4 名前
「カレン ロンハートです。宜しくお願い致します。」
どうやらそれが彼女の名前らしい。
入学式後クラスの自己紹介が一人一人行われることになりそこで彼女の名前を知った。
中等部までは王族や上位貴族など人数が少なくほぼ同じメンツであったが、高等部からは地方貴族や庶民の中でも才に秀でている者が編入してくるため人数は大幅に増えてくる。
そのためお互いを知ろうということで行われた自己紹介制度のおかげであの黒髪の女生徒のことを少しだけ知れることができた。
ロンハート。あまり聞きなじみのない苗字だな。
高等部からの編入だから地方貴族だとは思うが。
あとでリリックに調べてもらおうかな。
なんてことを考えていると自分の番になったようだ。
「リアム モンドールです。顔見知りも多いけれど改めての人たちも、初めての人たちもこれからよろしくお願いします。」
フワリとした笑顔で自分の自己紹介をする。
女生徒たちは各自キラキラした目でこちらを見る。
彼女達がどのような目でこちらを見ているかは手に取るようにわかるさ。
「この学園にいる間はお互いの身分は関係ない。勉学に励みながらも周りの友人達と楽しく学園生活を過ごしてくれ。」
全員の自己紹介が終わり開口一番に担任教師が告げた。
この学園にいる間は身分にとらわれることなく各々が学びたいことをやって成長していく、というのが学園の理念らしい。
もちろん全く無視することは出来ないが、ある程度は多めにみてもらえるためそこから知り合いが増えて交流関係も増える。これから国の運営に携わっていく世代の横の繋がりが強くなれば国も盤石になっていくという国の狙いもあるみたいだ。
確かに社交界では身分相応の対応をしたりしなければならないがここではそこまで大袈裟なことはしなくてすむ。
つまり身分関係なく気軽に話しかけることができるのでより良い結婚相手が見つけられるということだ。
そう、キラキラした目をした彼女達は公爵夫人という魅惑的なポジションにつきたくてこちらを品定めしている。
幼少期から味わってきた好機の目線。
これで嫌にならずになれる人がいるなら教えて欲しいものさ。
とはいえ嫌な顔なんてしない。
次期公爵としてふさわしい振る舞いをしなければならない。
自分の本当の笑顔を忘れてしまうくらい笑顔を張り付けるのは息を吐くように上手にはなった。
あのキラキラした目の女子たちの相手がこれからまた始まるのかと憂鬱になっていると担任教師が次の話を始める。
「みんな委員会制度は知っているか?この学園は学生の自主性を高めるために生徒主体となって学園統治をしていく。まずはクラス委員から決めようか。希望のある人から挙手制で募りたいと思う。」
「はい!!」
先生の話に軽くかぶせながら手を挙げたのは上昇志向の高い伯爵家の子息だ。
委員になるとメリットもあるが面倒くさいこも増えるためあまりやりたがらない人が多い中で積極的に名乗り出てくれるのはとてもありがたい。
伯爵家の子息がクラス委員になったことによりここから教師ではなく彼が他の委員の選出を仕切っていく。
俺は学園後は公爵家の跡を継ぐ者として既に父から仕事を与えられていたり、社交の場に出たりするので放課後拘束される可能性の高い委員会には入れない。
という理由で今まではのらりくらりと逃げていた。
半分は本当で半分は面倒ごとは増やしたくないと言うのが本音。
やりたがらない生徒が多い中でもやる気の生徒もいるため各委員はもめることなく決まっていく。
伯爵子息の彼の仕切りも悪くない。自分で名乗り出るだけあって割と有能なのかもしれない。
「では次は図書委員を決めたいと思います。やりたい人は挙手をお願いします。」
「はい。」
静かな声と共にスッと手を上げる女生徒。
あの黒髪の女生徒、カレン ロンハート嬢だ。
「ええと、カレン ロンハートさんですね。ではお一人は彼女として、図書委員は2名です。他にやりたい方はいますか?」
誰も手を上げない。
図書委員は放課後に図書室の管理で時間をとられるためあまり人気がないみたいだ。
「誰もいないなら一旦次の委員を決めますね。」
次の委員決めに移行しようとした時。
「俺、やります。」
右手を高く上げる。
クラス中が自分に注目する。
まさか彼が名乗り出るなんて誰も思わなかっただろうから一様に驚いた顔をしながら。
みんなの視線を浴びてふと冷静になる。
あれ、俺、なんでやるなんて言ったんだろ。