プロローグ2
「そんな……ばか…な………」
呆然と佇む男は、アドマルト・ガードレル。
聖光教会の聖騎士の一人である。
彼の眼前に広がっているのは、自分が率いていた者達が倒れ伏している光景だ。
「愚か者は果たしてどちらなのか…まぁ、それはあの世でたっぷりと考えるといい」
アドマルトを淡々と見ながら、死霊を率いていた少年、レイタはそう告げた。
「お、お前達、教会に楯突いて…ただで済むと思うなよ!!」
アドマルトの隣にいた司祭風の男が、声を高々に、しかし腰が引けた状態でそう叫んだ。
どこから聞いても捨て台詞にしか聞こえない、そんな台詞を。
「…いたんだ」
レイタは、呟いた。
「お偉いさんは残しとけって言ってたから、一応残したんだが。…いらなかったか?」
扇情的な姿の女戦士ソルダが、首を傾げながらそう聞いた。
彼女はレイタよりも頭一つ背が高く、しなやかで引き締まった身体を必要最低限の防具で覆っているだけで、その艶美な肉感を溢れさせていたのだが、軽く首を傾げるという動作が絶妙な可愛さを演出しており、レイタは周りの死屍累々の光景の中で、思わずほっこりとした気分を味わう。
「あーうん、いたらいたで、大丈夫」
「そうか」
レイタに、幾分動揺したような雰囲気を感じたソルダであったが、別段嫌な感じはしなかったので気にせずに二人の男に視線を戻し、それを鋭いものへと変えた。すると、雰囲気が少し和らいだかと若干気が抜けていた彼らだったが、それを受けてすぐさま自分達の置かれた状況を思い出した。
「それじゃ、そっちの司祭っぽい奴は教会への連絡係だな。で、お前は晒し首、と」
「な、なんだとっ!?舐めるなよ小僧がっ!!」
少年から聖騎士へと発せられたその台詞が、アドマルトにとってはあまりにも許し難いものであり、それは理性を超えて怒りのエネルギーと共に行動へと変換される。
ガギィンッ!
金属の衝突音が響き渡った。
「ば、ばかな…手掴みだと…!?」
鎧の腕が、聖騎士の斬撃を掴み取っていた。
「シド…剣を抜くまでも無いってか?」
首無し鎧が頷く。
「たかがデュラハンがぁっ!……ぐっ、放せぇっ!!」
アドマルトは掴まれた剣を引き抜こうと身体と腕を全力で振るが、剣は、その場所に固定されているかの如く、びくともしない。それはまるで、赤子が巨人を相手に力比べをしているかのような光景であった。
「うーん。これじゃあ訓練にもならないな。いいや、シド、斬って」
その言葉が終わるか終わらないかの刹那、アドマルトとシドの間の空気が揺らめいた。
ぼとり
「ひっへぇゃっあああ!?!?」
司祭風の男は、地面に落ちたそれと視線を交わして叫び出した。
「流石だねえ…あんたの剣筋は」
一方、ソルダは感嘆と賞賛の言葉を呟き、
「ぬわぁぁっ、く、首が落ちたのじゃぁぁ」
「あらぁ…綺麗に斬れましたね~」
レイタの後ろで成り行きを(強制的に)見守っていた少女とメイドは対称的に言葉を発した。
少女ことマリシャは、それを指差しながらメイドことメイコにしがみ付いている。そんな彼女達の姿は凄惨な現場にありながら、何故かほんわかした雰囲気を醸し出していた。
「なんか…こう、もっと引き締まった感じにしたかったんだけどなぁ」
腰を抜かして、情けない姿を晒す司祭風の男を眺めながら、レイタはこの結果へと至る過程を思い出していた。聖光教会へと、本格的な宣戦布告となる一戦のはずだったのだが、あまりにも一方的で、あまりにもあっさりと片付けられた兵士達。肝心要の聖騎士は、その神より授かりし力とやらを見る事も無く消えていった。万全の態勢を整えて臨んだにしては、それに見合った実感が希薄なのである。
「まっ、いいか。まだ始まったばかりだしな。それじゃ、町に行って飯にしよう」
「酒!酒を飲むぞ!!」
「お菓子がいいのじゃ!」
「…マリシャはなぁ…」
「な、よいではないか!?レイタはわらわに厳しすぎるのじゃ!もっと敬うべきなのじゃ!」
「…いやぁ…敬うとかはちょっと」
「レイタは辛辣に過ぎるのじゃ…」
「あらあら、よしよし」
メイコにあやされるマリシャを温かい目で見るという、ある種、日課のような事を終わらせて、レイタは動き出す。最終目標である、聖光教会を壊滅させる為に。
「たっぷりと利子を乗せてやるからな…」
それは、たった一人の少年と、数千の死者の群れが辿る道。
その道の後には、何が残るのか…
この後は過去の話から始まる予定です。
旅立ち、仲間集め、進攻。
どう進めるか…迷走中………




