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15.雷獣が滅びた理由1.



「うわっ、本当に喋りやがった。見た目デブ猫が言葉を喋るとか、キモっ」

「失礼だな、君は」


 会話が可能となり、朝を迎えるまでキャロと話し続けたその日。

 睡眠不足にも関わらずテンションの高いご主人様によって、雷獣が言葉を発したことが家族に知れ渡った。


 当初、少女が願望を夢に見たのかと思われたが、腕の中にいるライガーが「おはようございます」と発したことで、一同は大きく目を見開き驚愕した。

 文献には雷獣は会話可能と書かれていたが、まさか本当にできるとは半信半疑だったらしい。

 そして、朝食を終え、お茶を飲みつつライガーに注目している。

 食堂のテーブルの上に置かれ、三人から視線を受ける雷獣は実に居心地の悪さを覚えていた。


「私たちの言葉を理解しているとは思っていましたが、まさかこうして会話が可能になるとは……本当に雷獣なのですね」


 興味深そうにディナが雷獣に手を伸ばし、毛並みをいじる。

 しなやかな指が心地よく、つい目を細めてしまう。


「こうしているとただのデブ猫にしか見えませんので、不思議です」


 人間であったことはキャロと二人だけの秘密だ。

 メイドと一緒に二度もお風呂に入った身としては、思春期真っ盛りの男子でした、など口が裂けても言えない。


「私にも撫でさせてくださいね」


 そう手を伸ばしたのは、キャロの母であるブレンダだ。

 彼女の手が届くように近づくと、ひょいと持ち上げられて、膝の上に収まった。


「あらあら、かわいらしいじゃないですか。喋ったことには驚きましたが、意思の疎通ができて困ることなどありません」


 そう微笑む未亡人の優しげな笑顔にチクリと心が痛んだ。

 彼女は夫を亡くし、娘まで亡くそうとしている。それにも関わらず、娘と変わらず接していられるこの人はとても強い人だと思う。


「ライガー殿、どうか娘の良き話し相手になってくださいね」

「お任せください」


 仮にも前領主の妻という立場がある女性が、獣に頭を下げるのだから内心慌ててしまう。

 だが、周りの人たちはとくに驚いておらず、ブレンダがもとから言動が丁寧なのだとわかった。

 一方、第一声がキモっ、だった失礼千万な自称天才魔法使い燐は、しげしげと無遠慮な視線をライガーに向けていた。


「あたしは雷神信仰者じゃないからな。お前が雷獣だったとしても下手に出ることはないからな」

「別に下手に出てほしいわけじゃないけど、雷神信仰って?」


 以前にも雷神信仰の話が出ていたが、その時は言葉を発することができなかったので気になっても問うことはできなかった。


「あー、そこからか。この国っていうか、大陸では様々な神を信仰対象にしているんだよ。この国だと戦神とも称えられる雷神カヅチ、愛の守護者女神サクヤだな。でだ、雷獣は雷神の眷属とされていているから信仰者や、神々を信じる人間からすれば貴重な信仰対象なんだよ。たとえ見た目がデブ猫でもな」

「……必ず毒を吐くね、君は。でも、どうしてその信仰対象が絶滅の危機に?」

「あのなぁ、お前の種族だろ。知らないのかよ?」


 知るわけがない。いくらこの姿が雷獣であろうと、中身は別世界の学生なのだ。


「知らないから聞いてるの」

「ったく。しかたねえ、よく聞けよ。雷獣は雷神の眷属と崇められている一方で、雷を自在に操る強さから、一部の貴族が成人の儀として戦う相手にすることが多かった」

「まさか、それで?」


 内容によってはキャロに聞かせるべきじゃないと悩む。


「違う違う。人間が勝てるわけねーだろ。戦うのは成人したばかりのガキがひとりなだぜ。ま、挑んだことが重要なんだ。要は雷獣の胸を借りて大人になりましたよ、根性ありますよ、と示したいのさ」

「燐……あなたはもう少し言葉を選びなさい」


 言葉を飾らない燐の言い方に、ディナが嘆息交じりで注意をする。

 貴族であるキャロとブレンダなどは苦笑している。


「はいはい。ったく。それで、中には挑むだけじゃなくて倒そうと躍起になる奴もいた。それはいいんだけどな。問題は、雷獣で金儲けしようと企んだ奴らだ」




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