5話 異世界の魔法
「さあ、見ててねーっ」
今、目の前にはスライムがたくさんいる。起き抜けに魔法を見せてくれるとかで、雫に連れられ無理やり立たされている。はっきりいって非常に眠い。一緒に連れてこられたニューリアにいたっては立ったまま寝ている始末だ。
「雫、いっきまーす。『ファイアーボール!』」
某アニメの主人公のような発音で言う。まあオタクな雫は無意識で使用するので深い意味とかはないのだろう。上に上げた手を前に突き出し、そこから小さな火の玉がスライム目掛けて飛んでいった。速度は思ったよりもゆっくりでヒョロヒョロといった効果音がイメージに合いそうだ。スライムはさらにそれよりも移動速度が遅いので問題なく火の玉はスライムに当たった。
ボッと引火し日火の火力が上がる。もともとゴミみたいなスライムなので余計なのだろうか。次々隣のスライムを巻き込み大きな火の柱がのぼる…
「はにゃっななななにごとーっ」
流石にこの熱さに驚いたのかニューリアが飛び起きた。
「何ってスライムに魔法ぶつけてみたのよ?」
「わーっスライムに火はだめーなのーっ」
(こんなに効果があるのに何がだめなんだろう?)
首をかしげニューリアに向き合う。ニューリアはあわてて燃えているスライムたちを結界で覆う。しばらくすると火は沈下し結界の中は真っ黒になっていた。
「あぶなかったわ~」
額の汗をぬぐいひと仕事終えたニューリアはその場に座り込んでいる。
「せっかく魔法つかったのに~」
「スライムに火は利きすぎちゃうからだめなのよー辺り一面火の海にでもするつもり?」
「あら、そうなのね。」
「それに、あいつらしょせんゴミだから核まで全部燃えちゃうのよー」
(ゴミっていっちゃったよ…!)
「そうなの!?じゃあ火じゃだめねー」
黒こげになったスライムたちを眺めながら雫は残念そうにしている。
3人は『ファストレンド』の近くまで来ていたのでそのまま職業斡旋所に向かい、中で食事をすませることにした。朝は軽めのものをということでパンとスープを選択。もちろん拓也は肉の入っていないスープだ。
「失敗したなー」
スプーンを口にくわえたまま雫は残念そうな顔をしている。
「何が?」
(スライムに火魔法使ったことだろうか?)
「んーとね、魔法でまとめて狩れたら早いし、ここに来る前に少し狩るだけでご飯代になるでしょ?」
「ああ、確かアイテムを持っていくやつは先に集めてからでもいいとか聞いたな。」
「でしょー?だからついでに稼げたら楽かなーと思ったのよー」
(まあ言いたいことはわかるが。)
「まさか核まで燃えるなんて思わなかったのよねー」
「わからないことは私にきけばいいのに…」
すごいニューリアが残念な子を見る目で雫を眺めている。まあ実際残念な子ではあるのだが。
「次はそうするね~」
そういうと一気にスープを飲み干した。
「さて、それはそれとして…拓也は魔法書読んでみたの?」
「もちろん読んだよ。回復魔法のほうだけだけどね。」
「じゃあ私の攻撃魔法と交換しましょ。そっちも読んでみたいわ。」
鞄から取り出しお互いの本を交換する。『初級攻撃魔法書』を手にした拓也は雫と同じように目次を眺めた。攻撃魔法のほうは目次に魔法の名前が書いてあるだけみたいだ。
(なるほど後で読んでみよう。)
「ところで雫。他の魔法は使えるのかな?」
「……火しか使えなかったわ。」
「魔法少女は遠いな…」
それはそれとして今日の予定だ。魔法書は3冊見せてもらえているのだが、どうしても他の魔法書も見てみたいと雫がうるさいのでまずは魔法書を見に行くことが決定する。
職業斡旋所を後にし向かったのは本のマークが書かれているお店のようだ。入り口を入ってから棚一面に本がぎっしりと詰まっている。
「うーわぁーこれ全部魔法書なの?」
「違うよーほら、これとか魔法に関する御伽噺だし。」
「じゃあ魔法にかかわる本ってことでいいのかしら?」
その言葉にニューリアは頷いた。拓也もたくさんならんでいる本を眺めるすると目の前にある魔法書が気になった。
「『生活魔法③、④、⑤』…?初級とかじゃないんだな。」
「おにーさんその本が気になるのかい?」
店の奥のほうから女性の声がした。どうやらこのお店の人のようだ。
「それとそこのおじょーさん。無理やり開こうとしても開かないよ?」
僕の横にいた雫が本のページを開こうと必死になっていた…
「ちょっ雫。ロックかかってるから勝手に見れないって聞いただろう?」
「えーチラッとくらい見てから買いたいじゃない…」
そんなことを言われても開かないものは開かないだろう。
「ふふふ。おかしな子達だね~」
「ごめんなさい。この子融通が利かないもので…」
「大丈夫がんばっても開かないから。で…どんな魔法書を探しているんだい?」
いつの間にかお店の女性が近くまで来ていた。
「えーと魔法書初心者なんで、色々見てから考えようかと見てました。」
「あら、じゃあ適正とか知らないのかしら。」
「適正…?」
ニューリアのほうを見る「?」という顔だ。どうやら何のことか知らないようだ。
「おやまあ、適正があるものじゃないと魔法は使えないんだよ?」
「そそそ、そうだったのかーっ」
「うわーだから使えない魔法があるのねーっ」
もちろん拓也も知らなかったのだがニューリアと雫の反応のよさには驚いてしまう。驚きを通り越してあきれてしまった。お店の人に案内され店の奥のほうにあるカウンターに案内される。どうやら適正を見てくれるみたいだ。
「じゃあ順番にこの適正診断ボードを持ってもらおうかな。」
適正診断ボードと呼ばれたA4サイズくらいの板には文字が書かれていてこの文字が光れば適正があるということらしい。火、水、風、土、雷、氷、光、闇、草、生、霊、錬、調、防、と14の文字が並んでいるのがわかる。
「はい、はーい。私からやるねーっ」
ビシィッ手を上げ雫が最初にやりたいとボードを持っていった。ボードを両手でもち首を傾げる。
「どうすればいいのかな?」
「魔法を使うぞーって気持ちを込めるだけでいいわよ。」
「よーし…」
ペロリと口の端をなめ、雫が気持ちを込める。
「お、おぉ…?」
横から覗き込むと雫の使える魔法が光っているのがわかる。火、闇、霊の3つのようだ。火は火属性の魔法のことだろう。
「火属性魔法と闇属性魔法、あと霊属性魔法だね。説明は後で全部まとめるから次の人。」
ボードをニューリアが受け取った。氷、光、草、生、調、防の5つが光っている。
「わっ初級だめだったからあきらめてたけど、こんなに使えるなんて!」
「氷属性魔法、光属性魔法、植物魔法、生活魔法、調合魔法、防御魔法のようですね。」
最後に拓也の手にボードが回ってきた。同じように気持ちを込める。風、土、雷、光、生、錬、防と7つ半分の魔法が光っている。
「多いな…」
「風属性魔法、土属性魔法、雷属性魔法、光属性魔法、生活魔法、練成魔法、防御魔法…多いですが魔攻撃に特化した魔法はすくないですね。」
3人の適正魔法の確認が終わり、次は説明をしてくれるようだ。
「ではえーと。」
チラリと雫のほうを見る。
「雫です!」
「はい、雫さんの説明からしましょうか。」
「お願いします!」
「それでは…まず火属性魔法。言わずもながら火に関係する魔法が使えます。主に攻撃魔法になるでしょうか。レベルが上がるにつれ大きな火力になっていきますが。最大級の魔法『メテオ』は使えません。土属性魔法との融合魔法になるからです。」
(融合魔法とかあるのか…)
「次は闇属性魔法、の前に霊属性魔法を先にしましょうか。こちらは魂を操る魔法になります。自分より格下の相手を使役することが可能ですね。獣魔契約ができます。召喚魔法も使うことが可能なのですが、防御魔法と風属性魔法がないので空間を操れません。そして闇ですが…影を操り魔法の軌道を変えたり、強制的に闇落ちにでき闇落ちすると格下でなくとも霊属性魔法で魂を操れます。」
どうやら雫は魔法少女というよりその敵側の女幹部のような魔法を使えるタイプのようだ。
「ちくしょーダークサイドかぁ~~っ」
ガクリと雫が頭を抱え崩れ落ちた。
「えーと…?」
「気にしないで次いってください。」
気を取り直し次はニューリアの説明だ。
「ニューリアさんですね。まずは氷属性魔法、氷を使った魔法が使えます。氷を作り出したり物を凍らせられます。もちろん攻撃に使うことも可能です。風属性がないので最大級の魔法『スターダスト』が使えません。」
どうやらニューリアも最大級は使えないようだ。
「えーと後は融合魔法がいくつか出来そうですね。光属性は回復がメインになります。もちろん他にもありますが。植物は植物を作る魔法ですね。生活は生活に役立つ魔法が多いです。で、この3つ惜しいです。あと土があれば完璧な野菜が作れました!」
「あ、それで野菜おいしく出来ないのか~」
「そうです。で、調合は薬などが作れます。生活とあわせておいしいご飯が作れるはずです。」
「料理人になれるってことですか?」
「もちろんスキルをとらないとだめですよ?あとは防御魔法ですね。防御に適した魔法が使えます。私が使っていたロックもその1つです。先ほども言いましたが風属性がないので空間は操れません。」
ふぅとお店の女性は一息ついた。流石に説明が多く疲れたのだろう。軽く伸びをしている。
「さて、あとは君かな。」
「あ、拓也です。よろしくお願いしますっ」
うんうんと頷き女性は再び口を開いた。
「まずは…風属性だね。風魔法が使える。土属性、土魔法が使える。ほんと君達おしいよね。誰もおいしい野菜作れないんだね~」
(ほっといてくれ…)
「雷属性、雷魔法が使える。ちょっと省いて練成魔法、静止物の形の変形、武器とかが作れるようね。で、防御魔法があるから風とあわせて空間を操れるわ。」
「空間…」
「詳しくは魔法書を買ってくださいね?」
長かった説明が終わった。これで本を選ぶことが出来る。
「私この本を買うわ。」
どうやら雫の買う本が決まったようだ。『火属性魔法①』『霊属性魔法①』の2冊を持っている。
「闇はいいの?」
「なんか怖いからひとまずいいわ。」
「その2冊なら中古あるわよー」
「中古でお願いします!」
雫の本は2冊で500円のようだ。新品だと1冊500円はするらしい。ある限りは中古を買ったほうがよさそうだ。
「じゃあ私はこれにしようかな。」
手に取った本は『氷属性魔法①』『生活魔法①』『調合魔法①』の3冊のようだ。防御魔法の本は持っていない。
「防御魔法はいいの?」
「とりあえずいいかなー結界だけ使えるし、また今度にするよー」
とのことだ。
「じゃあ僕も何か買うかな…」
使える魔法が多いので正直まよってしまう。生活魔法はニューリアに借りればいいだろう。それ以外のもので何にするか…
「んーこの3冊でいいかな…」
『風属性魔法①』『練成魔法①』『防御魔法①』の3冊を選んだ。防御魔法をニューリアに貸してあげることにする。風魔法だけ新品しかなく合計1000円になってしまったが仕方がない…
「みんな買ってくれたからこれ1冊サービスだよ。」
女性が差し出した本は『土属性魔法①』である。
「土…」
「気がついていないようだけど、拓也が土壌を整えてそこにニューリアが野菜を作ればおいしい野菜が作れるよ?」
「「「!!!」」」
「え、1人で全部やらなくてもいいってこと??」
「そうよー土も植物も持ってる人が少ない適正なんだから有効利用してね?」
「じゃ、じゃあ追加でこれを買うわ!」
ニューリアは『植物魔法①』を追加で購入した。
「お礼は出来た野菜でいいわよ~?」
女性はにっこりと笑顔で手を振り3人を送り出した。
早速帰って魔法書を読むと雫が走り出しそうだったが引き止めろ。
「今買った本の分と今日の食費稼いでからじゃないとだめだからね?」
「……もしかしてスライム?」
「スライムです。」
その日、日がくれるまで昨日と同じように拓也が鞭を振るったのは言うまでもない。今回はニューリアも参加してくれたので昨日の倍くらいの稼ぎであった。
名前 藤村拓也
種族 人間族
年齢 14歳
性別 男
職業 学生
貯蓄 10850円