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2話 異世界のかおり

 室内はカチャカチャという食器を片付ける音と人が動くときにでる衣擦れの音が聞こえるだけで誰も声をだすものはいなかった。猫耳と尻尾の生えたニューリアという女性は先ほど飲み終えたコップを片付けている。雫が寝ているベッドの横に座り拓也は先ほど聞いた話を確認をしていた。


 ここは異世界である。

 帰る方法はこの世界の自分に合って握手とお別れをすること。

 友人がこの世界に来ているかはわからない。


 簡単にまとめるとこの3つだけだ。


 まず異世界ということだが、先ほど確認のためにニューリアの耳が頭にくっついていることを確認させてもらい、ひっぱると痛がっていた。たしかに自分がすんでいた世界に猫耳の生えた人はいない。可能性は高そうだ。だがまだ夢落ちということもありえるので油断は出来ない。夢であればただの笑い話になるだけなので問題はないがもしほんとに異世界だとすると帰るまで慎重になるべきではある。


 次に帰る方法だがこれは実際にニューリアが双子のようにそっくりな人が手をつないだ後に1人が姿を消したところを目撃したことがあるそうで、聞いた話と一致していたから間違いないといいはっていた。まあこれから出会うことになる人たちにも聞いていけばいいだろう。


 そして最後に中原兄妹のこと。こればかりどうしようもない。どっちにしても自分を探しながら同時に探してみようと思う。いなければそれでいいし、いや違うか…もしこっちに来ていない場合は向こうの世界で大怪我や命の危険にさらされているかもしれないということになる。つまりこっちの世界の中原兄妹でもいいから無事だけは確認しておいたほうがいい。


 「さて、これからどうするのかな?」


 食器を片付け終わったニューリアが拓也の背後から声をかけてきた。聞いた話を頭でまとめ終わっていたのですごくいいタイミングである。


「そうですね。最終的に帰りたいですねやっぱり。」

「そりゃそうよね。知らない世界にほうりだされてまともに生きていくのは難しいもの。」


 ニューリアは腕を組みうなずいている。耳がたまにピコピコと動くのが気になるところだ。


「どのくらい違いがあるんですかね?」

「ん?さあ…私は拓也の世界に行ったことがないから比べられないわよ。あと猫人なんてそっちの世界にいないんでしょ?」

「はい、猫ならいるけど猫人はいないですね。」

「むむむむむ~~」


 なにやら考え込んでいるようだ。


「つまり、その猫なんじゃないかな向こうの私は。」

「猫は人と会話できないけど…」

「あら、そうなのね。まあそのくらい違うって事よね。」


(猫=猫人なのか…結構ちがうな。) 


 ニューリアは少し困った顔をしている。


「私はねあまり勉強とかしなかったから、実はこの世界のことあまり詳しくないんだよね。歴史を振り返ってみればきっと最初は同じスタートをきった世界だったと思うんだわ。でもわからないから教えられないのよ。ごめんね~」


 両手を顔の前で合わせ申し訳なさそうに誤っている。


「まあ、せっかくこの世界に来たのだし死なない程度に自分探しながら満喫すればいいんじゃないかしらね?」


 さすがにちょっとむっときた。人事だからと楽観しすぎなのではと思う。拓也の態度に気がついたのか若干とまどっているようだ。


「あ、ごめん。怒っちゃったかな~?しかたないなーとっておきの情報提供しちゃおうかな~」

「…とっておき?」


 どうやらまだ話していない情報があったようだ。相手にもなにか都合というものもあるのだろうからしかたないとはいえとんでもないやつだ。手を後ろに組み体を左右に揺すってもったいぶっている。


「ん。」


 右手を差し出し何かを求めているようだ。差し出してきた手をじっと見つめる。


「……なに?」

「情報料。」

「この世界のお金は知らんぞ。同じなのか?」

「お金?数値化されているものが手渡しできるわけ無いじゃない。」

「数値化?お金は現物がないのか??」

「そうよあたりまえじゃない。」


 何かおかしなことでも言ったかしらみたいな顔をしている。ごそごそと服の中からカードを取り出して見せてくれた。


「全財産この中よ。ちなみに本人しか使用できなから盗まれることもないわよ。」


 手渡されたカードをまじまじと眺める。どうやら文字は日本語のようだ。名前、種族、年齢、性別、職業、あと金額がかかれている。金額の部分だけ文字が読めない。ねんのためすぐカードは返しておいた。


「金額が見えないね。あとどうやって本人だと確認されているんだ?」

「本人だって確認する方法?決まってるじゃない魔力よ。本人の魔力を通してしか支払いが出来ないの。同じく金額を見るのもね。」


(魔力…この世界はファンタジー的な魔法が存在しているっていうのか??)


 もとは同じ世界だと聞いていたのでさすがにそれは驚いた。こちらの世界にはもちろん魔法なんてものはない。超能力とかは話しに聞くけどそんなものはただの手品だろう。その言葉に驚き呆然とニューリアを見つめてしまった。


「ん、何か変なこといったかしら?」

「魔力なんてこっちの世界では漫画や小説の中の話なんだが。」

「まんが?しょうせつ?」


 今度はニューリアのほうが首をかしげている。


「それは過去の遺物だね。昔はあったみたいだけど魔力の発展でそういった物語とかは全部即映像化になったんだよ。」


 これはちょっとどころかかなり違う歴史になった世界のようだ。


「えーと…魔力は俺もあるのかな。」

「誰しも魔力は持っていると思うけど…確認してみる?」

「確認する方法があるのか。」

「さっき見せたじゃない。このカードを作ればいいのよ。魔力に反応すれば作れるでしょう?」

「ああーたしかに。」


 色々違いすぎてそんなことは思いつきもしなかった。さすが私だわーとでも言いたげに胸を張っているニューリアに少しいらっとしたがまあ気にしないでおこう。


「じゃあ作りにいきますかねー…とその前に。」


 また右手を差し出している。そういえば情報料を何も渡していなかった。


「何をあげればいいの?」

「そうね、何かこの世界にない変わったものがいいわ。」

「考えておくからまずはカード作ってみたいな。」

「いいわよ。こちらの情報もそのときに話すわね。」


 お互い納得したので早速出かけることになった。


「あ、雫が寝てるけど大丈夫かな?」


 建物の外にでたところで不安になり尋ねてみると、両手をドアに方に向け何かをしている。その手が下ろされたころには建物全体に薄い膜のようなものがかかっていた。


「カギかけたから大丈夫よ。私が解除しない限り外からも中からも開かないし。」


(カギというより封印じゃね…?)


「まあ大丈夫ならいい…のか?」

「問題ないわよ。」


 ちらりと建物を見つつ二人で丘を降りていった。




++++++++++




 丘を降りてしばらく進んでいくとちょっとした村があった。入り口にはアーチ状の門があり村全体が柵で囲まれていた。そして入り口以外にうっすらと膜が張っているところを見るとここからしか出入りができないようだ。

 入り口から村に入ってみる。入る瞬間少し違和感を感じた。


「なんか変な感じがしたんだけど…」

「ん?ああ、人物チェックされたんだよ。たぶん拓也はどこにも記録がないから…ほらやってきた。」


 ニューリアが顔を向けている方向を見ると3人ほど人が向かってきていた。小柄な女性と大柄な男性が2名だ。3人は拓也の前にやってきた。


「そこの男性止まりなさい。」


 小柄な女性が拓也に止まるよう指をさしている。女性はそれほど長くない金髪をポニーテールにまとめていた。服装は事務員かのようだ。


「あなた身分証をもっていないですね。どうしたのですか?」

「身分証?」

「おーゆずっちお仕事ごくろうさま~」


 そういうとニューリアは小柄な女性の頭をぺしぺしと叩いた。


「や、やめなさいっ縮むでしょう!」


 頭を抑え少し悔しそうな顔をしている。そんなニューリアを無視して拓也のほうを再度見ながらもう一度同じことを繰り返した。


「あなた身分証をもっていないですね?」

「ゆずっち彼はあれですよ?異世界人です。」


 ものすごい瞬きをしながら再度こちらを見つめている。目が悪いのかかなりまじかに顔がやってきた。


「え、あれ。拓也様。?」


(ん?今名前呼ばなかったか…)


 すぐニューリアの手で小柄な女性の口は塞がれた。2人は目で何か語っているかのようだ。実際念話という一種のテレパシーのような魔法で2人は会話しているのだがそれは拓也にはわからない。


「なるほど…」


 少しの沈黙のあと小柄な女性がぽつりとつぶやいた。


「彼のカード作れるかしら。」

「異世界人なら持っていなくてあたりまえですね。」

「え、あ、はいどうやらそのようです…?」


(んん~?何やら異世界人だと認められたんだがなぜだ。)


 首をかしげ考えても答えは出てこない。まあカードは作ってくれそうなので細かいことはきにしないようにする。


「ついてきなさい。」


 言われるままぞろぞろと5人で歩き出した。拓也の後ろには大柄の男が2名はりついている。はっきり言ってこわい。

 そのまま村の中を歩き一番奥にある建物の前についた。目の前の建物もそうだが村にあった建物は全部半球体の1階建てである。きっと何か理由があるのだろう。

 扉を開け中に入ってくそのうしろに続いて中にはいった。中に入ると小柄な少女はカウンターの中へと入っていった。そして拓也に向かって一言こういうのだった。


「ここへ来るのが初めてだそうで。こちらでカードの発行、その他施設利用について説明させてもらいます。」


 頭を下げにっこりと笑顔で対応をされ、さすがの拓也もこの態度の変化についていけなかった。


「説明ですか?」

「はい、そこのおばかよりは説明できますよ?」


 そこのおばか呼ばわりされたニューリアはまったく気にした様子はない。「終わったら呼んでー」と階段を下りていってしまった。


「えーと…お願いします?」

「じゃあまずはカードを作りましょう話しはそれからでいいですよね?」

「はい、どっちからでもいいです。」


 カウンターに近づきカードを作ることになった。手渡されたカードはニューリアが持っていたカードと違い透明感のあるものだった。


「そのカードを手のひらにのせて、上からも反対の手でおさえて。」


 いわれるまま両手で挟むとなんだかカードが少し熱を帯びているのか温かくなってきた。隙間から少し光も見えている。


「その光が消えたら手を開いていいわ。」


 少し待ってみると温度も光も消えた。そっと手のひらを開いて覗いて見る。そこにはニューリアに見せてもらったのと同じ作りをしたカードが出来ていた。


「あ…」


 カードに書かれている内容を確認してみる。



名前 藤村拓也

種族 人間族

年齢 14歳

性別 男

職業 学生

貯蓄 0円



(まあお金ないから見えてるけど0円なのはわかってた。)


 ちょっとばかりがっかりしつつカードが出来て嬉しいこともあった。魔力があるということがはっきりしたのだ。嬉しくないはずがない。カードを見ながらニヤニヤしていると小柄な女性が話しかけてきた。


「説明するけど聞かないの?」

「あ、きくきく!」


 少し怪訝な顔をしていたがちゃんと説明はしてくれるようだ。


「まずは何から話しましょうか…」


 そういうと小柄な少女はポツリポツリと語りだした。

 彼女が話した内容はこんな感じだ。

 

 この世界は魔力を使用した世界で拓也のいた世界は魔力をまったく使わなかった世界なんだそうだ。魔力の存在に気がつくきっかけについてはわからないそうだ。そのために科学的な発展はしていない。つまり電気などがないというわけである。すべて魔力で解決されているらしい。


 次に説明があったのはカードについて。基本お金を稼ぐには何かしら仕事を受けその成功報酬や途中で入手した物などをここで売りカードにその金額を登録するしかない。商人として店をかまえれば自分の店でも稼げるようになるがいきなり店を持つことはできないであろう。つまりここは職業斡旋所というわけだ。


 あとはここの名前が『金のなる木』という名称と小柄な女性の名前が『横井柚子』という名前くらいだ。


「そういえば猫人の進化ってどうしてあんな感じに?」

「くわしくはわからないけど魔力の影響じゃないかしら。先祖は猫だったみたよ?」


 気になっていた疑問が解けて少し満足した。他に聞くことがないか試案をしていると。


 ばたーーーんっ 

 どたどたどたどた。


 と、地下から誰かが駆け上がってきた。


「たいへーん。家になんかすごい衝撃が~~」


 ニューリアだ。かなりあわてているようだ。


「ど、どうしたんだ?」

「家にー何かがすごい力でぶつかってるのー」

「え、ちょっ、雫放置なんだけど!」


 そういうとニューリアは拓也の腕を引き急いで戻ることにした。説明をしてくれた彼女にお礼を言い損ねたがまたあとでいいだろう。2人は急ぎ丘を駆け上がっていくのであった。





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