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07

――国境(こっきょう)を越えてデュランフォード国の領地(りょうち)へと入り、馬車を降りたシグリーズとアルヴ。


すでに陽が落ちているのもあって、今夜は降りた街で宿を探すことにする。


現在シグリーズたちがいる街からならば、歩いて数十分で行けるところにデュランフォード国の城があるが、さすがに夜に訪問(ほうもん)するのは不味(まず)いと思ったのだ。


「誰も歩いてないね。まるでゴーストタウンみたい」


「そうだね。これは宿屋がやっているか不安になるな」


さすがに戦争中というのもあってか、街は静まり返っていた。


明かり一つ付いている家はなく、人がいる気配もない。


これは最悪、野宿を覚悟しなければいけないなと、シグリーズが思っていると、松明(たいまつ)を持った集団が前から歩いてくる。


見回りだろうか。


シグリーズは変に無視するのも怪しまれると思い、自分から集団に声をかけた。


「すみません。ちょっとお(たず)ねしたいことがあるのですが」


「貴様、見ない顔だな。ひょっとしてよそ者か。この街で一体何をしている?」


集団の姿は腰には剣、頭には(かぶと)と、兵士だとわかる格好をしていた。


やはり見回りかと思ったシグリーズは、自分がこの国を治めるラース·デュランフォードから、仕事の依頼を受けたことを伝える。


ドルテが渡してくれた手紙を兵士の一人に見せ、自分がシグリーズ·ウェーグナーという個人で活動している傭兵であることを話した。


兵士たち(いぶか)()そうな目つきをしていた。


だが、手紙にデュランフォード家の印章(いんしょう)を確認すると、すぐに街を出て城へ向かうように言ってくる。


「えぇッ!? こっちはお腹ペコペコなのに歩かせるつもりなの!?」


(だま)っていたアルヴが思わず声を張り上げた。


いきなり聞こえてきた少女の声に、兵士はビクッと身を震わせると、辺りを警戒し始める。


彼らには妖精であるアルヴの姿は見えないが、声は聞こえたようだ。


当然、声が聞こえれば驚きもする。


「えーと、今の声は私です……」


シグリーズは(うそ)をついた。


だが、これが一番問題が起きない回答だ。


別に説明してもよかったが、自国に妖精を連れた傭兵が現れたとなると、余計な警戒心を(いだ)かせてしまうかもしれない。


「なに? さっきのは女の声に聞こえたが」


「いや、あの私……こう見えても女なんで……」


あきらめ顔で答えたシグリーズを見て、兵士は言葉に()まっていた。


その兵士の後ろからは、「言われてみれば確かに」「よく見ると女だな」とヒソヒソと男たちの声が聞こえてくる。


声が低い。


髪が短い。


体のおうとつが目立たない。


三拍子(さんびょうし)そろっている自分なのだから、そう思われても仕方がない――。


シグリーズは心の中で泣きながら、自分のことを女だと納得した兵士たちに乾いた笑みを返していた。


そんな彼女の肩では、アルヴがムスッと不機嫌そうにしている。


彼女は兵士たちがシグリーズを(うたが)ったことと、休みなく城へ行かせようとすることに納得がいかないといった様子だ。


「あの、できれば城へ行かなければいけない理由を知りたいのですけど。それと、この街に人の気配がないのも教えてほしいです」


低姿勢(ていしせい)で訊ねたシグリーズだったが。


兵士たちは何やら落ち着きがなさそうにしていて、城へ行ってもらえればわかると丁寧(ていねい)に答えると、道だけを教えてすぐに去っていってしまった。


残されたシグリーズとアルヴは、兵士の話からして現在この街に宿がないと思い、泣く泣く城へ向かうことにする。


「うぅ……お腹すいたよぉ……」


シグリーズの頭の上でぐでっと倒れるアルヴ。


まさかこんな目に()うなど思ってもいなかったせいか、今にも餓死(がし)しそうな声で(うめ)いていた。


もはや先ほどの兵士たちの文句を言う気力もない。


「もうちょっとだからね。ほら、暗くて見づらいけど、城っぽいものが見えてきたよ」


「あぁ……シグリーズ……。どうやらあたしの旅はここまでみたい……。もっと……いろんな国のお酒と料理を味わってみたかったなぁ……。今までありがとうねぇ……ガク」


「晩ご飯が遅くなったくらいで死んだふりするのやめな」


アルヴは死ぬほどではないにしても、もう限界だった。


一方でシグリーズはそんな妖精を放っておき、ついに城に到着する。


「ほら、着いたよ、アルヴ」


「へー、これがラースのお城かぁ」


時間も時間なのでもちろん城門は閉じていた。


城壁は高く、たくさんの塔やいくつかの館がそびえ、この城がまことに堅牢であることがわかる立派な(つく)りだ。


大きさからして城下町も中にありそうで、先ほどの街の住民たちは皆、城の内部に移動しているのかもしれないと、シグリーズは思った。


「こんな夜更けに何者だ!?」


彼女たちがしばらく(ほう)けていると、城門の上にある側塔(そくとう)から男の声が聞こえてきた。


シグリーズはすぐに自分が怪しい者ではないと伝え、ラースからの手紙もあると、街で兵士たちにした対応と同じことをすると――。


「本当にシグリーズ·ウェーグナー殿(どの)でありますか!? これは失礼なことをした! 確認をした上で中に入っていただくので、しばしお待ちを!」


「いや、別に急がなくていいですよ。こんな時間に開けてもらおうしているこっちが悪いですし」


「そういうわけにはいきません! 急ぎますので、少しの間だけお待ちください!」


何やら随分(ずいぶん)と慌てていた見張りの兵士。


シグリーズはそんな彼に違和感(いわかん)を覚えながらも、すぐに城門が開いたので城の中へと歩を進めた。

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