表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の印税生活ー死者の原稿ー  作者: 明日香狂香
4/6

第3話 見える人(祐二の場合)

 官僚かんりょうエリートのちち専業主婦せんぎょうしゅふはは一流大学いちりゅうだいがくへいって国家公務員こっかこうむいん周囲しゅうい期待きたい一身いっしん背負せおった小学生しょうがくせいにとって、将来しょうらいにはなん希望きぼうもなかった。レールのかれた未来みらいおやのエゴをたすだけの道具どうぐ。そんなおもいがつのり成績せいせきはじめた。ははは、近所きんじょ手前てまえずかしいと怒鳴どなるが、勉強べんきょうおしえてくれるわけでもない。ちちかえりは、ほぼ午前様ごぜんさま。でも、さすがに一流国立大出身いちりゅうこくりつだいがくしゅっしんだけあってか、やすみのには勉強べんきょうおしえてくれた。もっとも、小学生しょうがくせいには高度こうどすぎる内容ないようで。資格至上主義しかくしじょうしゅぎ母親ははおや祐二ゆうじ小六しょうろくになると漢字検定かんじけんていきゅうらせた。彼女かのじょあかぼうおとうと公園こうえんれていっては、近所きんじょにそれとなく自慢じまんげにいふらしている。長男ちょうなんなのに祐二ゆうじ不思議ふしぎおもって、ちちたずねたことがある。成功せいこうには、いち努力どりょくうん必要ひつようだから、とこたえた。ゆうにはかみたすけという意味いみがあるらしい。

 祐二ゆうじ時折ときおりじゅくをさぼっては近所きんじょ老人ろうじんいえがっていた。すこしぼけた老婆ろうば一人ひとりらしている。祐二ゆうじのことを、はなれてらす息子むすこ勘違かんちがいすることもある。ただ、祐二ゆうじにとって老人ろうじん昔話むかしばなし新鮮しんせんだった。まずしい時代じだい苦労くろうしてきてきたはなしふるぼけた写真しゃしんながら、パイロットの資格しかくがあったばかりに零戦ぜろせんりとなり最期さいご特攻とっこう戦死せんししたつれそいをおもしてはなみだする老人ろうじん姿すがたは、どこかほっとするものがあった。ひとはいないもののそこには家族かぞくあたたかさやきづないまでもかんじられた。

 しかし、そんな老人ろうじんもやがては姿すがたした。どうやら、転倒てんとうしたさい骨折こっせつ悪化あっかし、入院先にゅういんさきからそのままどこかの施設しせつれられたらしい。自分じぶんおや素直すなお施設しせつはいるだろうか?おいぼれの面倒めんどうはみたくないなと祐二ゆうじおもうのだった。じゅくかえりにひさしぶりに、空家あきやになったその老婆ろうばいえまえとおりかかると、ぼんやりと青白あおじろひかりりガラスのこうにえた。

?」

 いえ間取まどりは熟知じゅくちしている。仏壇ぶつだんのある居間いまではなく、台所だいどころのほうだ。そこには特攻服姿とっこうふくすがた敬礼けいれいをする、戦死せんししたじいさんのおおきな似顔絵にがおえがあったはずだ。終戦後しゅうせんご遺骨いこつわりにおくられてきたものだそうだ。祐二ゆうじうらまわると、けたガラスのあなからなかのぞいた。たことの老人ろうじん一人ひとりまえっている。あかりがついてないのに、なか様子ようすえる。老人ろうじんからだまわりりがぼんやりとあおくひかっていた。

たな~。」


 祐二ゆうじ人生じんせいはじめてこしかした。ひと恐怖きょうふ本当ほんとうにちびるものなんだとはじめてった。その幽霊ゆうれい源二げんじだった。祐二ゆうじにとって未知みち幽霊ゆうれいじつ興味深きょうみぶかいものだった。おやらない世界せかいがある。それはすなわち、おや価値観かちかん絶対ぜったいではないということだ。祐二ゆうじにとって、退屈たいくつだった毎日まいにち一変いっぺんした。まえに、はじめて自分じぶんちからのぼれるやまあらわれた。山頂さんちょうにはどんな景色けしきひろがっているのだろう。かんがえただけで、わくわくしてくる。

 しかし、たのしいときはいつまでもつづかない。やがて、じゅくをさぼっていたことが両親りょうしんるところとなった。ひとは、やりたいことがあると集中力しゅうちゅうりょくすらしい。時間じかん使つかかた効率良こうりつよくなる。祐二ゆうじ成績せいせきがっていた。いかに、くちうるさい両親りょうしんでも文句もんくわないだろうと、たかをくくっていた。祐二ゆうじ希望きぼうは、すぐにくだかれた。エリートのちちは、

やくたないじゅくならやめてしまえ。」

 としずかにうだけだった。しかし、はは

はずずかしい、じゅくをさぼるなんて。不良ふりょうとかうわさになったらどうするの。」

 相変あいかわらず、世間体せけんていにしている。近寄ちかよりがたいちちだったが、ははよりも祐二ゆうじのことをわかってくれていたらしい。

 結局けっきょくじゅくへのおくむかえをははおこない、ちち許可きょかした人間以外にんげんいがいとは連絡れんらくがとれないようにタブレットに保護者制限ほごしゃせいげんをかけ、外出時がいしゅつじはタブレットのGPSで監視かんしすることでいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ