0.Prologue.
(あれ? ここ、どこ?)
吾妻紫央が目を覚ますと、視界いっぱいに真っさらな青空が広がっていた。
おかしい、と紫央は思う。
(……おかしい。姉貴たちにこき使われたせいで、疲れて眠っていたんだけど)
室内ではなく野外にいることは間違いない。
鼻腔を刺激する、深い緑の香り。耳に届く、川のせせらぎ。
(考えたくないけど……寝てる間に追い出されたとか? そんなことはないよね、俺がいなくなったら誰が姉貴たちの世話をするんだ?)
一瞬、性格の悪い姉たちにの仕業ではないかと考えもしたが、すぐに違うと判断した。
女系家族に生まれた唯一の男子である紫央は、傍若無人の五人に逆らうことができず、コキ使われる日々を送っていた。
まだ十六歳と青春を謳歌したい年頃にも関わらず、ズボラな姉たちに代わり家事全般を引き受け、多忙な日々を送っていたのだ。
そんな紫央は、せっかくに日曜日にも関わらず、友人たちの誘いを断り家事に勤しんでいたのがほんの数時間前のこと。
夕食の支度まで一時間ほど余裕があったので、ベッドに寝転んだところまで記憶になるのだが、そこから現在に至るまでになにがあったのか全く不明だった。
(おーい、誰かいませんかー!)
――あれ?
人の気配などまったくないが、ダメ元を覚悟で大きな声を出そうとした紫央は、声が出ないことに気づいた。
(ちょ、っちょっと待って、どうして声が出ないの? 喉が痛いから? 乾いているから?)
混乱しかける少年だが、必死に自身に冷静になるように言い聞かせる。
喉の痛みと渇きを癒そうと、川のせせらぎを頼りに川を求めて歩き出した。
(……歩幅が短いのは気のせいじゃないよね。あと、心なしか視界も低い)
動けば動くほど不安が増していく。
(すごく、嫌な予感がする)
恐る恐る自分の体に視線を向けてみると、
――は?
少年は絶句した。
(嘘ぉぉおおおおおおおおおおお!?)
続いて、声が出せないことなど忘れて絶叫する。
無理もない。紫央の体は、見覚えのある自身のものとは全く別物になっていたのだ。
まず服を着ていない。百歩譲ってそれはいい。だが、腕や足、いいや、身体中が茶色い体毛に覆われていた。
(毛深っ! そりゃ、まったく毛がなかったわけじゃなかったけど、ここまでじゃねーよ! これじゃ、まるで動物じゃないか!)
――ん? 動物?
二度目となる嫌な予感がした。
(あはは、あはははは……まさかね)
少年は走り出した。歩幅が短いとか、喉が痛いとか、そんなことを無視してただ走る。
自分の身に一体なにが起きているのかもわからないまま、とにかく少年は森の中を進んだ。
しばらく歩くと、ひらけた場所に出た。
眼前に広がるのは川。それも透明度の高い透き通った綺麗な水だ。
喉の渇きを満たしたい欲求を横に置き、まずは自分自身を確認することを選んで、水面を覗き込む。
すると、
(いやぁあああああああっ! デブ猫になってるぅうううううう!?)
水面に映る姿を見て、絶叫に近い悲鳴をあげた。
鏡がわりにした水面には、愛嬌はあるもののでっぷりと超えた茶色い毛玉の塊同然の猫が写っていたのだった。
転生・ペットライフ・チートなどの要素が詰まった物語です。
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