天使たちのハロウィン
「おかあさーん! 羽つけてー! 羽ー!」
ハロウィンの日、私は背中に白い羽をつけてもらった。
近所の100均で買ってもらったやつだ。
ものすごい仮装は出来ないけれど、これだけでもいつもと違う自分の気分は味わえる。
ちょっぴり天使みたいだ。
あとは輪っかがあれば完璧だったんだけど。
「いってきまーす!」
「気を付けてね!」
せっかく仮装をしても、外に出なければ始まらない。
ちなみに友だちは誰も付き合ってはくれなかった。
仮装なんかして、外を歩くのは恥ずかしいんだって!
今日くらいはいいのに。
「あっ!」
外に出てうろうろしていたら、みつけてしまった。
「いいなー」
知らない女の子だったけど、思わず私はその子に向かって言ってしまった。
だって、あまりにも完璧だったから。
それに、仲間をみつけて嬉しかった。
ふわふわの白いワンピースに本物みたいな白い羽、それに頭の上には輪っかも付いている。
私なんか、いつもの小学校に行っているときと同じ服に、ただ羽をつけているだけだ。
一応、ちょっと可愛いスカートの服を選んではいるけれど全然違う。
それなのに、
「う、ひっく……」
女の子は泣いていた。
「どうしたの?」
私は駆け寄った。
「もしかして、迷子?」
私が聞くと、女の子はうなずいた。
「どこから来たの?」
尋ねてみても、女の子は泣いているだけだ。
女の子は私よりも小さい。
四年生の私よりも年下に見える。
一年生とか二年生くらいだろうか。
それにしても、こんな可愛い子が同じ学校にいたら顔くらい知っていそうなのに、見たことがない。
「家、どこかわかる?」
「わかんない」
女の子が首を振った。
女の子の声は、本物の天使みたいな声だった。
すごくかわいらしくて、ちょっぴり高くて、なんだか舌っ足らずだ。
「ね、私、一緒に家探してあげようか。歩いてればわかるかもしれないし」
「ありがとう!」
女の子がパッと顔を上げて笑った。
笑顔もやっぱり天使みたいだった。
私たちは手をつないで歩いた。
柔らかくて小さな手だ。
妹が出来たみたい。
天使の格好をした女の子は、周りをきょろきょろと見ていた。
しばらく歩いても、女の子は周りの景色に見覚えがないようだった。
「ちょっと休憩しようか」
私は女の子と公園のベンチに座った。
「もしかして引っ越してきたばっかりとか? それか、おばあちゃんの家に遊びに来たとか?」
「ううん」
女の子は首を横に振るばかりだ。
このまま家が見つからなかったらどうしよう。
なんて、不安になっていたら、
「あ!」
女の子が空を見上げて声を上げた。
「わー」
私も女の子の視線の先を見て、声を上げた。
「あれ、天使のはしごって言うんだよね」
雲の間から、光のビームみたいに太陽の光が差し込んでいる。
ああいう光のことを天使のはしごと呼ぶのを、前にどこかで聞いた。
「おむかえ、きたみたい!」
「え?」
「いっしょにさがしてくれて、ありがとう」
女の子はそう言うと、天使のはしごが出ている方へ走っていく。
「どこ行くの!? 待って待って!」
私の声を振り切って、女の子は走って行く。
私とまではぐれたら、あの子はもっと本格的な迷子になってしまう。
だけど、
「!!?」
私は声にならない声を上げた。
女の子は背中に付いた羽を羽ばたかせて、天使のはしごへと上っていった。
「え。えええええええ!? 飛んだ!?」
その姿は本物の天使だった。
「マジ、で?」
もうかなり上の方まで上がっていった女の子が振り返る。そして、私に向かって手を振った。
私も手を振り返す。
女の子が見えなくなるまで、私はぽかんと空を見上げていた。
「天使のはしごって本当なんだ……。レスキュー隊、的な?」
◇ ◇ ◇
家に帰ってから、お母さんに天使に会ったことを話しても、ハロウィンだからねーなんて軽く流されてしまった。
「同じ格好をしてる子と会えて良かったじゃない」
「そういうことじゃなくて、飛んでたんだってば!」
「へー」
ダメだ。
全然通じてない。
あまりにわかってくれないので、もう伝えるのは諦めることにした。
だけど、
「来年も天使の仮装してもいいかな」
私は聞いた。
「いいけど、そんなに気に入ったの? 羽つけるだけだから楽でいいけど」
お母さんは笑う。
そうじゃない。
言ってもきっとわかってくれないから、これ以上は言わないけど。
来年のハロウィンも天使の格好をしていたら、もしかしたらまたあの子に会えるかもしれない。
なんて、私は思うのだ。