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4話 異世界の魔法書

 もうこれは狩りではない。ひたすら(ベルト)を振るい、なぞなぬかるみを叩きつけそこから(ゴミ)を回収するだけだ。拓也は(ベルト)を華麗に振るいひたすらスライムを倒した。その後ろをついて歩き雫が核を回収している。


「これはもうただのゴミ拾いだよ~っ異世界っぽくないよ…」


 雫は泣く泣くひたすら核を拾い続けている。


「泣くな雫…なんならこっちと変わるか?」

「いやよ!」


 ものすごい勢いで拒否されてしまった。「やっぱり夫婦漫才なのかしら~」とニューリアが言っているのが聞こえたが今はそれどころではない。今後何にお金を使うかわからないし、毎日の食費ですらいくらかかるのかまだ知らないのだ。稼げるときに稼ぎ、雫のそっくりさんを探すことと秀治とその妹を探さないといけないのだ。


 思ったよりスライムがいたようで拓也は腕を振るうのがだいぶつらくなってきた。でもその成果もでており、ぬかるみはほとんどなくなっていた。


「だいぶスライムいなくなったみたいね。」


 言われて周りを確認してみる。ずいぶんとすっきりしていた。


「もう袋2つ分だよ~今日はもうこれでやめよー??」


 雫は拾う作業が思ったより腰にくるようで背中を伸ばしながら腰を叩いていた。日も少し傾き始め空はうっすらと赤みを帯びてきている。


「そうだな、そろそろ戻ろうか。」


 スライム討伐という名のゴミ拾いを切り上げ、『金のなる木』に報告に戻ってきた。入ってすぐあるカウンターに向かう。さすがに夕方というだけあり報告のため人で賑わっていた。カウンターには5人の事務員らしき人が忙しそうに対応をしている。一度会話をして顔をしっている横井柚子がいる列にならんで待つことにした。10分ほど待つと拓也達の番が回ってきた。


「あら、依頼受けて来たのね。」

「そうしないと生活できませんから…」

「まあそうよね…」


 2人分の身分証と核の入った袋をカウンターに置く。柚子はカードを確認し袋の中をチラリと見た後、袋に向かって魔法を唱えた。


『アナライズ』


 両方の袋に魔法をかけた後、身分証に手を置いた。少しだけ光を発した後身分証は返却された。


「パーティでの討伐でしたので報酬は2分割で入金しました。確認してくださいね。」


 どうやらこれで依頼達成でお金も手に入ったらしい。渡されたカードを恐る恐る見てみる。




名前 藤村拓也

種族 人間族

年齢 14歳

性別 男

職業 学生

貯蓄 5500円



(初収入だーーーーっ)


 1人心の中でガッツポーズをとってしまう。そんな様子がわかったのかどうかはわからないが、雫が服の裾をニコニコしながら引っ張ってきた。


「魔法書買えるかなぁ~」

「……いや、まずは今日のご飯と今後のための身支度からだろ?」

「安いのでいいから1冊だけっ」

「2人とも~そろそろ普通の商店は店じまいだよ。ここの酒場くらいしか開いてないからね?」


 カウンターの前で騒ぎ出した2人をそこから押し出しながらニューリアがそういった。他の人の邪魔になっていたようだ。


「とりあえず地下にいってご飯にしようよ、ね?」




++++++++++




 地下2Fにある酒場に移動した3人はそれぞれ椅子に座りメニューと思われるカードとにらめっこしていた。飲み物は20円から50円程度でよほど高いものでも100円くらいだ。かなり物価が違うようだ。食べ物も似たような感じで10円から150円といったくらいみたいだ。他の店をまだ見てないので比べようがないが、このくらいなら余程たくさん食べたりしなければ大丈夫そうだ。でも一番の問題はそこではないと思う。


「ねえニューリア、このカツ丼のカツってなにで出来てるの?」

「…え、どうゆうこと?」


 質問した意味が一瞬わからず雫はキョトンとしている。


「店によって違うけど、オークかコカトリスね。ちなみにこの店はオークよ?」


 それが何か?とニューリアは首を傾げている。そう、この世界では当たり前なのかもしれないが拓也達にはちがうのである。オークやコカトリスといったら普通は架空の、しかもモンスターである。


「じゃあこの牛丼ってのはミノタウロスとかなのか?」

「あら、わかってるじゃない。」


(やっぱりなのか…)


 この世界では普通に食べられている食事なのだろうがさすがに拓也はしぶい顔をした。メニューの中から野菜を中心に選び、フルーツと炭酸水を注文した。そんな拓也と違い雫はまったく気にしていないようだ。牛丼とサラダ、あとはフルーツジュースを注文している。


「牛丼食べるのか…」

「食べるわよ。この世界でしか食べられないお肉なんでしょ?チャレンジしなきゃっ」


 その後食事が運ばれてきて各自食事を始めた。ニューリアはエールと肉や魚を中心としたものをつまんでいる。魚がなんなのか気になるところだが怖くてもう聞かないことにした。


「おいしーっこっちの牛丼のほうがお肉柔らか~い。」


(そりゃー…運動量の違いではないでしょうかね?)


 目を輝かせながら牛丼を食べている雫に心の中で突っ込みを入れつつ、拓也は精進料理のごとく肉や魚をさけた食事を食べた。


「ん…野菜は少しぱさつく感じがするな。」

「ん~言われてみればそうかも?」


 サラダを食べていた雫も同じように思ったらしい。


「ニューリア、野菜はどうやって作られてるの?」

「どうやっても何も種から魔法栽培だよ?野菜はたくさん作れるんだよー」


 魔法栽培、初めて聞く言葉だ。まあ魔法がない世界からきたのだからあたりまえなのだが。


「じゃあニューリアも作れるの?」

「作れるけど…あまり上手に出来ないのよね~」

「ニューリアは魔法は得意じゃないってことなのかな?」

「頭使うのは苦手なのよ~魔法書も数冊買って読んだけど、まともに使えるレベルだったのがヒールだけだったし。」


 猫耳をぺたりと倒しながら困った顔で話してくれた。


「ねえ、ニューリアその魔法書私も読みたいなぁ~」

「いいですよ~一度読めばいらないものだし、あーそうか魔法書中古で買えばいいんじゃない?」

「魔法書を中古で買えるのっ?」

「買えるよ?店で売ってるものを開いて覗くことは出来ないけど、購入するときにアンロックしてくれるから誰でも読めるし。」


(魔法書が中古で…?)


 雫の食いつきがよく、明日は魔法書の中古を見に行きたいと言い出したので騒ぎ出す前に食事をすませニューリアの家へと向かった。


「ニューリア本当にいいの?」

「おっけー気にしないで~」


 身支度が整うまでニューリアの家にお世話になることが決まった。魔法書を見せてもらうために向かったのだが、時間も遅くもう宿も空いていない時間になっていたのだ。


「魔法書持ってくるからちょっとまっててね。」


 宿の事を忘れていたことを後悔しつつ、ニューリアに心の中で感謝した。ここを出発するときには何かお礼をしなくてはと拓也は頭の隅に記憶しておく。少し待つと3冊の本を抱えてニューリアが戻ってきた。


「はい、私が持ってるのはこれだけだよ。」


 表紙には『初級回復魔法』、『初級攻撃魔法』、『初級生産魔法』と書かれている。きっとこの生産魔法というのが魔法栽培の仕方がかいてある魔法書なのだろう。


「私これ読みたいっ」


 雫が真っ先に『初級攻撃魔法』の本を手に取った。「ですよねー」という感じだがわかっていたことなので気にしない。ペラペラとページをめくる音がし、手が止まった。


「初級で覚えられる魔法は3つかぁ~」


 どうやら目次のページを眺めていたらしい。


「そうだ、寝る部屋どうしようか。雫は私と一緒の部屋でいいかな?」

「え、今日はせっかくだからこの魔法書読みたいのだけど…一緒だと迷惑かけない?」

「別に気にしないわよ~」


 部屋は雫はニューリアと一緒で、拓也は別にある客室を貸してもらえることになった。残り2冊の魔法書を拓也は手に取りひとまず与えられた部屋で読んでみることにする。


(回復と生産か…どっちも必要だよね。)


 まずは『初級回復魔法』の本のページを開いた。最初のページは真っ白で何も書いてない。ページをめくると目次が現れた。


(えーと…)



~~~~~ 目次 ~~~~~

魔法の基礎について  … 4

体力の回復について  … 8

状態の回復について  …19

~~~~~~~~~~~~~~


 項目は3つしかなかった。魔法がいくつ入っているかは読んでみないとわからない。なんにしても魔法の基礎を読まないと魔法事態が使えない可能性もあるのでまずはここから読み始めよう。


 魔法の基礎についてのページを開き読み始めた。そこに書かれていたのは魔力の引き出し方、魔力の量についてや魔力量の伸ばし方についてが書かれていた。魔力の引き出し方については簡単で魔法を使うぞと思い描くだけでいいらしい。その簡単な方法として魔法名を唱えるのだそうだ。魔法名を唱えるだけで発動できない場合はどのように使うのかを呪文として声に出す必要があるらしい。魔力の量は個人差があり量があればたくさん魔法が使え、無いとやはり使えない。魔力を伸ばすためにはやはり魔法を使うのが一番らしい。


(うん、わかりやすい。)


 続けて体力の回復についてのページも読み進めた。初級の体力の回復魔法のページには魔法だけではなく魔力がなくてもできる応急手当の方法もいくつか書いてあった。ここに書かれていた魔法は『ヒール』でニューリアが使っていたやつだ。『ヒール』で回復できるのは表面上からわかる程度の回復だそうで、火傷とかも治せるがこれは見た目では火傷の深さがわからないため、完全には治せないときもあるそうだ。切り傷は完璧に治せるが、骨に到達するほど深いものは『ヒール』では治せない。もちろん骨折など内部の怪我にはまったく効かないのだ。


(内部の怪我…)


 そこでふと思いついたのだが筋肉痛は何になるのだろうと。表面から見えないから内部の怪我に入るのだろうか?そもそも怪我に入らない場合も考えられる。


(起きたらきっと筋肉痛だから試してみよう…)


 最後に状態の回復についても読み進めることにした。こちらも体力のほうと同じく魔力がない場合の対処方法も書かれていた。毒消し薬とか薬を使った方法である。こちらを作る場合は『薬剤調合』という本がいるらしい。普通に薬の販売もされているので買えばよいとも書かれている。そして魔法だが『リペア』という魔法について書かれていた。軽度の状態異常の回復をするそうだ。たとえば毒は回復できるが猛毒は回復できないとかである。頭痛なども治せるらしいが物理的な異常な場合は効かないらしい。脳に腫瘍が出来たとかのことである。


(筋肉痛はこっちで治せるのかも…?)


 さて、一通り読み終えたわけだがここで覚えた知識が役に立つかどうかは使ってみなければわからない。そして都合のいいことに今日鞭(ベルト)を振り続けたおかげで、手のひらに擦り傷とまめができている。


(これに試してみよう。)


 右手に出来ていたので左手をかざし『ヒール』と唱えてみる。すると淡く光り擦り傷が消えた。まだまめは残っているがちゃんと魔法が発動したようだ。


(回復はわかりやすいのかもしれないな…)


 残すところはまめだがこれは状態を治すものなのだろうか?それを確認するために『リペア』と唱えてみる。同じく光った後まめも消えていた。


(なるほど…判断が難しいときは両方唱えたほうがいいってことかな。)


 一通り確認が終わり背伸びをした。ずいぶん長いこと読み続けていたようだ。すると疲れていたことを思い出したように睡魔がやってきて足元がふらついた。ずっと気を張っているのにもさすがに限界がきたようで、そのままベッドに倒れこみ拓也の意識はこの世界から切断された…






 


 



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