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04

――バヴィンフィールドとストーンクリーク二人との宴'(うたげ)は、数時間で終わった。


正確にはシグリーズが用事があるといって、途中で店を出た。


帰ると言った彼女に、バヴィンフィールドとストーンクリークは特に気にしていなかったが、去り際に「傭兵は大変だな、貧乏暇なしで」と皮肉をぶつけた。


それでもシグリーズは、最後まで彼らに言い返すことはしなかった。


彼女は今、夕日でオレンジ色に染まった街中を肩に乗っているアルヴと歩いている。


「あいつらマジでムカつく!」


アルヴは一人怒り狂っていた。


酒の力も手伝ってか、いつも以上に感情的になっている。


シグリーズが何も言い返さなかったのも彼女が怒っていることに拍車をかけていたが、バヴィンフィールドとストーンクリークのような人間は別にめずらしくもない。


夢破れ、パーティーの解散後にまだつるんでいるような冒険者は少ない。


それぞれ今後の生活の立て直しに忙しいのもあるが、余程気が合うか、または旅の締め方が良くなければ一緒になどいれない。


シグリーズたちのパーティーは、一応解散後に互いの労いを含めた宴を開いた。


だがバヴィンフィールドは姉が遊びに来ていると断り、パレスインターのほうは突然妻が体調を崩してしまい、参加しなかった。


仲間を出し抜いて一人だけ魔王軍との戦いに参加していたメランタイニーに関しては、声こそかけてみたものの、丁寧に嫌味たっぷりの手紙を送り返されてしまう。


そのときすでに騎士へと出世したメランタイニーにとって、もはやシグリーズたちは仲間ではなかったのだ。


結局、解散の宴はシグリーズとストーンクリークだけとなったのもあって、他の冒険者パーティーと合同で宴をやった。


その話からわかるが、当然パーティーメンバーの仲は良好とはいえない。


何度も一緒に死線をくぐり抜けた仲間であっても、その過程も結果も誇るべきところがなければ、互いに顔を合わせても無意味に苛立つだけだ。


それでもバヴィンフィールドとストーンクリーク二人が同じ職場で働いているところを見るに、彼らは考え方や気が合うのだろう。


バヴィンフィールドとストーンクリーク二人としては、シグリーズを自分たちのような安定した仕事に就かせてやりたいといった考えがあったのかもしれない。


しかし、シグリーズ本人はそれを望んではいない。


だからこそ不安定ながらも、冒険者時代に(つちか)った経験が()きる傭兵をやっているのだが、彼らからすればそれは夢を捨てきれない(みじ)めな姿に見えたようだ。


「ちょっとシグリーズ! もう二度とあいつらと飲むなんてやめなよ! 今日はなんとか抑えたけど、次にあいつらの顔見たら頭がどうにかなっちゃう!」


アルヴが地団駄(じだんだ)を踏みながら(わめ)いていると、シグリーズは笑みを見せていた。


「はいはい」とでも言いたそうな顔をしているが、その微笑みからは、自分の代わりに怒ってくれる妖精に救われている部分が見てとれる。


シグリーズとしては、今回の集まりで再び仲間との(つな)がりを求めていたところがあった。


だが、考え方の違いや過去の遺恨(いこん)から結果は散々だったものの、アルヴのように自分の味方がまだいてくれることを彼女は喜んでいた。


たとえ世間的に間違っていても、自分は旅を続けていたい。


他人から見たら幸せに映らなくても、望んでもない仕事に就き、生活のためだけに働くことはしたくない。


子供のわがまま――。


大人になれない――。


現実から逃げているだけだということはわかっている。


しかし、もはやこの生き方を変えられないのだ。


それがシグリーズの気持ちだったが、バヴィンフィールドとストーンクリーク二人には理解できないことだった。


まともな感性を持っていれば、彼らと同じように考えるとは思う。


誰も好き(この)んで、収入が不安定で賃金が低い仕事など選ばない。


結婚だってしたいだろうし、子供だって作って家庭を築きたい。


さらにシグリーズはもう二十八歳だ。


世間的には若くとも女としては若くない。


そろそろ婚姻(こういん)の相手を探さねば嫁の(もら)い手がなくなるのも事実。


正しいとされるのは、バヴィンフィールドとストーンクリークの意見だということは、シグリーズにもわかっている。


「これはもう飲み直しだよ、飲み直し! 宿に戻ったら浴びるように飲んでやる!」


「あーごめん……。今日はなんか疲れちゃった。早いけどドルテの店に戻ったら、もう寝るよ」


シグリーズが口にしたドルテとは、二人が寝泊まりしている宿と酒場が一緒になっている店のことだ。


その店の名はドルテの酒場と言い、魔王が討伐された後に(すた)れたギルド文化に変わって冒険者だった者たちが多く集まっているところでもある。


シグリーズもまた、カンディビアの中央から出る仕事がなければ、基本的にはドルテの酒場を利用していた。


「そう。じゃあ、私はドルテと飲んでるから、眠れないようだったら降りてきてね」


アルヴは、微笑みを返すシグリーズを見て思う。


どうして人は他人の生き方を強制しようとするのだろう。


どうして皆同じじゃないと排除しようとするのだろう。


被害があるならまだわかる。


別に何かされるわけじゃないのに攻撃する。


放っておけばいいだけなのに、どうしてそんなことをするんだろう。


シグリーズと旅に出てからもう十年は経つ――。


これまで世界中を見てきたアルヴは、魔物よりも人間のほうが危険な生き物だと思うようになっていた。

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