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21 それなら本当のことを言わなくちゃ

 あれ?

 どうしたんだろう、目が霞んでよく見えないよ。

 ボク、泣いてるの?

 目から大粒の涙が次から次へと頬を伝わってこぼれ落ちて、手元のサンテンドーターミナルの画面の上にぽたりと滲む。

 世界が滲んで歪んで見える。

「だけどボクにはわかるよ」

 ゴルティスの気持ち。

 世界から裏切られ、誰も信用できなくなって、ひとり閉じ込められて、叫んでも誰にも聞こえず、どこにも居場所がなくて……。

 そうして三千年もの間、復讐することを思ってじっと息を潜めてうずくまっていたんだね。

「だけどボクにはわかるよ」

 だってボクも同じだから。

 いじめられていたハルカを、可哀想と思いながらも遠くから見ていただけのボク。

 そう、ボクはいつもハルカを見ていた。

 転校してきた時からずっと。

 本当はボク、ハルカのことが好きだった。

 ずっと友達になりたいと思ってたんだ。

 でもなかなかきっかけがつかめないでいるうちに、ハルカはクラス中からいじめられるようになったんだ。

 そんなハルカをいつも遠くから見ていた。

 自分が手を下さなくていいように。

 本当は守ってあげたかった。

 でも自分がいじめられるのが怖くて、手を差し伸べる勇気がなかった。

 ハルカを守ることができなかったよ。

 そんな自分が嫌になり、落ち込んだりもしたんだよ。


――罪悪感。


 でも見て見ぬフリしたんだから、ボクもいじめに加担していたのと同じだよね。

 ごめん。

 だから彩香がいじめられているのを見た時、ボク、なぜか頑張っちゃった。

 ばかだね。

 それがさらにハルカを傷つけたんだよね。

 一緒に彩香をいじめていたら、ハルカと仲良くなれたのかな。

 なんて思っちゃって、またそんな自分が嫌になる。


――嫌悪感。


 ボクがみんなからいじめられるようになった時、彩香もあっち側にいたのを見た瞬間、ボクはとっても後悔したんだよ。

 こんなことならハルカと一緒に彩香のことをいじめていればよかったって。

 そんなことを思ってしまうことにボクはまた自分が嫌になるんだよ。


――絶望感。


 どうしてこんなことになっちゃったんだろうね。

 こんなことなら小学四年生のあの時に、ママに殺されていた方がぜんぜんよかった。

 ボクはパパに裏切られ、ママに裏切られ、守ろうとした彩香に裏切られ、好きだったハルカにいじめられ、クラス中に見捨てられ、先生から軽く扱われ、居場所をなくし、絶望して、世界を消し去ってしまいたいと思うようになった。

 パパなんていらない!

 ママなんかいなくなっちゃえ!

 学校なんか燃えてしまえ!

 ハルカも彩香もクラスのみんなも、全部死んでくれたらいいのに!

 まさにゴルティスと同じ。

 だからゴルティスの気持ちはよくわかる。

 自分は正しいことをしたというのに、世界から捨てられた。

 今度は自分が世界を捨てる番だってことだよね。

 でもゴルティスとボクで違うのは、ボクはそれなら自分がなくなっちゃえばいいって思ったところかな。

 だけどそれって同じことじゃない?


『きさまなんかに俺の気持ちがわかってたまるか!』

 その絶叫に近いおぞましい声にふと我に返ったボクは携帯ゲーム機の画面を見た。

 それはまさにゴルティスが全身にエネルギーをみなぎらせて、必殺技を繰り出そうとしている所だった。

 次の瞬間、ゴルティスは全身からエネルギー波を放った。

 ボクの分身、シンディも吹き飛ばされた。

 画面が光で真っ白になった。

 次第に視界が戻ってくる。

 シンディは倒れている。

 でもその上に、覆いかぶさるようにピートが倒れていた。

 苦痛に歪むピートの顔。

 その背中は焼けただれて黒い煙が上がっていた。

 ピート!

 ピートが守ってくれたんだ。

 あぁ、なんてこと。

 ピートはシンディが愛するサキだと思ってるからだよね。

 ボクはピートを、胡桃名さんを騙している。裏切っている。

 これじゃ、みんながボクにしてるのと同じじゃん。

 だめだ。

 このままじゃいけない。

 それなら……それなら本当のことを言わなくちゃ。


「22 ついに決着の時が訪れたのだ」につづく

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