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第1話  ザルツ村の少年①

初投稿です。お楽しみいただけたら幸いです。

 第一話




 火が好きだった。

冬の到来にはまだ少し早い時期。日が沈むと寒いね、と少し大げさに震える僕をみて、母は苦笑しながら暖炉に火を付けてくれた。せっかく付けたのだからと、熱々のシチューを作ってくれる。

 ぐつぐつ、トントン。母の料理の音を聞きながら待っている間ふと思う。火を眺めながらくつろぐ時間は心が安らぐ。ストーブやエアコンなんて気の利いたものはないけれど、夢で見る世界と変わらない、ゆらゆらと揺らめく焔を見るのが好きだった。




 アストニア王国ローゼン領ザルツ村。王国内の北の北。何もない田舎の村だけど、恐ろしい魔物の住処である魔の森にほど近いこの村に住む人はみなたくましく、生きる力が強かった。




 村長のひとり息子として生まれた僕は、物心ついた時から変な夢を見る。

この村とは比べ物にならないくらい豊かな街で、平和に暮らしていく一人の男の物語。

夢を見始めた当初は夢と現実の違いが判らなくなって、変な言葉をしゃべっていたらしい。


「マークレイ、君は前世の記憶を持っている」


父があるとき僕にそう言った。


「みんなが忘れてしまった遠い遠い物語を、君は覚えているんだ」

「もし夢をみて怖くなったら、父さんと母さんに夢の話をしておくれ」


大きな手で頭をなでられながら、優しい瞳で見つめられたことで、ああ、大丈夫なんだと安心したのを覚えている。




 夕食のとき、布団にくるまっているとき、父と母に夢の光景を話しながら、僕は大きくなっていった。

村の人は家族みたいで、しかも変わった人たちばかりだったから、僕が時々夢で知ったことを話してしまってものけ者にされたりしなかった。

薬師のメアリばあさんは薬草の見分け方を教えてくれたし、寡黙な猟師のトムさんは兎のさばき方を教えてくれた。二つ年上のトーマは少し意地悪だったけれど、たまに魚釣りで競争するのは楽しかった。




 10歳にもなると、この記憶は神様からの贈り物で、両親や村のみんなが少しでもいい暮らしができるようにするための知恵だと思うようになっていた。だから僕は自分なりに夢の知識をかみ砕いて少しでも村の役に立てようと、村長である父と話をする。

年に一度の収穫祭である今日も、広場の中心のかがり火を見ながらそんなたわいもない話をしていた。


「護摩焚きっていうのがあるんだ。火を焚いて厄を払う儀式だよ。火には力があるんだ」


「そうだね。火は神様の象徴でもあり、生活に根差したものだ。時に寒さから私たちを守ってくれるし、時に草木を焼き払ってしまう。生活になくてはならない力であり、同時に恐ろしい力でもある。火は色々なことを私たちに教えてくれるからね」


 父は前世の記憶なんてものを持つ自分よりもずっと博識で、賢く、強く、優しい。父のようになりたいといつも思っていた。


 そんなことを考えながら轟轟と燃えるかかがり火を眺めていたら、けたたましい鐘の音が5回なった。鐘の音は魔物が来た合図。連続で5回なったのは初めてのことだ。

どんな意味だったろうと父に尋ねようとしたとき、見たこともない険しい顔で父は叫んでいた。


「魔物の群れが来る!皆は教会へ避難せよ!男衆は槍を持ちここへ集まれ!」


 浮かれた祭りの雰囲気は掻き消え、皆が慌ただしく走り出す。矢継ぎ早に指示を出している父の邪魔をしないよう、でも離れられず傍に立っていると母が走ってやってきた。


「ロラン!マークレイ!」


「アイシア。マークレイを頼む。教会へ行き、皆を落ち着かせてくれ。私は魔物を迎え撃つ」


母は不安げに目を揺らしながら、それでも気丈に答える。


「・・・わかりました。どうか気を付けて。私たちのことは心配しないで。マークレイとちゃんと避難して、あなたの無事を祈っています」


父は母と僕を抱き寄せてキスをすると、颯爽と踵を返す。

その時、民家の屋根の一つが大きな音を立てて崩れた。


「一匹早いのが行った!!すまない、頼む!」



男の大声とともに現れたのは、一匹の魔物だった。

普通より二回りは大きな狼だ。黒い毛は逆立ち、唸り声をあげながらよだれを垂らしている。目は血走り、赤黒く光っている。暗闇から這い出てきたような、恐ろしい獣がそこにいた。



誰も声が出せない。先ほどまでの喧騒は嘘のように異様な静寂が場を支配した。

ゆっくりと周囲を伺う魔物。餌を吟味するようなその貌はニヤリと笑っているようにも見える。誰もが死を覚悟したその時、シャラン、と剣を抜く音がした。


「父さんっ!!」


父が剣を片手に悠然と魔物に向かって歩いていく。自分に歯向かってくる姿が気に食わなかったのか、魔物はひときわ大きな唸り声をあげてから、父に狙いを定めた。


あれは人間がかなう相手じゃない!ましてや剣一本でなんて不可能だ。少なくとも銃がいる!


僕はいてもたってもいられず再び叫んだ。


「父さんっっ!!」


「下がっていなさい」


父は静かにそう言うと剣を構えた。

魔物が目にもとまらぬ速さで飛び出してきたのはかろうじて認識できたが、そのあとは何が起こったのかわからなかった。

気が付けばあんなに恐ろしかった魔物は地に倒れ、ピクリとも動かない。

すぐそばには剣を振り上げた格好の父。よく見れば体がうっすらと青く輝いているように見える。

父は一刀のもとに魔物を切り伏せていた。


本物の英雄がそこにいた。


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