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転生無双したけど、ドラゴン食わなきゃ死ぬ  作者: 南蛇井


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【第18話】 レイナの決意──“姉”としての戦い

──赤い警告灯が明滅し、重力が一瞬消える。

敬たちの足もとがぐらりと揺れた直後、空間そのものが段違いにねじれ――分断は、唐突に訪れた。


 


「敬――!」

呼び掛ける声が遠ざかるのと同時に、レイナとユーニの前後で光が弾ける。転移術式。刹那の浮遊感のあと、二人は金属臭の濃い回廊へ叩きつけられていた。


 


静寂。白い霧のような魔素が壁面から染み出し、視界を霞ませる。

ここは神喰域の心臓――中枢研究棟。その外縁部。


 


「……最悪、はぐれたわね」

レイナが膝を払いながら立ち上がる。頭上の自動灯が点き、通路の先、影の奥に人影が浮かんだ。


 


「歓迎しよう、旧弟子よ」

低い声。霧が割れ、黒衣の男が一歩踏み出す。白髪を後ろで束ねた精悍な面差し。

──収束官ヴェイル。喰竜派の戦術術理を統括する幹部であり、帝都術学府時代のレイナの師だった人物。


 


「どうして……あなたがここに」

レイナは息を詰める。かつて敬意を抱いた恩師。だが彼の背後には、血のように赤い神術紋が回転していた。


 


「君が探す“妹”の完成を見届けるためだよ」

ヴェイルは冷ややかに微笑む。

「ライラ・エルネア──L‑09は、私の手で“至高の適合体”へ昇華された。君はそれを否定しに来たのだろう?」


 


レイナの瞳に怒りが宿る。ユーニが魔術陣を構えつつ囁いた。

「レイナ、こいつ……術式の格が違う。慎重に」


 


「わたしは慎重よ。ただ――許さないだけ」

レイナはゆっくりと解体刀を抜いた。刃渡り三十センチの曲刀が、青白い火花を散らす。


 


ヴェイルは懐から収束杖を掲げた。まるで舞踏会のエスコートのように優雅な所作で。

「兵器として完成した魂を“姉”だなどと呼び戻すそれこそ、命への冒涜だ。さあ示せ、君の答えを――レイナ・エルネア」


 


紅と蒼の魔素が交差し、空気が悲鳴を上げる。

ここに“姉”と“師”の決別が始まった。


白銀の研究回廊に響く、ヴェイルの足音は静かだった。

だが、その一歩一歩がレイナの心を蝕むように重く響く。


 


「感情というのはね、レイナ。制御不能なノイズだ。神霊核の安定を最も阻害する要因でもある」

ヴェイルはまるで講義でも始めるような声色で、語りだした。


 


「だから私は排した。不要なものは、切り捨てる。ライラ・エルネアはその果てに生まれた理想形だ。

──君が否定しようとも、兵器としての完成度は変わらん」


 


「完成……?」

レイナの眉がわずかに動く。怒りを抑えきれぬ声で問う。

「それが“完成”だというなら、あなたは──人を、人として見ていない!」


 


ヴェイルは一瞬、目を細めた。憐れむような、あるいはそれ以上に冷たい眼差しで。

「君のような“未練”を抱く者には理解できまい。

私が造ったのは、揺るがぬ器だ。恐れも、迷いもない。君の妹は今、世界で最も美しい“無”だ」


 


その言葉に、レイナの視界が赤く染まった。

「……あなたが、あの子から“笑顔”を奪ったのね……!」


 


「笑顔? 感情表現など、術式的優位性に何の意味もない。

──それでも君は、“姉”として錯覚し続けるのか。哀れだな」


 


ヴェイルの言葉は、淡々としていた。そこに悪意も怒気もなかった。ただ、確信だけがあった。


 


だが、だからこそ──レイナは怒りを抑えられなかった。


「違う……! あの子は、笑っていた。わたしの手を、何度も握り返してくれた……!

あなたが何と言おうと──私は、ライラの“姉”だ! その絆だけは、誰にも壊させない!」


 


レイナの魔力が炸裂する。青白い火花をまとい、彼女の術式が幾重にも重なって空間を震わせた。


 


「あなたに、あの子の未来を語る資格なんてない!!」


 


ヴェイルの眉がわずかに跳ね上がる。

「……そうか。ならば、“姉”としての覚悟、見せてみるがいい」


 


静かに、そして確かに。

尊敬と信頼で結ばれていたかつての師弟は、今――対話の果てに、決別する。


中枢研究棟・外縁、熱を帯びる術式場――

灼熱の波動が弾けるように、レイナの神霊核が共鳴音を放つ。


 


「──神霊術、展開。緋焔障壁・セレフィナ」

レイナが叫ぶと同時に、彼女の背後に花弁のような六重陣が出現。

燃え盛る緋色の魔紋が空間を灼き、空気そのものが悲鳴を上げる。


 


「火属性術式を空間転移の干渉域で使うか……やはり“暴発的”だな」

ヴェイルは嘲るように呟くと、術式構築を起動。

彼の周囲には灰銀の構造式──抑制と計算による神霊抑圧術《収束構文・イラディア》が立ち現れる。


 


だがレイナは怯まない。


怒りは燃えている。

心を灼き尽くす炎が、今は彼女の力だ。


 


「あなたが何を語ろうと、わたしの“想い”まで塗り潰せると思わないで!」


 


ヴェイルが術式を解放すると同時に、空間が歪み、映像が投影された。


それは、冷たい実験室。

ライラが無表情でカプセルに閉じ込められ、神霊核を移植される光景だった。


 


「これは“事実”だ。君が拒もうとも、彼女はすでに“人間”ではない。感情の切除は完了している。

──君が求める妹は、もう“過去”にしか存在しない」


 


レイナの術式が揺らぐ──が、それは一瞬だった。


彼女は震える指先で、目の前の映像を指し示す。


 


「それでも……それでも、あの子は──耐えてた! 苦しんで、叫んで、心を閉ざすことでしか、生き延びられなかった!」


 


「それを、“完成”と呼ぶなら──私は、その完成を焼き尽くす!!」


 


レイナの緋焔が爆ぜ、抑圧術式を逆流させる。

術式の核をすり抜け、彼女の神霊核が“記憶”そのものに干渉し始める。


 


「私はあの子の“姉”よ。誰が否定しても、それだけは揺るがない!」


 


烈火の中、ヴェイルの抑制領域が崩れ落ちる。

彼の顔に、初めて“焦り”の色が浮かぶ。


 


──炎は、ただの力ではない。

それは“想い”の象徴。レイナが「姉」であるために、捧げるすべて。


 


この瞬間、主従も、師弟も、理論も、もう関係なかった。


 


――これは、姉としての戦いだ。


崩壊寸前の術式空間――赤い閃光が世界を裂く。


 


「最終式、解放──赫断(かくだん)!」


 


レイナの神霊核が猛然と輝きを放ち、空間そのものを焼き貫くように術式が開花する。

重なり合う魔術式が次々と再構成され、緋色の刃となってヴェイルの正面へと突き刺さる。


 


「っぐ──ぁああああッ!」


ヴェイルは反射的に防御術式を起動するが、赫断はそれすらも“根源”から切り裂いた。

彼の術式核が砕け、波打つ余波とともに身体ごと吹き飛ばされる。


 


戦闘は、終わった。


 


呻きながら崩れ落ちたヴェイルの瞳には、まだ消えぬ執念が宿っていた。


 


「……お前たちのような……“感情”に縋る愚者が……この世界を……導けるとでも──」


 


その言葉に、レイナは静かに首を振る。


 


「違うわ。導くんじゃない」


レイナは一歩、彼に歩み寄る。


 


「私たちは“繋ぎ直す”の。

 奪われた心を──壊された絆を。あなたたちが切り捨てた、想いという名の欠片を……もう一度、拾い上げるのよ」


 


ヴェイルの術式が完全に崩壊し、彼はついに沈黙する。

その瞬間、周囲に展開されていた結界制御術式が解除され、閉じていた空間が開放される。


 


──一筋の風が吹き抜ける。


 


遠くから、敬とユーニの声が近づいてくる。

レイナが振り返ったとき、二人が合流し、その姿に安堵の色が広がった。


 


だがその目の奥に、レイナの決意はなお燃えていた。


彼女は視線を上げる。

崩れかけた研究端末に、かすかに映し出されたライラの姿が、沈黙のままこちらを見ていた。


 


レイナは端末へと歩み寄り、そっと画面に触れるように指先を重ねる。


 


「──待ってて」


 


声は静かだったが、何よりも強く響いた。


 


「今度こそ、あなたを迎えに行く。

 姉として。

 ……たとえ、すべての罪を背負うことになっても──」


 


緋焔の残光が、彼女の後ろ姿を静かに照らし続けていた。

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