老人との暮らし
一軒家の二階、壁に積み重ねられた書物が背を並べる書斎に、一匹の猫と一人の老心理師が住んでいました。猫の名前はシェルビー、心理師の名前はエルヴィン。エルヴィンは一日の大半を椅子に座って読書をし、残りの時間でシェルビーと会話を楽しんでいました。
ある日のこと。シェルビーはふと考えた。「自分はなぜ、毎日エルヴィンのもとで過ごすのだろう?」エルヴィンが読む本の内容はほとんど理解できず、外の世界で遊ぶほうが楽しいと感じていました。でもなぜか、エルヴィンのもとを離れられない。そんなことを考えていました。
そんなシェルビーの様子を見ていたエルヴィンは、微笑みながら「シェルビー、なにか悩みでもあるのか?」と尋ねました。シェルビーは正直に、外の世界への憧れとその無力感、それともとを離れることへの不安を話しました。
エルヴィンは一瞬考え、シェルビーのために物語を語り始めました。「昔々、ある王国に一匹の猫がいた。名前はアルフォンス。アルフォンスは宮廷猫で、毎日王のそばで過ごしていた。王が猫に与えられる最高の生活を提供してくれる。しかし、アルフォンスは自由を求め、宮廷を離れることを考えるようになった。
アルフォンスは夜毎、屋敷の窓から星空を眺め、広大な世界に思いを馳せた。しかし、翌朝になるとその夢は消え、アルフォンスは自分がどれだけ王に依存しているかを理解し、その思考を捨ててしまう。これを繰り返しているうちに、アルフォンスはその思考を遠くの星のように見て見ぬふりをするようになった。それはまるで、自分の心がその思考を窓の外に追い出してしまうようだった。
またある時は、アルフォンスが自由を求めることを全く忘れてしまうこともあった。自分が宮廷で過ごすことが全てであり、それ以外の選択肢が存在しないかのように思ってしまう。その時、アルフォンスの心はまるで鏡のようになり、自分の本当の感情を映さないようになった。
そして、最後にアルフォンスがしたことは、自分が自由を求めることを否定することだった。"私は自由を求めていない、私は王と共にいることが最高の幸せだ"と自分自身に語りかけ、自分の心の中にあるその望みを消し去ろうとした。
これらのことがすべて、アルフォンスが自分自身を守るための方法だった。それらは心が持つ防衛の砦のようなものだ。心は自分が傷つかないように、時には現実を見ないようにし、時には本当の感情を忘れ、時には自分自身を否定する。それら全てが、心が自分自身を守るための戦術なのだ。」
シェルビーはエルヴィンの話を黙って聞いていました。その話が自分自身についてのものだと理解していました。そして、その現実を受け入れることで、自分自身の感情に向き合う勇気が湧いてきました。シェルビーはエルヴィンに感謝の気持ちを伝え、エルヴィンも優しく微笑んでシェルビーを見つめました。
物語を通じて、エルヴィンはシェルビーにフロイトの防衛機制を教え、シェルビーは自分自身と向き合う勇気を得ることができました。それは二人の日常の中で繰り広げられる小さなドラマの一部であり、また深い学びの場でもありました。




