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14.グリーンフィールド伯爵家の事情4.



「なので、わたくしもいずれ食べられてしまうのですの」

(――っ、やっぱり)


 話の流れからそんな気がしていた。

 この屋敷の誰もがキャロを愛している以上に、気を遣っているのがわかっていたから。

 過去の話を聞けば、この優しい少女がどのような運命にあるのか想像するに容易い。


「ドラゴンは言いましたの。もう、飽きた、と。わたくしたちが恐れるのをやめて、生きるのに疲れ諦めてしまったせいで、反応が悪くなったので飽きたと言いましたの」

(聞けば聞くほど腹がたつドラゴンだ)

「私はドラゴンにお願いしましたの。飽きたのなら、わたくしを食べた後、どこかに去ってほしい。わたくしを食べるまでの間、領地の人たちに何もしないでください、と」

(俺よりも年下の女の子が誰かのために犠牲になろうとするなんて)

「ドラゴンは約束してくれました。人間を襲わない、わたくしを食べたらこの領地から去ってくれると言ってくれましたの。約束は守られていますの。ときどき家畜は襲われますが、人間は襲われていませんの」


 それがいいことなのか悪いことなのか雷獣には判断ができなかった。

 ただ、キャロが、ドラゴンに命を奪われる運命であることは間違っているとわかった。


「ドラゴンは、いつわたくしを食べるのか決めていません。わたくしが怯えるのを、家族が悲しむのを見ていたいのです。そして、歯向かってもほしいみたいですの。そうすれば、人間を食べる口実になりますもの」


 いつの間にか、キャロは嗚咽をこぼしていた。


(泣いている女の子を慰めることさえできないなんて)


 彼女を慰めたい、せめて今だけは笑顔にしたい、キャロのことを助けたい。

 新しい名前をくれたご主人様にたったひとつでもいいので、なにかをしてあげたかった。


「――キャロ」

「え?」


 少年が強く願ったからか、それとも神様が存在していて泣いている女の子を慰めろと力を貸してくれたのか不明だが、間違いなく雷獣の口から少女の名がこぼれた。


「ら、ライガー、今、わたくしの名前を」

「キャロ、ちゃん」


 声を出すということがこうも難しいものだとは思わなかった。

 人間の姿だった頃、話すことを意識してしたことはない。だが、なにかが違うのか、この体では声を発することが難しい。しかし、一度でもできるなら、二度、三度と続けられる。


「……キャロちゃん、キャロお嬢様」

「も、もしかして、ライガーですの?」


 ベッドから跳ね起きた少女は、勢いよく雷獣の顔を自分のほうに向けて目を合わせた。


「うん、ようやく喋れたね」

「ああっ、そんな、すごいですわっ。本に書いてあった通りににお話しすることができるんですの?」

「ずっと、話したかったんだ。でも、言葉がわかっても、声が出なくて」


 今もまだ、流暢に話すことはできない。それでも、今までと違って声届けることができる。


「――っ、じゃあ、さっきのお話も、全部わかっちゃっていますの?」

「うん。ごめん」

「謝らないでくださいですの。わたくしが勝手に話したのですから、ライガーは悪くありませんの」

「俺には、力がないんだ。キャロちゃんを、助けてあげることも、できない。なら、せめて、君のそばに、ずっといるよ。食べられる時も、一緒だ」


 雷獣になったとはいえ、戦う力も、雷を操ることもできないライガーにとって、恩人のためにできることはずっとそばにいることだけだ。

 彼女のためなら命だって惜しくない。そう思わせるほど、十分に優しくしてもらった。


「……ライガー、嬉しいですの。でも、ライガーにはお母さまたちのことをお願いしますの。きっとわたくしが食べられてしまったから悲しんでしまうと思いますから」

「キャロちゃん」


 自分がドラゴンに命を奪われる運命であっても、家族を大事に思う気持ちを持ち続けている彼女のことを尊敬してしまう。

 もしライガーが同じ立場であったら自棄になっていたに違いない。


「暗いお話はこれくらいにしましょう! それよりも、せっかくお話ができるのですから、ライガーのことをたくさん教えてほしいですの!」

「わかったよ。俺のことでよければ、よろこんで」


 少しでも慰めになればいいと考え、少年は自分のことを包み隠さず打ち明けることにした。


「俺の秘密を教えてあげるよ。実はね、俺、人間だったんだ」

「え、えええっ!? 本当ですの!? でも、燐ちゃんは雷獣って言ってましたの」

「そこがよくわからないんだよね。人間だったことは間違い無いんだけど、気づいたら雷獣になってたんだ」

「ふわぁぁ、すごいですの。そんなことがあるんですのね……あっ、じゃあ、人間だったのにペット扱いしてしまいましたの、ごめんなさい」

「謝ることなんてないよ。ペットっていっても、家族同然だったじゃないか。俺だって、助けてもらったんだから、感謝しかないよ」


(ああ、そうか、きっと俺は――)


 今までずっと疑問に思っていたことの答えが見つかった気がした。


「俺は今まで、知らない世界で目を覚まして雷獣になったりしたんだろうって考えていたんだけど、きっとキャロちゃんと出会うためだったんだと思う」

「……ライガー」

「俺が君にできることは全部してあげたい。だから、これからもよろしくね、ご主人様」

「――っ、はいですの! ずっとずっと一緒ですの!」


 今日交わした約束を絶対に守ろう。

 そう決意したライガーは、夜が明けるまでキャロと多くのことを話し続けたのだった。




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