3 意識
しばらく佇んでいた俺だが、鐘の音により入学式の時間が迫っていることに気付く。
慌てて入学式が行われるホールに向かう。
少し足早に歩いたせいか少し呼吸が早くなる。
入学式ホールの入り口近くに来た時、一人の女生徒が話しかけてくる。
「あ、あの。」
俺は思わず振り向く、もしかして、と心の片隅で自分でもよくわからない感情を込めて。
しかしそこにいたのは自分が思い描いていた人物ではなく、見知らぬ女生徒だった。
「モンドール公爵様。あの、その、か、肩に桜がついておりますよ。」
頬を染めながらうるんだ瞳で話しかけてくる。
「ああ、ありがとう。」
笑顔で答えるだけでその女生徒はキャーって声をあげながら友人達の中に戻っていった。
まあ、普通はああいう反応だよな。
いつもの自分に戻ったようで安心した。
さっきのはなんだったのか、考える間もなく入学生は入場して着席することになる。
俺は予定通り入学生代表スピーチをなんなくこなす。
元々の同級生が多いせいか、俺が代表生なのを納得の眼差しで見るものが多い。
編入性も公爵家という肩書、銀髪碧眼の見目麗しい容姿に見とれる者もいる。
またいつも通りの光景に自分の日常が始まるんだと思った。
別に不満なんてないさ。
周りのみんなのように日々一喜一憂したり感情を揺さぶられるようなことはないけど、その代わり心を病むような悪いことは起きないのだから。
スピーチ中、そんなくだらないことを考えながら俺はふと壇上から同級生を見渡す。
キラキラした色とりどりの目がこちらに視線を見上げる中、はっきりと黒い目がこちらを見ていた。
ここからでもはっきりわかる。どうしてだか、あの黒い色だけが俺の視界に色をつけたようにはっきり見えるんだ。
そしてスピーチを降りた俺は壇上を降りて自分の席に着席する。
壇上に登りやすように一番前の席に座っているため周りの様子は見えない。
学園長の長めの話も終え、無事入学式は終わりを告げた。
ここからクラス発表の紙をそれぞれ確認して、自分のクラスに移動することになる。
ここは貴族を養成する組織でもあるから、主人と従者の関係にある者は事前に申請すれば同じクラスになれる仕組みだ。
「これからまたよろしくな、リリック。」
「こちらこそよろしくお願いします。公爵様。」
「な、なにその嫌味っぽい言い方。」
俺は拗ねた感じで言い返す。
「急いで急ぎの仕事を終えて向かったのにどこにもいないから慌てただけなのでお気になさらないでください。ええ、いつものことですから。」
口角は上がっているのに目が笑っていない。
「ごめんごめん。気を付けるから許してよ。」
さすがに入学式前に声もかけずに校舎裏に行ったのはまずかったかな。
俺は従者を困らせてしまったことに少し反省しつつ自分の教室へと向かう。
教室の前に差し掛かると、校舎裏の桜並木で出会った黒髪黒目の女生徒と出くわす。
「あ。」
思わず声が出てしまった。
俺の声に反応してこちらを見上げてくる。
自分から声をかけておいて何も話さないのも良くないか、と意を決して今朝のことを話してみる。
「朝はありがとうございました。」
怪訝な顔でこちらを見る。
え、何か変なこと言ったか。
少し間をおいてから
「あー、桜を見ながらぼーっとしてた人ですね。いえいえお気になさらず。」
黒髪の女生徒はそう言い教室の中に姿を消していく。
女性からそんな風にさらっと対応されたことがなかったので驚いてしまう。
いや、その前に俺のことを話しかけられるまで忘れていた?
今までされたことない仕打ちに思考が停止する。
「リアム様?」
普段と違う様子にリリックは少し心配そうに話しかける。
そこにキャッキャと花が咲きそうな話声を上げながら女生徒たちが近づいてくる。
その中には入学式前に桜がついていたことを指摘してきた女生徒も交じっている。
俺はその集団の前に立ち、その女生徒に対して
「今朝はありがとう。」
と満面の笑みで話しかける。
「!!!!!!!」
その女生徒は声にならない声を張り上げる。
意識朦朧になる彼女を周りの友人たちがしっかりして!等話しかけている。
俺はその様子を見て満足げにその場を去って教室に入る。
怪訝な顔をしたリリックが後を付いてくる。
黒板には座席表が書いてあり、自分の席が一番後ろの窓側ということを確認して自分の席に向かい着席する。
従者のリリックはもちろん隣の席だ。
俺の着席に合わせてリリックも着席したのだが、そのタイミングで耳打ちするように小さい声でさっきのはなんだ、と俺を咎めるように話しかけてくる。
俺は教室内にある黒い髪をした後ろ姿を見ながら
「あれが正しい反応だよな。」
とひとり言のように答えるが、リリックは変わらず不思議そうに俺を見るばかりだ。
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