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13.グリーンフィールド伯爵家の事情3.



(なんだかモヤモヤする)


 ライガーはベッドで眠るキャロの腕の中で、昼間のことを考えていた。

 ディナと燐の会話から、グリンフィールド一族が、キャロがドラゴンに呪われているらしい。だが、そのような素振りをご主人様から感じたことはない。

 実際に街で泥まみれにされて帰ってきているメイドがいるので、住民の一部に疎まれているのは事実なんだと思う。


(キャロちゃんがときどき意味ありげな感じだったのは、呪いのせい?)


 学校に通うことなく人の少ない屋敷に閉じこもっていることなどを考えると、呪われているからだと考えるとしっくりくる。


「……ライガー、起きてますの?」

「にゃぁ」


 抱きしめられているので顔は見えないが、キャロの声にはどこか、いつものような明るさがなかった。


「あのねですね、わたくしのお話をきいてください」

「にゃ」


 断る理由などない。返事こそできないが、きっと少女はそんなことを求めていないだろう。ただ、独り言になっても構わないから口にしたいのだ。そんな風に思う。


「今日ですね、ディナが街の人に泥を投げられたそうですの」

(――っ、知ってたんだ)

「泥だらけのメイド服があったので、もしかしてと思いましたの。ディナはいつも買い物にはひとりでいきますし、わたくしのことを街に連れていきたくないようでしたけど、これで原因がわかりましたの」

(隠し事って難しいね。きっとキャロちゃんだって、今まで薄々気づいていたんだろうな)

「わたくしのせいですの。わたくしが、ドラゴンの呪いにかかっているから」


 声が震えていた。嗚咽こそ聞こえないが、泣くまいと我慢しているのかもしれない。

 ライガーは、今までキャロがこんなにも弱々しい声を聞いたことがない。いつもの彼女の声は、元気で、よく弾み、生き生きとしている。まるで別人だと勘違いしてしまいそうだ。


「にぁ」


 雷獣には慰めることもできず、ただ情けない声を出すだけ。


「慰めてくれますの? ふふっ、ライガーは優しいですの」


 しかし、少女に気持ちが伝わったのか、小さく笑顔を浮かべてくれたように思えた。


「ねえ、ライガー。わたくしのお父様は、この領地を収めていた領主でしたの。おじいさまも、そのまたおじいさまも、ずっとずっと昔からこの地で暮らしていましたの」


 不意に語り出したキャロ。

 ライガーは遮ることをせず、静かに耳を立てる。

 もしかすると、雷獣にとって知りたいことを、少女の口から聞くことができるかもしれないと思った。


「ですが、あるとき、黒いドラゴンが領地に現れたのです。闇のように暗い、漆黒のドラゴンですの。ドラゴンは悪いことをたくさんしました。家畜を襲い、田畑を荒らし、山を燃やして、人間にも危害を与えました」


 ライガーにとってドラゴンとは空想上のものでしかなかった。だが、この世界には実在する。もしドラゴンがキャロの語るような悪事を働く生き物であるのなら、当時の住人たちはひどく恐れただろう。


「当時の領主さまはドラゴンに懇願しましたの。どうかやめてください、ほしいものがあれば差し出すので、ひどいことをしないでください、と何度もお願いしましたの」


 結果は聞くまでもない。


「ドラゴンは嫌だと笑いましたの。食べたいときに食べ、襲いたいときに襲うのだと。弱い人間は強いドラゴンのおもちゃになるために生きているのだと、言ったそうですの。だから、領民を守るためにわたくしのご先祖さまは戦う決意をしました」

(人間がドラゴンと戦う、か。ダメだ、想像できない。ゲームならまだしも、実際に生きている人が戦うなんて、信じられない)

「ご先祖さまは仲間たちと戦ったそうですの。友人を失い、領民を失い、それでもドラゴンを倒すことができました。ですが、めでたしめでたしにはなりませんでしたの」

(だよね。倒されておしまいなら、そこで話は終わりだもんね)

「ただ、倒しただけだったのですの。ドラゴンは一ヶ月ほどで復活しましたの。ドラゴンはすぐに復讐を始めましたの。領主さまと息子を食べてしまいましたの、でも、娘だけは生かされましたの。なぜなら、お腹に赤ちゃんがいたからですの」

(絶対、ドラゴンの慈悲とかじゃないよね)


 雷獣の嫌な予感は的中した。


「その後、赤ちゃんを産んだ娘はその二年後に食べられてしまいましたの。赤ちゃんは大人になり、結婚し、赤ちゃんを産みました。そして、食べられてしまいましたの」

(……酷いな)

「ドラゴンはずっと繰り返していますの。わたくしのお父様も、わたくしが生まれてすぐに食べられてしまいましたの。グリーンフィールド一族は、ドラゴンを倒したせいで恨みを買い、代々生贄として食べられる運命にありますの」


 少女の独白を聞き、ようやく彼女が抱えている運命を知ったのだった。




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