第〇話
記念すべき第〇話です
次回以降はこれの5倍以上の字数になると思います。
今後ともよろしくお願い致します。
第〇話 〜鬼神が如く〜
臥白りゅう
ただ一つの夢のために、少年は天下を相手にする。
城壁から外を眺める。そこはこれでもか、というほどの軍馬で覆われていた。相手は精鋭部隊をいくつか追加したという。しかし、彼はとっくに決心していた。この大軍を破り、父の仇を討つ。再び乱世を訪れさせる、と。天下をほとんど手中に収めた烝国の大軍、何ほどのことがあろう。しかも長く落とせなかったこの城を落とし、天下統一という凱旋をこの場で上げるために、烝国の若き皇帝、善徳も総大将として敵軍中に君臨しているという。幾度の戦いの中で、彼はこの機会をうかがっていた。一撃にて、戦局を覆すには、総大将を討つしかない。実質父の仇でもある善徳を。
「烝国天下統一まで一戦!真天灯、一番乗りは貰い受けたぁ!」
炎々とした空の中、烝の精鋭騎馬隊が南門を落とした。烝の六大将軍と称えられる六人の名将の一人、真通が城門をくぐり抜けたその時、今まで勢いのなかった城内の敵中から一つの矢が真通に向かって飛んできた。普通の矢なら、歴戦でありながら若き将軍、真通がかわせなかったはずはなかったであろう。ただ、その矢の速度は尋常ではなかった。真通がやっと反応し、矢の飛んできた方向を振り返るも、矢は眼球、そして後頭部までを貫通した。断末魔を上げる間もなく、真通は討ち取られた。落馬した真通を見て、真通の兄、そして六代将軍の一人真基が驚愕する。流れ矢ではない、執念を込めて刺さった矢を見て、背筋に冷たいものを感じ、周囲を確認する。
「真通、天下統一を目前にして、なんたることか・・・」
呟きながら、矢を放った相手を探す。しかし、周囲は雑兵しかいない。よくこの装備でここまで持ち堪えてるな。そう驚きながら、周囲の敵を蹴散らす。その一瞬だった。二つ目の矢も狙い通り、真基の頭部を貫通した。常勝であった烝の精鋭騎馬隊の兵士たちに動揺が走る。大将二人が即座に討ち取られたことへの動揺だ。後から城内へ雪崩れ込もうとしていた本軍へもその動揺は伝わった。烝国随一の軍師、孔融が早くもそれを悟る。
「ここは一旦退いて、整えるべきです。敵軍少数ながら策があった模様です。」
善徳は頷き、退き銅鑼を打たせた。
我、機を得たり。少年は思わず呟く。先に二将を射止めた弓を投げ捨て、使い慣れた剣を手に、城外へ飛び出した。混乱した烝の騎馬隊には目もくれず、本軍へ向かって、駆ける。さすがは大国烝の皇帝直属部隊、歩兵一人一人の強さが尋常ではない。だが、彼は姿勢を低くし、剣で人と武器を薙ぎ払いながら、目的に向かってまっしぐらに突撃する。城内の残兵全員がそれに呼応し、遅れて雪崩出た音がした。その時、左右から挟まれるも、一振りで仕留める。すかさず頭部に向かって伸びてきた、先がうねった武器、蛇矛を避け、正面から顔面へ剣を突き刺す。彼は意識してなかったが、その時討ち取ったのは六代将軍の一人、張定であった。張定の顔面から剣を抜き取ると共に、背後の三名を斬り、一瞬のひるんだ隙にまた前進した。見えたっ近いっ、と思わずつぶやく。
「な、何者だ。」
善徳は振り返りながら思わず叫ぶ。
「我こそは・・」「うぬ、我が名は・・」「それがしの武を・・・」
配下の武将たちは名乗ることもできず、バタバタと倒れていく。そしてふと、ある男の言葉を思い出す。(日は昇り、いつか落つる。月もまた、そうである。これ全て自然のことわり。背けるのは鬼神の類のみよ)そう言って、男は不敵に笑った。今まさに、一人の少年によって、善徳という日は落ちようとしていた。
「鬼神か・・? まさかな。」
世の皮肉への苦笑か、志半ばで終わる自らへの嘲笑か。善徳は死を笑顔で受け入れた。
斬った。父の仇を斬った。少年は笑顔になる。敵の動揺を身に感じ、周りを包囲する数十名の兵士を順番に片づける。そして右腕を空へ向かって突き上げ叫んだ。
「烝国皇帝、善徳を討ち取ったぁ!早々に武器を捨て、降伏せよ!」
その声が戦場に響き渡る。烝の全兵士が心を合わせ、少年を包めば、あるいは討てたかもしれない。だが、烝の士気はそれどころではなかった。善徳の統率力が優れていただけに、それに依存した戦いをしてきたことの代償だった。城内の数百の残兵に対して、数十万の兵が侵攻するも降伏した部隊を除き、ほとんどが敗走した。
ふと、少年は西方を見る。赤き夕焼けを作り出しながら、日は落つる。戦は一度では終わらない。ここから乱世に突入し、連戦また連戦になるだろう。ふと、彼は笑みを浮かべた。今は凱旋をあげよう、ひとまず今は数ヶ月にわたる籠城の疲れを癒す時だ。少年は戦場を後にした。
壮絶な戦いへの幕開けです!
作品の様子がわかっていただけると嬉しいです