

「無理にきまってるじゃねーか」


 ライガーの疑問を、無理だと燐が断言した。


「正しく言えば、犠牲を出せばできる。その犠牲は大きくても利益はとても大きかったって聞く。相手は貴族や雷神教会だ。もっとも両者は悪童商人から保護するつもりだったらしいぜ」

「犠牲を出してでも捕らえる価値があったってこと?」

「その通り。最初から欲にまみれた奴もいたが、多くの信仰者は雷獣の売買を反対だった。買ってまで保護しようとしたのは苦渋の決断だったらしいぜ。だけど、買う人間がいるとわかれば捕まえようとする。いくら後ろ指をさされても気にしなくなるほど大金が入るんだ。無理もねーさ」


 嫌な話だと思う。

 希少価値があれば犠牲を払ってでも売りたい、買いたい人間はいるのだ。

 それが金であればまだいいが、命を犠牲にする必要が本当にあったのかと思わずにはいられない。

 もちろん、金が必要で、それこそ命がけになる人だっていることはわかっているので、全否定はできない。


「金になるとわかれば、犠牲を少なくして大金をせしめようと考える。冒険者が一攫千金を狙い、命がけて立ち向かう。雷獣だって大人しく捕まりはしないから、被害の方が多い。それでも、捕まえさえすれば一生遊んで暮らせる金が手に入るんだ、目の色を変えるさ」

「かわいい雷獣を酷いですの」

「このデブ猫がかわいいかどうかはさておき、次第に生け捕りが面倒だと諦め、殺し始めた。その方が被害も少なくていい。もちろん、雷神信仰者や貴族は怒り狂ったね。だけど、それ以上に、成体を調べたいと望む学者たちは喜んだ。教会の手前、逆らってまで解剖なんかはできない。だけど、もう死んでいれば好きにできる、とな」

「……あまり聴いていて気持ちのいい話ではありませんね」


 キャロに続き、ディナも不快そうに眉をひそめた。


「あたしだってこんな話したくねーよ。でも、こいつは知っておくべきだろ」

「それは、そうですが」

「んじゃ続けるぞ。学者だけが喜んだわけじゃない。魔法使いや職人たちにとっても、雷獣の価値は高かった。遺体からは、毛皮や骨が手に入る。それがどれだけの価値があるのか、当時じゃないとはきりしないけど、最低でも貴族の屋敷が手に入るほどだったらしい」

「うへぇ」


 燐の説明によれば、骨一本だったとしても魔法の媒体や、武器の素材として優れていたという。中には、雷獣の肉に不老不死の効果があるという眉唾なものまであったらしい。

 貴族のように成人の儀の相手としてならまだ扱いはよかっただろう。あくまでも信仰の対象として、敬意を持って挑むのだから。


 しかし、学者や魔法使い、職人は違った。もともと生きていない状態だったこともあり、材料として扱ったという。

 無論、一番の原因は商人や冒険者だが、当時に彼らが全員そうだったわけではない。しかし、決して数が多くない雷獣を絶滅させるには十分過ぎたのだ。


「国や教会が雷獣を保護しようとすぐに動き出したんだが、人間の欲望のほうが強く、早かった。気づけばもう姿が見えない。絶滅したとされたよ。ま、商人や冒険者の大半が捕まって私財没収、禁固刑や死刑になったんだけど、雷獣にとってはそんなことが気休めになるはずがないわな」

「ふーん」

「おいっ、他人ごとみたいにしてるけど、お前がその希少価値のある雷獣本人なんだからな! もしお前しか雷獣がいないなら、間違いなく面倒なことになるぞ!」

「やっぱりそうなの?」


 薄々そんなことになるじゃないかなと思っていた。

 雷獣が生存していた頃でさえ、燐の説明通りの価値があるのなら、絶滅したと言われる今ならどうなることやら。

 考えただけでお腹が痛くなる。


「雷獣が滅んでから百年くらい経ってるから、パッと見てお前が雷獣だなんて気づかないだろうけど、万が一だってあるんだから、お前はデブ猫のままでいろ」

「うん。そうするよ。心配してくれてありがとう」


 言葉つかいが悪いものの、燐が自分のことを心配してくれていることはよくわかった。


「――ばっ、ちげーよ! お前がいなくなったらキャロが悲しむだろ! それだけだ!」


 感謝の言葉を伝えると、顔を真っ赤にして否定する自称天才魔法使い。


「ふふふっ、燐ちゃんもすっかりライガーと仲よくなってくれて、わたくし嬉しいですの!」

「ち、違うって言ってるだろ!」

「まったく素直ではありませんね、燐。知っていますよ、実はあなたがふわふわもこもこした生き物がすごく好きなことを」

「ぎゃぁああああああああ! なんでお前はそういうこと言うかな! つーか、なんで知ってんだよ!」

「あなたの汚い工房を片付けるのが誰だと思っているのですか。ベッドの上に所狭しとたくさんの人形があれば誰だって気づきますよ」


 キャロだけではなく、ディナまでもが余計なことを言うため、燐の表情は真っ赤を通り越して青くなっている。


「うふふ、燐ちゃんはいつだってかわいらしいわよ。ねえ、キャロ」

「はいですの!」

「……奥様まで、もう勝手にしてくれ」


 ついにはライガーを抱っこしたまま、ブレンダまでも微笑ましげな瞳を向けるため、味方がいない燐は膨れっ面となったのだった。




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