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11.グリーンフィールド伯爵家の事情1.



 ライガーと命名された吾妻紫央は、かわいいご主人様の上でペットライフを満喫していた。


(ううっ……キャロちゃんは姉たちと違って優しいし、かわいいし、いい匂いがするし、最高だなぁ)


 デブ猫ではなく雷獣だと判明した一昨日、正式にライガーはキャロの家族となった。

 扱いこそペットではあるが、待遇が悪いわけではない。基本的にキャロと一緒にいることが多く、暇さえあれば抱っこしてくれる。


 年頃の女の子に抱きかかえられて過ごすのは、気恥ずかしいものがあるのだが、雷獣となってしまったせいか、それともペットライフに才能があったのか、キャロの温もりと匂いに包まれるとなにも気にならなくなってしまうのだ。

 雷獣と姿を変える前は、思春期真っ只中の高校生だったにも関わらず、少女におかしな感情を抱くこともない。きっと自分のことを家族として扱ってくれるキャロを、自分も同じように思っているのだろう。


「いけませんのっ、そろそろお母様とお勉強のお時間ですの!」


 学校に通っていないキャロは、こうして毎日母かメイドのどちらかと勉強する時間を作っている。

 お屋敷がある場所は近くの町から少し離れているらしいが、十分通える距離に学校はあるらしい。

 貴族だから平民と一緒に通わせない、などの考えはこの家族にはないと思う。

 するとやはり、ライガーが知らないなんらかの事情があって、学校に通うことができないのだろう。


(俺は当たり前に学校に通っていたけど、この子は違うんだな)


 学校は楽しいことばかりだった。

 友人もいたし、教師に恵まれもしていた。時折ニュースに流れるようないじめや体罰問題とは全く縁のない学校だったこともあり、いい思い出しかない。


 だからだろう。キャロが年齢の近い友人を作ることなく屋敷にいることを、もったいないと思ってしまうのだった。

 もちろん、人の価値観はそれぞれだ。学校に価値を見出さない人も、相性の悪い人だっている。それはそれでいい。


 しかし、笑顔を絶やさない明るいキャロならば、学校で友人に囲まれている姿がよく似合う気がしたのだ。


「お勉強が終わったらまた一緒にいてあげますの。しばらくひとりで我慢していてくださいですの」

「にゃぁ」


 笑顔を浮かべて、ベッドの上に雷獣を下ろすと、キャロは小さく手を振って部屋から出ていく。

 ひとり残されたライガーは、しばらくじっとしていたが、暇を持て余してしまい部屋の外へ。

 この世界や、滞在している屋敷の周辺の情報を集めたいと考え、燐の部屋へ向かう。


 情報を集めるだけなら、厨房にいるであろうディナのところへいくのもひとつの手だ。厨房限定で、食料などを配達してくる奥様がくることを知っている。

 異世界であっても奥様が世間話が好きのは変わらないようで、ディナを相手にお茶をしているところを目撃したことがある。

 必ず毎日来ているわけではなく、ディナも街のほうへ買い出しに足を運ぶことも多いようだ。


(燐ちゃんは……研究中かな?)


 自称天才魔法使いの部屋の前に着くと、中から唸るような声が聞こえて、入室を躊躇われた。

 どのような研究をしているのか、魔法などまったくわからないライガーには知る由も無いが、なにやら重要なことらしい。


 魔法に関する研究であることはわかっているのだが、不思議とキャロもディナも話題にしないのだ。

 燐はディナのようにメイドをしているわけではない。基本的に、自室の工房に籠っている時間が多く、食事やお風呂のときだけゾンビのように部屋から這い出しては、ディナに呆れられながら世話を焼かれている姿を見かける。


 家族としてキャロたちと一緒にいるが、血の繋がりはないのは一目瞭然だ。

 黒髪をはじめ、どちらかといえば日本人的な要素が多く、既視感を覚える。

 ではなぜ、魔法使いの燐がグリンフィールド家で魔法研究をしているのか疑問だった。


 その答えは見つかっていないが、もしかするとキャロの抱えているなにかと関係しているのではないかとライガーは考えている。


(うーん、邪魔したら悪いかな?)


 こっそり書物を読ませてもらおうかと思っていたのだが、呻き声が怖い。もし、物音を立てでもしたら、どうなることやら。


「おや、ライガー? そうでしたね、お嬢様は奥様とお勉強中でしたか」


 不意に背後から声をかけられて振り向いたライガーは絶句した。

 なぜなら、黒地をベースに、白いフリルやリボンがあしらわれたメイド服が、これでもかと泥まみれだったからだ。

 服だけではない。ディナの美しい銀髪も、あまり表情を動かさない顔にも泥が跳ねている。


「にゃにゃにゃにゃぁっ!?」


 一拍遅れて、驚きを露わにしたライガーは、悲鳴のような叫び声をあげたのだった。



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