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転生無双したけど、ドラゴン食わなきゃ死ぬ  作者: 南蛇井


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【第11話】“喰竜派”上層、「七喰」の影

【起】喰竜派・本拠にて「七喰」会合

 そこは、地上の陽すら届かぬ世界。

 幾百の竜骨が積み上げられた大天蓋の下──《灰黒殿(かいこくでん)》と呼ばれる地下都市。


 魔素がよどみ、腐臭と鉄の匂いが混じるこの場所は、“喰竜派”と呼ばれる禁忌の組織の本拠だった。


 その最奥、石の祭壇を囲むように七つの影が集う。


 異能の象徴たる《神喰核(しんしょくかく)》に一部適合した者のみが名乗ることを許される称号──「七喰(しちくい)」。


 “喰う”ことに執着し、力を求め、神霊すら取り込もうとする狂者たち。


 その中心に、白銀の仮面をつけた男がいた。


「……《緑竜の涙晶》が動いたか」


 静かな声に反応するように、周囲の魔素がざわめいた。


 男の名は──銀喰(ぎんじき)。


 喰竜派において情報分析と実験記録の収集を一手に担う、“知”の喰い手である。


「観察対象K-03……彼が“共鳴契約”を成立させたとすれば、あの《神喰核》は予想以上に安定している」


「ほう? あのクズ餓鬼、まだ生きてたか……」

 獣のような低い嗤いとともに声を上げたのは──骸布をまとった巨漢、骨喰(こつじき)。


 彼は亡骸を喰らい、魂の断片や記憶を“再生”する異能の持ち主。


「殺さずに生かしたまま喰う方が、記憶の味は深くなる。……俺が拾った“緑竜の死骸”にも、妙な余熱が残ってやがった」


 骨喰の指が、真っ黒な骨片をまさぐる。そこにほんの僅かに残る魔素は、まさに先日の“森”のものだった。


「《神喰の儀(しんしょくのぎ)》を発動するなら、全ての神霊核を回収し、我ら七喰の中心に“本核”を構築せねばならぬ。緑竜の残響も例外ではない」


 銀喰は静かに端末を開く。幾百にも連なるファイル群。その中の一つを選び、虚空に投影した。


 そこに映し出されたのは、黒髪の少年──


 被験体番号:K-03

 氏名:記録抹消/旧実験施設〈祈核計画〉出身

 神霊核適合率:98.4%(異常)

 補足:記憶領域断絶。暴走経験あり。現在位置──幻獣領域・北界境


「この少年……“喰われる側”から“喰う側”へ、意識が変質してきている。だが、その根源はまだ不安定だ」


 銀喰は仮面の奥で目を細めた。


「我々の計画にとって、K-03は“鍵”になりうる。放ってはおけない」


 その時、柱の陰からひとつの影が現れた。


 燃えるような赤髪、仮面を持たぬ男──**焔角(えんかく)**である。


「ならば、次は……“緑竜”だな」


 静かに、けれど燃えるような声で焔角が言った。


「共鳴? いいだろう……ならば今度は、“断絶”を刻んでやる。繋がりを、喰い破るということを教えよう」


 赤き焔のような魔素を纏い、焔角は背を向けた。


「南だ。“竜骸の地”へ向かう」


 誰もそれを止めはしなかった。


 ただ銀喰が、ひとつ呟いただけだった。


「K-03……君は、誰かのために“喰らう”ことを選べるか?」


 七つの喰らう影が、再び静寂の中に溶けていった──。


【承】銀喰、敬の過去の実験記録に興味を持つ

 銀喰は、灰黒殿の最奥区画──情報記録室と呼ばれる球形の部屋にいた。


 無数の魔導端末が浮遊し、記録石や残骸から回収された情報が、静かに回転しながら網のように編まれている。


 彼の前には、一枚の立体映像。


 表示されているのは、断片的な記録データ。

 かつて存在した研究施設、《第八祈核管理区》における極秘実験の一つ──


 神霊核適合実験プロジェクト──通称、“祈核計画(きかくけいかく)”。


 その中の一項目が、銀喰の視線を引き寄せていた。


被験体コード:K-03

適合率:98.4%(暴走傾向あり)

拒絶反応:測定不能(理論上ゼロ)

適合核:特殊合成型 神霊核“繋”型試作一号機

備考:試験後、人格安定観察中/感情調整に課題あり


「……やはり、ただの実験体ではないな」


 銀喰の声は低く、冷ややかだった。


 彼の指先が魔導端末をなぞるたび、次々と追加の情報が呼び出されていく。


 被験体K-03──現在は“イツキ・ケイ”と名乗っている少年は、元々、拒絶率ゼロという前代未聞の適合体質を有していた。


 通常、神霊核との適合には強烈な魔素拒絶反応が伴う。

 だが敬には、その反応がまったく現れなかった。


「遺伝特異点……か。いや、単なる先天要素では説明がつかない」


 銀喰の視線が、映像の右端に揺らめく文字列に向けられる。


 “人格形成干渉実験──副次誘導施行ログ:K03”


「……誘導された人格形成……つまり“調整”された可能性がある、ということか」


 記録の多くは消失していた。

 数年前、“ある事件”によって祈核施設そのものが壊滅したためだ。


 記録には「暴走事故」「機能喪失」「実験体一部消失」とだけ曖昧に残されている。


 敬が自分の過去を思い出せないのも、その事件が原因か──あるいは、意図的な記憶封印か。


「適合率98パーセントを超え、“拒絶がない”。しかも人格調整の痕跡あり……」


 銀喰は思考を巡らせる。


「もし彼が、自覚のないまま神霊核の“母核”として調整されていたなら──」


 それは、喰竜派の計画──《神喰の儀》にとっても、核となり得る存在。


 強すぎる接続性。欠損した記憶。制御不能な飢え。


「すべてが、“誘導素因”として仕込まれていた可能性がある」


 銀喰は立ち上がり、思索を打ち切るように一つ息を吐いた。


「……ならば我々が行うべきは、彼の“起動”ではなく、“再調整”か」


 そのとき、端末の片隅に通知が灯った。


 ──《被験体K-03:幻獣領域にて魔素共鳴反応》

 ──《対応者:幻獣名ユーニ/契約確認》

 ──《感情同期率:異常値接近中》


 銀喰は仮面の奥で、かすかに笑みを浮かべた。


「面白くなってきたな。君はまだ、自分が“何を作られた存在”か知らない」


 冷たい光の中で、銀喰の瞳だけが妖しく揺れていた──。


【転】レイナの妹の名前が「実験体一覧」に登場

 銀喰は、記録室の一角に置かれた“封印端末”を起動させていた。


 これは、旧時代──祈核研究の初期において、**「生体番号」**で管理されていた被験体たちの情報が格納されている、アクセス制限付きのデータベースだ。


 全てを閲覧できるのは、七喰の中でもわずか数名。


 銀喰はその一人だった。


 薄い光の膜が部屋中に広がり、無数の名前と数字が浮かび上がる。


【祈核実験体リスト(抄)】


K-03 イツキ・ケイ 〈観察中〉

K-05 ナシロ・ヴァイン 〈廃棄済〉

L-02 ??? 〈機密指定〉

L-09 ライラ・エルネア 〈行動中/観測継続〉

……


 銀喰の目が、一点で止まる。


「……ライラ・エルネア。エルネア、か」


 指先で“L-09”のタグを展開すると、生体データの断片が連なって表示された。


 年齢、特異素質、適合率は記載なし。だが──


 その端に、微かに明滅する赤いコードが表示されている。


《生体コード:有効》

《状態:行動中》

《最終検出位置:南方・竜骸の地》

《断続的魔素反応:異常活性化傾向あり》


 銀喰は思案顔で顎に手をやった。


「生体コードが“動いている”……つまり、少なくとも死んではいない。いや、それどころか──」


 彼の脳裏に、数日前の報告がよぎる。


 南方方面──喰竜派の監視網で、微弱ながら**“神喰波形”に酷似した魔素の活動**が観測されていた。


 その反応の中心が、この“L-09”の識別信号と一致するのだ。


「なるほどな……」


 銀喰の口元に、僅かな曲線が浮かんだ。


「これは……“偶然”ではない。やはり、お前たちは“集まっていく”ように設計されているのか……」


 彼は再びK-03──敬の情報ファイルを呼び出し、L-09と照合する。


 二人の魔素波形が、ごく微細ながら“共鳴の兆し”を見せていた。


「イツキ・ケイ……そして、ライラ・エルネア……」


 銀喰は静かに口にした。


「──繋がる運命は、喰う意志に勝るのか。実に興味深い」


 その瞬間、端末にまた新たな報告が届く。


《焔角:南方への移動を開始》

《目的地:竜骸の地──“緑竜”関連遺構》

《備考:実験体L-09との接触可能性あり》


「……さて。ここからが本番だ」


 銀喰は仮面の奥で、薄く笑った。


 すべての因果が南方へと向かい始めていた。


 ──そこに待つのは、神霊核の原罪か。それとも、繋ぐ者たちの救いか。


【結】焔角、「次は“緑竜”だ」と動き出す → 南方へ

 会議の終盤。

 それまで一言も発さず、ただ背後の影に沈んでいた男が、歩み出た。


 ──焔角。


 喰竜派の実行部隊を率いる“獄焔の処刑者”。

 灼熱を喰らい、滅びの炎を纏う《七喰》の一人にして、最も苛烈な“破壊”の化身。


 その一歩に、床石が焦げ、空気が震えた。


「共鳴契約、だと……。戯言を」


 焔角は低く呟き、ただ一度、銀喰の端末に視線を落とす。


 そこには、K-03──敬が“共鳴”を果たしたと記された報告ログ。


「喰うために繋がる……か。ならば、次は“断絶”を見せねばなるまい」


 語るその声は、火山の底で揺れるような静謐さと、滾る殺意を孕んでいた。


「次の標的は、緑竜の“残響核”……」


 銀喰が淡々と続ける。


「“竜骸の地”に今も脈打つ原初魔素。共鳴を赦す幻想など──焼き尽くすには、ちょうどいい」


「……出る。準備は、要らん」


 焔角は肩を回すように一歩、踏みしめた。


 その足元に、炎の魔素が集まり始める。


 それは戦闘前の構えではない。ただ、“狩る者”が歩むだけの姿勢だった。


 ──ズ、と熱気が走る。


 一瞬にしてその場の空気が乾き、他の七喰すらも言葉を失う。


 彼の気配が消えた時、残されたのは、焦げた床の“焼印”だけ。


 南方──幻獣の森の向こうにある“竜骸の地”へ。


 そこに、焔角は向かった。


 そして、沈黙を破るように、銀喰が呟いた。


「K-03──イツキ・ケイ。君は、誰かを守るために……喰らうことができるのか?」


 問いかけは、誰にも届かない。


 だがそれは、やがて彼の運命を裂く“選択”の始まりだった。


 ──繋ぐか、喰らうか。

 それとも、その先の“意思”へ至るのか。


 炎と共鳴の狭間で、物語は次なる局面へ進み始める──。

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