目撃
恵一はまだ渋滞の中にいた。
前方は封鎖された道路、後方はまだ封鎖を知らない市民達の車
完全に嵌ってしまった。
パトカーを切り返そうにも周りの車が邪魔で身動き一つとれない
パトカーの赤色灯だけが虚しく光る。
こうなったらパトカーを置いて徒歩で移動するしかない。
「徒歩で移動しましょう。」
恵一は、浜田部長に提案する。
「パトカーは置いていけない。最後尾の車から順番に移動するよう言って来い。」
恵一は呆れていた。
この状況でまだ俺をこき使うのか。
深呼吸をして怒りを抑える。
「了解。」
恵一はパトカーを降り、渋滞の最後列へと歩き出した。
最後列目指して数分経った頃、恵一は突然後方から突き飛ばされ、危うく転ぶところだった。
体勢を立て直して振り返ると、汗だくの若い男が息を切らしながら立っていた。
「どけよ!」
男は恵一を押しのけて走り去って行った。
「なんだあいつ?」
恵一は首を傾げながら男が来た方向を見て驚愕した。
渋滞している列から群衆が押し寄せていたのだ。
まるで何かから逃げているように悲鳴をあげ無我夢中で走ってくる人々。
「あんた警察でしょ!」
体格の良いおばちゃんが声をかけてきた。
「出たのよ!ニュースでやってた傷害事件!何人もやられちゃって、アタシ命からがら逃げてきたのよ!アンタ鉄砲持ってんでしょ!?撃っちゃって逮捕してよ!」
そう言うとおばちゃんはまた悲鳴をあげながら逃げていった。
恵一は現場に向かおうとした。
しかし押し寄せる群衆に阻まれて前に進めない。
しびれを切らした恵一は目の前にあったバックドアにハシゴがついているワゴン車の上に登った。
渋滞の向こう側、押し寄せる群衆な先に恵一は地獄を見た。
車の上を四つん這いで走り、転がり落ちてもそのまま暴れまわる女、片腕がちぎれ、皮一つで繋がった状態で暴れる男。
逃げ惑う人間を殴り、馬乗りになり、噛みつく。
砂漠で見つけたオアシスで喉の渇きを潤す旅人のように、何日も食事にありつけなかった冒険家が食事にありつけたように、肉を食いちぎり血を飲む。
逃げ惑う群衆は恐怖と絶望に顔を歪ませ、我先にと他人を押し退けて走る。
押し退けられ、転んだ人は暴徒に容赦ない攻撃を受ける。
この光景が夢であってくれ、ドラマの撮影であってくれ。
恵一は、茫然と立ち尽くすしかなかった。




